5話 「フードの男」
「なんだ、ガキひとりで戦うのかよ。舐められてんな」
俺との会話を聞いたのか、リーダーの男は語尾を強めてそう言った。
他の冒険者達も同様に、険悪な雰囲気になっている。
ますます窮地に追い込まれてるじゃないか。
「ん?」
リーダーの男のすぐ後ろに、黒いフードを被った細身の男が立っていることに気がついた。
その男は細い目をこちらに向けてはいるが、無気力そうに突っ立っている。
俺達には無関心な様だ。
気にする必要はないだろう。
「なあおい、なんで人間のお前がドラゴンと一緒にいるんだ?」
リーダーの男が聞いてきた。
トカゲ使いだとは言っていいのだろうか。
もしトカゲ使いの本当の能力を知られたら……どうなるのだろう。
「こいつ何か隠してますぜ。まぁどうせ、ドラゴンに効果のある能力か何かだろうな」
「危険だな。それに、ドラゴンを従えるのは重罪。即刻処分すべきだ。」
ドラゴンに対する偏見が根付いているからだろう。
完全に敵意剥き出しだ。
これではトカゲ使いだなんて言ったら終わり。
……説得するしかない。
「俺はドラゴンと仲が良いだけだ。ドラゴンは悪い魔物ではない。
危害も与えないし、ましてや人も食べない。だから、見逃してくれないか?」
冒険者たちはゲラゲラ笑い出だす。
「なんか勘違いしてねぇか? おい!!」
「俺達はドラゴンの素材が金になるから狩ってんのによぉ!!」
「いいからガキはさっさと死ねよ!!」
冒険者のうち三人が、物凄いスピードで近づいてきた。
反射的に俺は剣を抜く。
「うっ……!!」
俺はいつの間にか、その三人を斬っていた。
人を相手にした実戦は初めてだったが、そんなことはどうでもよかった。
「体が、勝手に……?」
血が滴る剣を見つめる。
「い、いてぇ……」
「くそぉ……」
しかも、冒険者達の傷は敢えてそうしたかの様に浅い。
「野郎!!」
「やりやがったな!!」
「ま、待てお前ら!!」
リーダーの男の静止も聞かず、冒険者たちは一斉に襲いかかってきた。
昨日までの俺だったら十人以上のSランク冒険者を相手にするなんて無理だった。
でも今は違う。
長年二人のドラゴンの体に刻まれた動きが、俺の体に流れてきている。
冒険者たちが向かってくる。俺は一歩、前に踏み込んだ。
一人目は首の端を突く。
二人目は右の肩から左の肩までの筋肉を斬り下ろす。
三人目は下から上へ浅く両断。
分かる。次の手が。
どう動けばいいのか。
四、五、六人目。すれ違い様に次々と斬っていく。
七人目と八人目は槍を構えて突いてきた。
相手が突き出した槍を切り落とし、そのまま首の表面をかき切る。
その隙に後ろの二方向から飛んできた矢を、反射で掴み投げ返す。
弓で射られたときよりも速く飛ぶ矢は、九人目と十人目の腹を貫通して飛んでいった。
「ひ、ひぃ!!」
残りの一人は剣を投げ捨て、何処かに走りさってしまった。
リーダーの男と向かい合わせになる。
「お前……何者だ?」
「全員傷の深さは1センチ程で、即死は避けています。早く手当をしてあげて下さい」
「……チッ」
剣についた血を払う。
まるで、別人の体に入っているような気分だった。
体が絹の様に軽く、力強い。
これが、『ドラゴンの力』か。
「グレイ、よくやったな!! 素晴らしかったぞ」
「ドラゴンの動きを完全に吸収していました。流石グレイ様」
銅像の様に動かなかったシンクレアとリヴァイアドが、そう声を上げる。
「よし。冒険者達から服を二着拝借するとしよう」
ああ、そうだった。
本来の目的は服だったな。
「……」
……人の肉を切り裂くこの感触、血の匂い。
不快だ。
俺の両親はまるでドラゴンの爪で引き裂かれたかのような切り傷があった。
ゼラは……俺の親をどんな気持ちで斬ったのだろうか。
「おい。何ボケっとしている」
「……すまない」
俺はシンクレアの背を追おうと、歩き出した。
否、歩き出そうとした。
「あの、一人お忘れになられていませんか?」
後ろから男の声が聞こえると同時に、
肩にトンッと何者かの手が置かれる。
「私の名はジャン=ヒュード。巷では、『九傑騎士』だなんて言われています」
『九傑騎士』
俺はその言葉を聞いた瞬間、背筋に何か、冷たい物が走った。
「雇われの身ですから。嫌でも戦わないといけないんですよ」
この世界において、最強と呼ばれている九人である。