ぼくのともだち
僕にしか見えない、そんな世界がある。
ある時、その事に気が付いた。
僕にしか見えない、僕だけが見える世界がある事に。
その事に気が付くまで、僕は幸せだった。
変な奴とか、おかしな奴とか言われるけど、別に気にならなかった。
だって、僕は普通なんだから。
でもある時、みんながおかしかった。
遠足のバスに乗っていた時だ。
何かが、バスに居た。
その何かが、僕に、いや、みんなにささやいていた。
「そっちは危ないよ、行っちゃダメだよ」
だから僕が、その何かの代わりに皆に知らせた。
危ないから、引き返そうと。
みんな、きょとんとしていた。
また、はじまったと笑っていた。
それでも僕は、真剣だった。
その何かも、真剣だったから。
でも、ダメだった。
いくら僕が言っても、みんな笑うだけだった。
それでも言うと、今度は怒られた。
「おかしなことを言うな」
「みんな、お前を気味悪がっているぞ」って。
先生にも言った。
でも先生は、冷たい目で僕を見下ろすだけだった。
そういうのは、またにしてねと。
それでもと先生に言いつのると、今度は怒られた。
嘘つきはどろぼうの始まりよと、頬をたたかれた。
かるくだけど、痛かった。
僕は、黙った。
もう、目をつぶるしかなかった。
でも。
ダメ!
その何かが、僕の手を引っ張った。
気が付いたら、僕は病院に居た。
バスは対向車と正面衝突し、崖から転落したんだと、後で看護師のお姉さんに教えてもらった。
無事だったのは、僕のほかは数人だけだったと。
先生も、もう会うことは出来なくなった。
その何かは、もう居なくなった。
あの時確かに、何かは僕に叫んでいた。
「伏せろ」と。
「でも、みんなが」
「いいから、伏せろ」
そう言うと、その何かは僕の手を強く引き、僕の上に覆いかぶさってきた。
記憶があるのは、そこまでだった。
その何かは、まだ生きているのだろうか?
どうして、僕を助けてくれたんだろうか?
あの時、どうすれば良かったのか?
どうすれば、皆を助けることが出来たのか?
僕は寝返りを打とうとして、点滴が腕に付いていたことに気が付いた。
寝返りを打つことを、僕は諦めた。
僕は顔だけ、横を向いた。
少し、びっくりした。
その何かが、そこに居たからだ。
「大丈夫?」
その何かは、僕にたずねてきた。
「うん、大丈夫だよ」
その何かは、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
ただ、うれしそうだった。
「ねえ、君は?」
「君のそばに居るよ」
その何かは、いつの間にか居なくなった。
僕は病院を退院した。
両親は一度だけお見舞いに来たけど、それから退院するまで一度も来てくれなかった。
でも、寂しくなかった。
僕には、見えない友達が居たから。
これが僕と、ともだちの出会いです。