装備:麦わら帽子、ランニングシャツ、ラクダ色の半ズボン
武 頼庵さま 主催
『夏の○○が好きだった 企画』参加作品
梅雨が明けたというが、ベタベタな感触はむしろ酷くなり、そして痛いような日差しが降り注ぐ。
あの頃は日差しが痛いなんて事なく、ランニングシャツとラクダ色の半ズボン、麦わら帽子の一張羅で野山を駆け巡り、みんなで笑い合っていた。
ミーン、なんて可愛らしい音ではなく、ズィイィイィンと鈍く響く蝉の声。
そんな蝉に虫取り網を力一杯振るって被せて、虫かごに入れて……毎日そんな遊びを飽きもせず、笑いながらやっていた。
野山をあっち行き、こっち行き。
そして、木のウロを秘密基地にしてみたり。
そこで、お駄賃握りしめて買った駄菓子をちまちま食う。
そして、昼前にみんなで一緒に家に戻ると、お袋がみんなの分の昼飯も作ってくれて、ギャーギャー騒ぎながら、ちゃぶ台に乗った素麺を突きながら食った昼飯は、とても楽しかった。
そして、飯が終わると、畳の上をドタバタ走り、扇風機の前の特等席を取り合いだ。
当時の家電は、角ばっていて象牙色や茶色の地味な色や、くすんだ色のものが多かったが、扇風機は違っていた。
羽の向こう側が見えるのだ。
青い色が透けていて、とてもハイカラな世界を見ている気分になっていた。
扇風機の前で「あ゙あ゙あ゙あ゙」と、しゃがれたような声を出して、誰の声が一番気持ち悪いかを言い合ったりと、くだらない遊びもしていた。
あの夏が今となっては、とても懐かしく眩しく、思い出として残っている。
あの夏がとても、好きだった。
あの頃の仲間の半分は、すでに墓を寝床にしやがった。
置いて行かれて淋しい気持ちがありつつも、まだそっちには行かねぇからな。
へへっ、悔しがってる顔が浮かぶぜ……。
もう少しだけ、現在を、楽しませてくれ。
まだ、今を満喫しているからさ……。
エアーコンディショナーの効いた部屋。
もう、あの頃には戻れねえ。
そう、好きだった夏は、今は過去のこと。
握るはコントローラー。
細かく滑らかに動くゲーミングモニターを買って、早3ヶ月。
今月あたり、チーム戦でランカー入り出来そうな気がしてならない! 現在12位じゃからな!!
墓なんぞ入っとる場合じゃないわい!
ヘッドホンマイクをつけて、ボイチャをオンにし、ログイン。
そこには、ワシの分身である、アバター名サイバージジイがいる。
もちろんイケジジイにメイキング済みだ。
平均年齢78歳のジジイたちによるFPS――1人称視点の銃撃ちゲーム――チームは、上は79歳、下は76歳のバリバリジジイチームだ。
ログインすると、ほかのジジイ仲間が既にいる。
お前ら暇人か! ワシもだな!
そりゃそうだ。定年してから、もうすぐ成人になる、定年成人間近のジジイどもの集まりだ。
あ? 公民館に行ってろだ?
こんな暑い中外に出たら、日射病になるだろが!
あ、今は熱中症だったな。ジジイのボディポテンシャルを侮ると、すぐコロリなんだからな!
サイバージジイ『おい、なんだ? その昭和レトロな衣装』
じーにゃん『昨日発売の、レトロ夏コスチュームセットじゃい。ナウいじゃろ』
サイバージジイ『エモすぎじゃ!』
麦わら帽子と、ランニングシャツに、ラクダ色の半ズボン。
目の前の友人が操作するアバターが、そんな格好をしているから、ふっとあの頃を思い出してしまった……。
あぁ、あの夏に食べた素麺……よりも、冷やし中華食いてえな。