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9月29日⑥

 全てが終わると、ずっと続いていた悪寒が嘘のように収まり、吹奏楽部の練習する音が聞こえてきた。

 重い足取りで視聴覚室を出た私は階段を下り、昇降口で靴を履き替えた。正門を通過してしばらくした所で振り返ると、練習を終えた吹奏楽部の生徒たちが帰宅する様子が見えた。私はパーカーのフードを脱いで、学校の裏手にある海岸に向かって歩き始めた。



 海岸には誰もいなかった。私は300m程の長さの砂浜の中央に体育座りで腰を下ろし、右手に見えるC県行きのフェリーが出港する姿を眺めていた。巨大な船体がゆっくりと動き出し、徐々にそのスピードを上げていく。20分ばかり見ていると、もうフェリーは豆粒ほどの大きさとなっていた。すれ違うようにあちら側から別のフェリーがやってきて、徐々にその姿を大きく、明確にさせていく。

 数時間後にはまたこちらのフェリーとあちらのフェリーが、同じようにすれ違うのだろう。それが一日続き、一ヶ月続き、一年続く。


繰り返し、繰り返し、繰り返し――



 私は自分の涙を抑えることが出来なかった。声もあげず、ただただ両目からひたすらに涙が止めどなく流れ落ちる。帰ろうと思っても中々終わってくれないので、立ち上がる訳にはいかなかった。

 結局一時間ばかり泣いた。袖口と胸元がぐっしょり濡れてしまった。海に五体投地して、一旦ずぶ濡れになる選択肢が浮かんできたが、バカっぽいからやめた。

 ようやく立ち上がって砂を振り払うと、ふとスマホに友達からの連絡が溜まっていた事を思い出した。気乗りしなかったが、ひとつずつ確認する。

 サキちゃんからは数件、ほとんど同じ内容で私を心配するメッセージが届いていた。全て既読にしてから、今度はケイからの連絡を確認する。

 彼女からは二件来ていた。どちらも短く、簡素なものだった。



 一件目、「泣かないで」

 私は分かったような、分からないような心持ちになった。



 二件目「paradisoで待ってる」


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