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君は僕の、座敷童  作者: 歩芽川ゆい
4/13

4:庭にて


 お部屋を出てみると、その子の言った通り、満月の光でお庭は明るく照らし出されていました。木々で暗いところにもまあるい明かりが浮かんでおり、昼間ほどではありませんが、十分遊べる明るさでした。秀麿くんは周りを気にして小さな声でその子に話しかけましたが、その子が、雨戸と障子が閉まっていれば聞こえないから大きな声を出しても大丈夫だよ、というので、普通にしゃべることにしました。


「ねえ、隠された玉って?」

「うんとね、これくらいの玉で、白と、茶色と、白に黒だよ」


 その子は両手をそろえて上に向けて、大きさを教えてくれました。小さなモミジのようなお手々でしたが、手を仰向けにする時にちょっとだけ見えたその甲に、黒い模様が書いてありました。


「ねえ、その手の模様は、なあに?」


 その子は、バッと両手を背中に隠しました。


「……へん?」

「ううん、よく見えなかったけど。見ちゃダメ?」

「……いいよ」


 その子は後ろに隠した手をおずおずと前に出してくれました。両手の甲には、丸くて何だか魔法陣みたいな模様が黒い色で書いてあります。秀麿くんはそれを見て、興奮しました。


「わあ凄い! 僕にもね、同じような模様、あるんだよ!」

「えっ……?」

「ぼくのはね、足の裏なの、ちょっとまって……」


 秀麿くんは縁側に腰掛けて、両方の靴下を脱ぎました。そして足をそろえて上げてⅤ字のような形でお尻で上手くバランスを取りながら、その子に両方の足の裏を見せました。


「生まれた時からあるんだって。僕、これ、かっこよくて好きなんだ! ちょっと自分では見え辛いんだけど」

「これは……!」

「うん? なあに?」

「ううん、何でもない。お揃いだね」

「うん! ああでも僕も手の方がよかったなー、本当にそれ、すごくかっこいい!」


 秀麿くんが足を戻してその子の手を取って言うと、その子の大きな赤い目がもっと大きくなって、そして嬉しそうに細められました。


「ありがとう……。君の模様も、かっこいいよ」

「えへへ!」


 秀麿くんは真ん丸笑顔で、人差し指で鼻の下をこすりました。


 秀麿くんは模様、と言っていますが、他の人はアザだと言います。秀麿くんには絵本で見た魔法陣のように見えるのですが、他の人にはただの黒いウネウネにしか見えないらしいのです。そしてこんなのが足の裏にあるなんて、と嫌な目で見るのです。お母さんも手術して取る? と聞いてきたことがありますが、秀麿くんはこの模様が好きなので、絶対に嫌だと拒絶したのでした。

 それと同じような模様を持つ、このきれいな子。秀麿くんは、友達になれてよかったと心から思いました。


「玉、探しに行こうか」

「うん! あ、クツ取ってくる!」

「これならあるよ」


 どこから取り出したのか、草履がその子の手にありました。草履なんてお祭りでしか履いた事がありません。でも早く遊びたかった秀麿くんは、赤い鼻緒のそれを借りて、二人でお庭に下りました。


 その子がお庭の説明をしてくれます。

 二人がいた部屋の正面には、庭園が広がっていて、その左側に鯉の泳ぐ池が、右側には石庭がありました。石庭を抜けると正面玄関になるそうです。池をさらに奥に行けば、旅館の裏手に出られるそうですが、玉はこの正面、庭園と石庭、池のある面にあるそうです。


 秀麿くんは池の方から探すことにしました。奥行きもたっぷりのそのお庭は、サッカーが余裕でできるほどの広さです。二人はいつの間にか追いかけっこをしながら、庭の隅々まで走り回りました。


 いつもお部屋の中で本を読むことが多い秀麿くんですが、今夜はいくら走っても疲れません。いくらでも走れる。嬉しくて楽しくて、木々の間に隠れて顔を出してくるあの子を捕まえようと、大きな声を出しながら走り回りました。その途中、秀麿くんは葉っぱか何かで指をちょっとだけ切ってしまいました。チクチクするし、血が出てきてどうしようと思っていたら、あの子がその指を咥えて、舐めてしまいました。ビックリしましたが、これで大丈夫と言われて見てみれば、確かに痛みも血も止まっているのでした。


 そしてしばらく走り回っていると、秀麿くんは、鯉のいる池のふちに植わっている木の根元が、白っぽく光っていることに気が付きました。何だろう、と近寄ってみると、どうやら地面に何かが埋まっているようです。秀麿くんはあの子を呼びました。


「ねえねえ、何か埋まっているよ、これじゃない?」


 ちょっと離れた木に隠れていたあの子が出てきて、近寄ってきました。


「これ、埋まっているんだけど、掘るものあるかなあ」

「……やっと、見つけた!」

「え、やっぱりこれ? じゃあ早く掘り返そう!」

「ここにあるのが分かればいいよ、あとの2個を先に探そう」


 秀麿くんは折角見つけたのに、と抗議しようと思ったのですが、その子の目が、怖いくらいに真剣にその玉を見ているのを見て、今は掘ってはいけないのか、と悟りました。そしてそれなら早く2つ目も探そうと思ったのです。


「後の2個も、こんな感じで埋まっているのかな?」

「それを見つけたのは君が初めてだから、僕にもわからないんだよ。でも君なら探せるよ。2個目、探そう」

「うん!」


 二人は追いかけっこをやめて、庭園に向かって探し始めました。ぽよんぽよん、と木々の根元を照らす明かりがいつの間にか増えていました。どうなっているのだかわからないけどすごい、と秀麿くんは大喜びです。そうしてまた走り回って木々を確認していると、庭園部分の塀の近くの、大きな飾り岩の縁がさっきと同じように黄色く光っているのに気が付きました。秀麿くんが、見つけたーとはしゃぐと、あの子がすぐにやってきました。


「これじゃない?」

「……2個目!」

「やったね! あと1個!」

「うん!」


 あの子の目が潤んでいる。そんなに嬉しがってくれているならと秀麿くんは張り切りました。そうして今度は石庭に入ります。きれいに整えられている砂利と砂に秀麿くんは躊躇してしまいましたが、あの子が大丈夫だよというので、遠慮なく入りました。そうして見つけたのです。石園ではなく、その先の玄関近くの灯籠の中にある、それを。


 灯籠に普通に飾られているまん丸い石が、それだったのです。ぼんやりと光輝いているのでわかりましたが、これが昼間だったら探せなかったでしょう。

 あの子は一生懸命背伸びをして、その丸い石を触ろうとしていました。その表情は、泣きそうで、嬉しそうで。そしてその顔で、秀麿くんにも笑いかけてくれました。


 あまりにきれいなその笑顔は、秀麿くんの記憶に焼き付きました。


 玉は、今は取り出す時ではない、というあの子の言葉に秀麿くんは首をかしげながらも、見つけてくれてありがとうと言うあの子に、それだけでうれしくなって、すっかり取り出すことなど忘れてしまいました。


 そして二人で汚れた手足を洗いに浴場に行き、手足を洗って、泊まっていた部屋の前の縁側でおしゃべりをしました。二人で見上げた月がとても奇麗で、その光に浮かび上がるあの子は、もっと奇麗で。秀麿くんはその横顔をずっと眺めていました。

 そのうち秀麿くんは大きなあくびをしました。あの子はそれを見て、そろそろ戻ろうか、と言いました。秀麿くんはもう少し遊んでいたかったのですが、何度もあくびが出てきたので諦めました。


 二人で部屋に戻っても、お父さんもお母さんもぐっすり寝たままでした。


「はい、キツネ。でも敷いたり、枕にしないでね」

「うん、気を付けるよ」

「……秀麿くん」

「なあに?」

「17歳になったら、またここに来て」

「17歳? 忘れないかな」

「お父さんに言えば大丈夫。でも庭で見つけた玉のことは、絶対に誰にも言わないでね。言ったら、もう会えなくなるから」

「えっ、それは嫌だ、わかった絶対に言わない!」

「うん、でも17歳になったら来るのは言ってね(笑)」

「あ、うん、わかった!」

「今日は楽しかったよ。君の草履は、記念にあげる。明日きっと僕に会ったか聞かれるから、そしたらあの草履を見せて。僕のは渡してもいいよ」

「わかった、ありがとう。ねえ、君の名前は?」

「……ナイショ」

「ええー! 君は僕の名前は知っているのに、教えてくれないの!?」

「17歳になって、ここに来てくれた時になら、教えてもいいよ。それまでは、ナイショ」

「ちぇーっ。ずるいなあ」

「ふふ、当ててくれてもいいよ。ちゃんと名前を呼んでくれたら、君にならいつでも会うから」

「うーん、そんなこと言われても……ふああああ」


 秀麿くんは名前を考えようとしますが、眠さが襲ってきます。大きなあくびも出てしまいました。あの子がそっと布団に誘導してくれて、秀麿くんは、キツネを抱えて布団に潜り込みました。


「もう遅いからね、おやすみなさい。またね」

「うん、お休み……」


 あっという間に秀麿くんは眠りについてしまいました。子供はそっと立ち上がって、部屋を出ていきました。そうしてパタパタパタ、小さな足音がしばらく旅館を走り周り、やがて静寂が戻ったのでした。

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