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君は僕の、座敷童  作者: 歩芽川ゆい
5/13

5:翌朝

第1部終了です。

 朝、廊下の方がざわめいていて、秀麿くんはその声で目が覚めました。


「今朝方、聞いたんですよ! 廊下を走り回る小さな子供の足音を! ああ、これで私も幸せになれる! 頑張れます!」

「私も!」

「俺も!」


 そんな声が聞こえてきます。何だろうと思っていると、ドタバタとひと際大きな足音がして、ガラリと障子が開けられました。


「おい、坊主! 昨日、出たんだな!?」

「え!? 出たんですか?」


 布団を畳んでいたお父さんはびっくりしたように言って、秀麿くんを見ました。おじさんがすごい勢いでまだ布団にいる秀麿くんのもとに来ます。


「なあぼうず、昨日、アイツを見たか?」

「アイツって……?」


 秀麿くんは怯えながら聞き返します。ぎゅっと手の中のキツネを抱きしめたはずが、違う感触に見てみれば、ただの布団でした。慌てて見回してもキツネはいません。ぬいぐるみの山の中にも、いません。


「あれ? あれ?」

「なんだぼうず、何を探している?」

「昨日抱っこして寝た、キツネのぬいぐるみ。あの子が、貸してくれたんです」

「……! どんな子だ!?」


 いきなり両方の二の腕を掴まれてしまいました。力が強くて痛くて、秀麿くんは怯えてしまいました。


「どんな子だった! 早く言え!」

「く、黒い着物の、肩までの茶色の髪の毛の子です」

「目は! 目の色は!」

「奇麗な、赤い目……」


 そう答えると、おじさんはようやく手を放してくれました。でも様子が変です。目を見開いて、鼻の穴も膨らませて、とてもイヤな顔になりました。


「出たか! ようやく、出たか! そ、それで何か言ってなかったか!?」

「僕が17歳になったら、またここに来てって……」

「17歳? 12年後か、それで? あとは?」

「あ、草履!」

「草履?」

「その子と庭で遊んだんです。その時に草履を貸してくれて」

「それはどこだ!」

「部屋の前の、縁側の下……」


 ドタタタタ!  おじさんはすごい勢いで立ち上がって、部屋を出ていきました。秀麿くんは吃驚して布団から動けなくて、お母さんが大丈夫? と腕をさすってくれました。すぐに外から「あった、あった!!」という声が響いてきました。


 お父さんが「いつどこで、その子と遊んだんだ?」と聞いてきたので、秀麿くんは


「夜、寝ていたら起こされたの。あとはずっと外のお庭で遊んでいたよ」


 と答えると、お母さんが少し怒ったように


「なんでお母さんたちを起こさないの?」


 と言いました。


「起こしたよ? 声をかけたけど、お父さんもお母さんも、全然起きなかったよ」

「……」


 二人は顔を見合わせていました。そこに草履2足を手にしたおじさんが走りこんできました。


「おい、ぼうず! これはどこにあった草履だ!?」

「あの子が、くれたんです、庭で遊ぶのに使っていいって。その鼻緒が赤い方は僕にくれるって。でも青いほうはおじさんに渡してもいいって」

「おおお!!」


 おじさんは赤い鼻緒の草履を秀麿くんに投げ寄こし、青い鼻緒の草履を嬉しそうに眺めています。


「お義兄さん?」

「他の宿泊客が今朝方に子供の足音を聞いているんだ、久しぶりに出た! ようやく出た!」

「あの、17歳ってのは一体……?」

「アイツの考えなんてわかるものか! でもそんな伝言は初めて聞いた。何かあるんだろうよ、なあ12年後、また来いよ! 絶対に来いよ!」


 すごい勢いのおじさんに、お父さんたちもタジタジでしたが、おじさんはご機嫌に部屋を出て行きました。秀麿くんは抱きしめていたキツネはどこだろう、と布団をはいでみましたが、どこにもいません。おかしいなあ、とキョロキョロしていると、お母さんがどうしたの? と聞いてくれたので、キツネのぬいぐるみを知らない? と尋ねると、お母さんは変な顔をしました。


「キツネのぬいぐるみ? 知らないわよ? どこにあったの?」

「そのぬいぐるみの山に。僕、それをクッションにして絵本読んだり、乗っかって寝たよ?」

「お母さんは知らないわよ? お父さんどう?」

「俺もそんなの見てないなあ。秀麿が壁に寄りかかって本を読んでいたのは知っているけど?」

「お風呂のあと、僕、キツネに乗って寝ていたよね?」

「ええ? そこの座布団の上よ? だから布団に移したのだから」

「そんな……。だって、そのぬいぐるみの山の中に、キツネとトラと、鳥のぬいぐるみが……」


 秀麿くんが指をさしたぬいぐるみの山には、キツネどころか、トラも、あの大きな鳥もいません。ほとんどがクマのぬいぐるみ。それもあの3体ほど大きいのはいなかったのです。


「秀麿くん、寝ぼけているのじゃないの? そんなトラとか大きな鳥とかのぬいぐるみなんて、お母さん、見てないわよ?」

「俺も見てないな」


 秀麿くんは混乱しました。なんで何でキツネがないのだろう。でもその時、頭の中に声がよみがえりました。


『うん、ぼくが貰ったもの。でも遊んでいいよ、たくさんあるから。でもこのトラと、そのキツネと、あの鳥は僕の友達』


 そうか、と秀麿くんは思いました。その3匹はあの子のと言っていた。だからあの子が持って行ったのだろう。でも寝るときはキツネを貸してくれたはずなのだけどなあ。秀麿くんが首をかしげていると、朝食が運ばれてきました。あのおじさんは、朝食メニューを豪華にしてくれたようです。美味しくて食べ過ぎたのか、秀麿くんは食べ終わるとまた眠くなってしまいました。


 お母さんはうつらうつらとする秀麿くんを、座布団を並べた上にそっと寝かせて、荷物をまとめ始めました。もう帰らなくてはいけません。一泊なのでそんなに荷物もなく、寝ている秀麿くんを手早く寝間着から普段着に着替えさせて、その荷物もまとめて、もう部屋を出るだけとなりました。秀麿くんはグーグー寝ています。お父さんがよいしょと秀麿くんを抱え上げて、部屋を出ました。


 玄関口であのおじさんが寄ってきて、上機嫌に挨拶を交わしたあと、たくさんお土産もくれました。先ほどの青い鼻緒の草履はすでに玄関口にケースに入れられて飾られており、チェックアウトのお客さんが群がって見ています。おじさんはこれでしばらくは客が増える、と小声で言うと、それはそれは嬉しそうに笑いました。


 寝ている秀麿くんを抱えたお父さんとお母さんは挨拶をして、旅館を後にしました。まっすぐ空港へ行って帰らないといけない時間です。二人とも明日から仕事に戻らないといけないのです。


 旅館からタクシーに乗って、空港まで行き、そのままチェックイン、そうして寝たままの秀麿くんは、帰りの飛行機でも目を覚ますことなく、気が付いたら家にいるのでした。

 飛行機、楽しみにしていたのに! 起こしてくれればよかったのに! と涙目でごねましたが、何度も起こしたけど全然起きなかったと言われ、一人むせび泣くのでした。


 きっと昨晩、あの子と遊んだせいでしょう。お父さんとお母さんも、昨晩は早く休んだのです。秀麿くんは気が付きませんでしたが、その直後から夜明けの直前まで遊んでいたのです。お風呂の後昼寝はしました。でもそれは2時間程度。全然眠りが足りていなかったのです。遊んでいた夜中には何故眠くなかったのか、とても不思議です。


 秀麿くんはリュックの中から赤い鼻緒の草履を取り出しました。それを勉強机の棚に置いて、飛行機は残念だったけど、またあの子と会えるのが楽しみだなと思っていると、夕飯よとお母さんの声がしたので、元気に返事をして、朝以来のご飯を食べに部屋を出ました。


 そうしてお風呂も済ませて、秀麿くんがベッドに入って、寝付いたころ。


 赤い鼻緒がぼんやりと光りだしました。その光は、鼻緒から抜け出してフヨフヨと秀麿くんの周りを漂っていましたが、また鼻緒に戻り、そうして光は消えてしまいました。


次回から大人になった秀麿くんが出てきます。投稿は明日の夜の予定です。

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