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9話 「出発」


 「さて、行くか」


 俺は宿のベッドから飛び起きた。

 窓の外はまだ日が登りかけだが、早く起きるに越した事はない。


 「おいシンクレア、リヴァイアド、そろそろ行くぞ」


 俺は部屋の床に転がっている二人に声を掛ける。

 ドラゴンはどうやら柔らかいベッドより固い床の方が好きらしい。

 いつも固い岩の上で過ごしているからだろう。


 「ん……」


 二人共疲れているのかまだ眠たそうだ。

 昨夜も一番先に寝ていたからな。ドラゴンには早く寝る習性でもあるのだろうか。

 まだ時間はある。俺は先に準備して……


 「……」


 何か違和感がある。

 具体的には分からないが、何かが違う。


 部屋を見渡す。


 木造で建物は老朽化しているがしっかりとした造りで、比較的安いが一泊銅貨4枚の一般的な値段。

 何も心配はいらない筈だが。


 「あっ」


 見つけた。

 違和感の正体。

 単純なことだ。

 部屋が段々と暗くなっているのだ。

 太陽が日の出の筈なのに沈んで――


 「……今、朝だよな?」


 凄く、嫌な予感がする。

 確か昨日、締め切りは明日の朝だと……


 壁に設置された時計の方へ顔を向ける。


 「……夕方だ」


 やばい。寝過ごした。

 何時間寝ていた?

 確か昨日寝たのも夕方。だとすると丸一日寝たという事になる。

 何故そんなに俺は寝てしまったんだ?


 いや、それよりも。先に行ってしまったゼラ達に追いつけなくなってしまう。

 匂いで追跡できるとしても、遠く離れてしまえば終わりだ。


 「どうしたグレイ。焦っている様に見えるが」


 シンクレアは何処からか持ってきた髪留めで長い髪を後ろに束ねつつそう言った。


 「どうやら俺達、寝過ごしたらしい」

 「……そうか」


 ……案外さっぱりとした返答だな。

 もっとこう、反応が有ると思っていたが。

 まるで最初から予測していたように見える。


 「ドラゴンの睡眠時間は一日だからな。力を共有していれば仕方ない事だ」

 「……な」


 ド、ドラゴンの睡眠時間は一日だ、と?

 確かにリヴァイアドはまだ大の字になって絶賛熟睡中。起きてすらいない。


 「リヴァイアド、いつまで寝てるんですか」

 「はっ!! も、申し訳ありません。また無礼な姿を……くっ」


 戦闘の時は頼もしいのにギャップがすごいな。

 リヴァイアドは昔の記憶がないから、本来の彼と今の彼とは全く別の人格なのかもしれない。


 シンクレアに向き直る。


 「何故言ってくれなかったんだ?」

 「人間の姿で寝るのは初めてだったから、人間と同じ時間だと思って……」


 ……シンクレアには非はない。知らなかっただけだ。

 大きな力には代償が付き纏う。そう考えておこう。

 ネガティブな思考ではダメだ。

 否定的な考えであればあるほど目的から遠ざかってしまう。


 「この件は仕方がない。早く行くぞ」


 シンクレアはこくりと頷く。


 今ならまだ間に合う。

 1日出遅れただけだ。




 「……ここか」


 目の前にはガラリとした広場と、大きな口を開いている来た時に見た吊り上げ型の門。

 その門の近くには一人、警護人らしき人間が立っている。


 町中に貼られた募集の張り紙を頼りに来たが、此処で間違いないようだ。


 「それにしても……静かですね」

 「ああ、誰もいないな」


 町には殆ど人が居なかった。

 ぶつかるほど冒険者たちが居たのに。


 それに、警護をしている人や住民すらも少数だ。恐らく全員クエストに行ったのだろう。


 おかげで周りがよく見える。

 昨日の夜は人は多いは、暗くてよく見えないはでシンクレアを背負いながら移動するのは大変だった。

 ……少し背中にアレが触れていたからまぁ許すけど。


 初代『九傑騎士』の魔力が使えるからとは言え、それ程『宝石』は魅力的なものなのだろうか。


 いや、俺が知らないだけで魔族の間では有名なものなのかもしれない。

 伝承でも伝わっているのだろう。


 「シンクレア、ゼラ達の匂いは分かるか?」

 「……うーむ。時間が立ったから掻き消されておるな」

 「やっぱり、そうだよな」


 だが、張り紙には行き先は『虚妄の森』とある。

 ゼラ達は十中八九ここに行ったのだろう。


 「なぁ、『虚妄の森』ってどこに有るか知ってるか?」


 二人共首を横に振る。

 あの『死の荒野』が彼らの住まい。出たことが無いのだろう。

 誰か知ってる人を探すしかないのか。


 「ひとまず門の所にいる警護人に場所を聞いてみよう」


 俺は警護人に近づく。


 「あの、すみません」


 話し掛けるが答えない。

 ……なんかこの顔見覚えあるような。


 「あの、聞いてます?」

 「……」

 「…………」

 「…………て、てめぇら何でこんな所にいるんだ」

 「あっ」


 思い出した。

 俺達を襲ってきたSランク冒険者達のリーダーだ。


 「あなたこそ何してるんですか」

 「……クエストの任務をしてるんだよ」


 ジャンに運ばれてきたのだろうか。

 すっかり元に戻っている。


 「クエスト? 門の警護のことか?」

 「何ふざけたこと言ってんだ。『宝石』のやつだよ。そんぐらい誰でも知ってんだろうが」


 ちょっとバカにされた気がするが、それはスルーして本題に行こう。


 「『虚妄の森』の場所って知ってますか?」

 「知ってるが……行くなら辞めとけ」


 リーダーの男は門の外を指差す。


 「この外は地獄だ。既にこの門を十数人の『弓使い』が狙ってる」

 「な、なぜ?」

 「……ライバルを減らす為だ。門を出た奴は敵だ、ってな。……俺はここで数十人が死ぬのを見ちまった」


 『弓使い』か。

 奴らは弓に様々な効果と魔力を込める事ができる。

 さらにその威力は……石を粉々に粉砕するほど強い。


 「行きたくても、俺達はもうここから出られねぇんだよ」


 けど、今の俺なら……何とかできるかもしれない。


 「リーダーの人、名前は?」

 「……ドラン=ヴォイド」

 「ドランは、俺達のことを……信じるか?」


 俺は剣を抜く。


 「おいまさか……全部叩っ斬るつもりじゃねぇだろうな」

 「そのまさかだ」

 「ふっ、……狂ってやがる」


 弓使いと戦うのは初めてだが、これでも思うはジャンに傷を付けたのだ。

 それに、ドランはその瞬間を見ていた。

 信用してくれる筈。


 「……分かった。信じるぜ。ただ、これは『虚妄の森』に着く迄だ。着いたら敵同士」

 「分かってる」


 ひとまず交渉成立だ。

 まぁ、俺が成功させないといけないんだけど。


 俺は門の外の、原型を留めていない肉の塊を見ながらそう思った。


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