7話ー思惑
「ハーミッド伯も使えんな、全く。」
ヴェスタ公爵は顔を歪めてそう吐き捨てた。
甘ったるい香の焚かれた公爵の寝室は、小さなランプがそこかしこに置かれて、いかがわしい雰囲気だ。
カウチに座った公爵のそばには、扇情的な薄い衣を身に纏った女が3人。
酌をし、身を寄せて、公爵の機嫌を取っている。
「やだ、怒らないで公爵様。」
公爵は機嫌が悪かった。
ハーミッド伯爵の失態のせいだ。あのワイバーンのことは、このタイミングで露見すべきでは無かった。これでは王宮に嫌疑をかけるのも難しければ、それほど被害も出ないだろう。王太子の第一妃の失脚も遠のいたことになる。
しかも夜会であの屈辱。
世の中を知らない青二才が大きな顔をしたのも気に入らない。
「あの若造が。」
ヴェスタ公爵がわざわざエスターニュ次期侯爵に声をかけたのには、理由があった。計画の破綻を受け、べネスティからは別の要求が来たのだ。
「べネスティの使者も気が触れている。あんな天恵持ちが欲しいだなどと…」
鼻を鳴らして、公爵は隣へ座る女の太ももへ指を這わせた。かん高い嬌声がその指を咎める。
あの若造の協力を取り付けろだとか、化け物女を寄越せだとか、野蛮な北の国の考えることは良くわからない。
だが、引き渡せばべネスティからの交易品の原価を引き下げるという。王家に知られぬままその密約が交わせれば、差額が全部懐に入る。ヴェスタは大儲けだ。
べネスティからすれば、化け物が女であるというのは、どうも都合のいいことのようだった。男と違って、嫁、という品物は家から離して取り引きすることが出来るからだ。
「大人しく従うなら、穏便に済ませてやろうと思ったものをなぁ…」
「なんのお話し?」
「いいや、口程にもないさ。」
しなだれかかってきた柔らかな肢体に、公爵は満足げに口角を上げる。
上手く手懐けられればと思っていたが、気が変わった。夜会での屈辱を思い出せば、喉の奥に苦いものが広がる。
そもそも、あの化け物が野放しになっているのが悪い。さすが、あの出来の悪い王家のやりそうなことだ。
べネスティへ引き渡し、化け物が檻の中へ捕獲されるのを見れば、この溜飲も下がろうというものだ。
第一妃の失脚は、また改めて考えれば良い。
いっそ殺してしまえればいいが、それは難しいのが悩ましい。
公爵は酒瓶を傾けた女の手を遮った。
「もういい。」
腰を抱えてベッドを示せば、女たちが嬉しそうに鳴く。
侍らせた女と共に褥になだれ込みながら、ことは簡単に進むに違いないと夢想した。
自分に賛同する貴族たちはあれだけいるのだ。何をするにせよ、それをもみ消すにせよ、簡単に出来るのだから。




