9月28日②
一通りの回想を終えた私は、YC駅に向かう電車のただ中で目的地を確認していた。駅から西に真っ直ぐ行って、徒歩10分くらい――地図アプリを開いて、何度もその番地を反芻する。
どうして彼女が今更になって日常に紛れ込んで来るようになったのか、皆目見当もつかなかった。
……正直な話、はっきり言って“彼女”にもし再び会えたとして、一体何をすべきか全く頭に浮かんでこない。もっと言うと、私はこれ以上“彼女”の事を考えたくなかった。あの日から1年経って、高校に入学して、新しい友達も出来た。不器用ではあるが、それでも“これから”の事を考えたり、表現したり出来るようになったのだ。私はここまで考えて、ある事に気が付いた。
私は何故この手がかりを追っていけば、やがて彼女と会えると、こんなにも信じて疑わないのだろう?
インタビュー映像は他人の空似だし、そもそも現在、該当部分は消えて失くなっている。ラジオは私が無意識の内に、自分の都合の良いように聴いたつじつまが合っているに過ぎない空虚な幻想だ――普通は、そう思うだろう。あるいは面白がって“彼女”のペンネームを、無断で借用している無関係な誰かがいるだけかも知れない。あるいは――
私は、自分が何か取り返しのつかない思惑を、自らの手で知らず知らずのうちに作り上げているのではないかと感じた。そしてもし自分が、その居心地の良い誘惑に取り憑かれただけの人間だとしたら、これほどの徒労は無い。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。もし、この先のラジオ局で運良く相談に乗ってもらえたとして、それでも何も手がかりが見つからなかったら、今日限りで、この取るに足らない探偵ごっこはお終いにしよう。
私はYC駅から西に向かって歩き出した時点でそう心を決めた。
ラジオ局には駅を出てから、およそ8分で到着した。




