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9月27日①

 私たちが住む、ここY市は一言でいうと「いつのまにか時代に取り残された街」という印象だ。突然何を言い出すか、というと、何という訳でもなくただ“何となく”紹介してみたくなっただけだ。

 Y市は半島に位置していて、東と南側が海に面している。19世紀中頃には、国防上の地理的な要所として、20世紀には戦後、アメリカ軍駐屯地としてそれぞれ発展してきた。今日(こんにち)のいわゆる「海の街」としての印象は、東側の発展と共に古くから培われてきたらしい。

 西側は標高100~200mほどの山々に覆われていて、大きな幹線道路が通っている以外にも小さな牧場やバーベキュー場やアスレチック施設といった、ちょっとしたアウトドアレジャーが楽しめる。

 人口は大体40万人ほど――その多くが沿岸部に住んでおり、自動車や輸送用機械製造が主な産業。

 ――以上、ネットで出てきた情報ななめ読み。


 私はこの日最後の授業である化学の授業の最中、その難解さがピークに達したであろう辺りから、このような情報をこそこそスマホで調べていた。一応弁明すると、最初は、昨日聴いた地方局『FMKブルー』の会社の所在地と問い合わせ先を、調べていたに過ぎなかったはずだった。いくつかのサイトを巡るうちにいつの間にか止まらなくなってしまっていた。ただそれだけ。


 今日の帰りは、サキちゃんも一緒だった。彼女はいつも朗らかで、その歩き方も、一種の憧れを抱くような軽やかな足取りを維持していた。サキちゃんが歩を進める度に、彼女の長い金髪が軽快に左右する。おまけに身長も高めでスタイルも大分良い。比較されると泣きたくなってくる。

 おまけにコミュ力も高い。誰とでも5分あれば、ある程度仲良くなれる。事実、隣のクラスでは超人気者だった。そして、明るい。私とケイの一番テンションが高い瞬間を切り取って足しても、まだ及ばないくらいのテンションを常に維持している--もっとも、二人のテンションの高さは“お察し”レベルであるという前提はあるけど。

 昨日の話題だって何気なく振って来たけれど、私たちに合わせた“笑い”を吟味して紹介してくれていたに違いない。私は流行りものに割と疎いし、特にケイは印象通りちゃんとひねくれているから、メジャー所のエンタメを持ってきても、そのねじりにねじれた心の琴線は微動だにしないだろう――かなしいかな、そして私もそれに近い感性を持っている。

 どうして私たちみたいな、地味一辺倒な人間と一緒にいたがるのか、初めのうちはさっぱり分からなかった。からかわれているのか、あるいは何かの罰ゲームだったのか、そんな類の淀んだ想像しか頭に浮かんでこなかった。それはお互い口にこそ出さなかったが、ケイもおよそ同じ意見だった。


 それについてはある時、ケイが問いただしてみたことがあった。あれは6月の事だった。一日続いた雨が止んだ帰り道、曇り空の下でサキちゃんから話題を振られたケイが、珍しく少しイライラしながら言った。

「サキってさ、何で私たちと一緒にいるのさ?」

 サキちゃんは一瞬、何を言われたのか分からないようで、きょとんとした表情を浮かべた。それからようやく話が飲み込めたのか、完全な無表情になった。ケイが続ける。

「――いやさ、前から思ってた事の積み重ねだから、結構理不尽な事言ってるし、性格悪くない? ――なんて思ってもいるけど、あえてこの際聞くんだけど。普通さ、クラスのメインコンテンツみたいな人がこんなモブ全開の二人組に絡まなくね?」

 彼女は言いながらも、段々表情が曇っていく(最初から曇っているだろう、というのは置いといて)。『言ってしまった』、あるいは『言ってやったぞ』なのかどちらかは分からないが、申し訳無さそうな表情にも見えた。

「からかって遊んでるから!」

 サキちゃんは目を細めて、間髪入れずにそう応えた。

「からかって、色々話を引き出して、それから1年2組にそれを持ち帰って、また皆でからかって遊ぶの! 素人がドヤ顔で焼いた壺の品評会みたいに」

 私たちは彼女の方を見ながら、『曲者の正体見たり!』といった顔つきで続く言葉を待った。

「――っていう冗談でこのままいこうと思ったけど、あんまし面白くなさそうだからやめるね」

 私たちは二人揃って、空想上の鞘に手をかけながら話を聞いていた。

「楽しいから。二人といると楽しいし、クラスの皆の誰といるより、面白いから!」

 それだけ! と彼女は満面の笑みを浮かべた。

 それからすぐに同時に2つのことが起きた。まず降り止んでいた雨がまた降り出した。次に、正体不明の嗚咽を漏らしながら号泣するサキちゃんが現れた。正体見たり。

 ケイはあたふたと戸惑いながらも、すぐに自分の傘を広げてサキちゃんの上に持っていった。次第に強くなる雨足を見て私はあわててケイの上に傘をやる。傍目からだとよく分からない、状況不明な団子の構図が出来上がった。それから風が突然強くなり、横殴りの雨に変わった。


 サキちゃんは号泣を続けた。雨と風で良く分からないが、涙と鼻水と風と雨とで顔がぐちゃぐちゃになりながらも、律儀に足は家路を急いでいた。

 ケイは念仏のように終始謝り続けながら、何度もその小さな体を風に吹き飛ばされそうになりつつ、傘を差し続けた。

 私はというと、自分が思っていた事や起きてしまった事を、全て傍観者で終わらせてしまった後ろめたさから、それどころじゃないであろう二人に向かって、風に負けないよう怒鳴るように告解をし始めた。

「私! 私もケイと同じこと思ってて、嫌な奴なんだよ! いや、むしろ私のほうが性格悪いよ! だって、ちょっとおかしいなあって思うじゃん! 普通、ファッションとか恋愛とかそういう話を面白がるキャラじゃん! なのになんで私たちの言い回しとか趣味とか、ゲームとか30代が見るようなyoutubeの話とか聞きたがるんだろうって思うじゃん!」

 「だってそれあたしも好きだし~!」と、近くにいるのに遠くから聞こえるような声でサキちゃんが喚く。私はそれを聞きながらなお、自分のしゃべりたい事だけを喋り続けた。

「だから、もしかしたら隣のクラスでからかわれてるのかなー、なんて思うこともある訳よ! 根暗二人組の生態系調査報告みたいな感じで! そうだったら嫌だなぁって時々思ってたけど、普通にいつもサキちゃん楽しそうだし、よく分からないな、って! だからさっきのは私も同罪! いやむしろ、裁かれるべきなのは黙って罪を負わないようにしてた私の方だよ! 有史以来の、最も恥ずべき罪の一つだよ!」

 3人が団子状態で各々の傘を相手方に差しながら、そんな調子でしばらくparadisoまで風をかき分けて進み続けた。ちなみに私の傘は、早い段階から突風で折れて吹っ飛ばされたので、私だけは二人の背中に手を当てて押しながら進む、良く分からない役割の担当と化していた。


 3人とも次の日はしっかり風邪をひいてきっちり2日間寝込んだ。同じ期間だった。

 以上、私たち3人の生態系調査報告。


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