おお、母ちゃん!
ボク、マイン。
日本イシガメの赤ちゃん。
ついさっき産まれたばかりだ。
この池、ボクの本能に刷り込まれてる知識と全然違うんだ。
知識には、浅瀬があって、水草や木が生えてる所があるハズなんだけど・・・何もない。
あるのはツルツルの壁と小さい浮島。
浮島の藻を食べる?
コレはダメだ。
悪食な沼ガメでも食べないよ。
・・・なんか大きなものが動いてる。でっかい島だ!
浮島にのしかかったら島が沈んじゃった!
あ、こっち見た。なんか懐かしい匂いだ。
じーっと匂いをかいでたらでっかい顔が近づいてきてボクの匂いをかいでる。
コワいよ~
全力でカメダッシュ!水中でも結構速いんだよ!?
壁にぶつかった。
それでもスピードは緩めない。
スピード?全然、動いてないって?
いや、手足の・・・
そういう仕様だから。
衝動が収まった。
手足を止めて後ろを振り返る。
まだじーっと見ている。
まるでエサを見るように。
そして、ほの暗い水底を見ると
頭と手足の無いボクと同じ匂いのする物体・・・
ボクの兄弟の亡骸が揺らめいていた。
背筋が凍りつく。
ボク、まだ、産まれてすぐで、
まだなんにも食べてなくて、
まだ、居心地のいい“お気に入り”のお家見つけてなくて、
まだ、お気に入りのお友だちとも出会ってなくて、
それから・・・なんだっけ・・・
何でもいいから、
ボク、まだ、死にたくない!