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2話 「ドラゴン」


 俺は歩き出した。

 しかし、目的地があるわけではなかった。

 何かしていなければ、頭が持たないのだ。


 「しかし、復讐しようにもこれからどうしようか……」


 移籍ではなく追放という形で一度パーティーを抜けると、もう一度最初のEランクから始める必要がある。

 Eランクでは殆どのクエストを受けられず、生活することができない。


 「面倒なことになったな」

 「……どうする?」


 ん?

 さっき俺以外の誰かの声が聞こえたような……


 「おい、聞いておるのか」


 周りを見渡しても誰もいない。

 気のせいだったか?

 こんな追放された側に付く奴なんて誰もいないだろうからな。


 「こっちだこっち!! 胸ポケットをみろ!」


 胸ポケット……え?


 Sランククエストで従えたトカゲ。

 そいつが、緑色の目を俺に真っ直ぐ向けている。


 「さっき拾ったトカゲ……お前、言葉話せたのか?」

 「トカゲとは失礼な。私はれっきとしたドラゴンだぞ」

 「そ、そうなのか……?」


 見た目は完全にちょっと茶色がかったただのトカゲ。

 ドラゴンの象徴である大きな羽や鋭い爪や牙が全く見受けられない。


 「疑っておるのか? ならば人間の姿に……こっちのほうが話しやすいだろう」


 そのトカゲは胸ポケットから地面へ飛び出した。


 「その前に人間よ、名は何と言う?」

 「……グレイです」

 「そうか。良い名だな」


 そうトカゲが言った瞬間、目の前に小さな竜巻が出来たかと思うと、そのトカゲは一瞬にして人間の女性の姿に変化した。


 「私の名はニーズヘッグ=シンクレア。よろしく頼むぞ」


 こがね色の長い髪と、降ったばかりの雪のように白い肌。

 切れ長で大きな目からは宝石のような緑色の瞳が覗いている。

 そして、ため息が出るほど美しい体のラインが――――


 「なッ……ちょ!! 服を着てください!!」


 素っ裸だった。


 「ハハハっ、すまんすまん。人間は異性の裸体に滅法弱いのだったな。久しく人間の姿になっていなかったのですっかり忘れておった」


 思わず閉じていた目を恐る恐る開けると、人間の姿ではなく俺ぐらいの大きさの小さなドラゴンの姿になっていた。


 思わず剣を抜きかける。


 落ちつけ。

 深呼吸しろ。

 これはさっきのトカゲだ。


 俺は両親をドラゴンに殺されたと偽られた。

 ずっと、ドラゴンは人を殺す邪悪な存在だと伝えられていた。

 ドラゴンに対して憎悪の気持ちが強かった。


 だが、今は違う。

 憎悪を向けるのはあのパーティー。魔族だ。


 「この姿を見て……憎しみはないのか?」

 「いえ……俺が憎むべきなのは、あのパーティーメンバーですので」


 ドラゴン。


 『とても危険で凶暴な存在であり、人を殺し、食すことを好む』


 どの本にもそう書いてある。


 「心配無用だったな」

 「は、はい……ニーズヘッグ……さん?」


 だが……こうやって面と向かっていて分かる。

 危険なんてない。


 口調で分かる。

 俺は……偏見を持っていた。

 魔族のように。


 「その名で呼ばれるのは好きではない。シンクレアでいいぞ」

 「わ、わかりました」


 それにしても、見た目はいかついドラゴンなのにメスだったんだな……


 「どうした? 私をそんなまじまじと見つめて」

 「い、いや何でもな……あっ!!」


 大きさのせいで気がつかなかったが、もしやこのドラゴン……Sランククエストの討伐対象じゃないか?


 「気づいたようだな。そうだ。私が巷で騒がれているSランククエストとやらなんやらの対象だ」

 「えっ、なっ!?」


 Sランククエスト。

 全てのクエストの中で最高難易度を誇るクエストだ。

 複数のSランクパーティーが協力しないと、達成がままならないと言われている。


 しかし、先程行ったSランククエスト。

 魔物ばかりでドラゴンなどどこにも居らずてっきり誰かが討伐してしまったのかと思っていたが……


 「あの時俺が捉えたトカゲが……ドラゴンだったのか」

 「そうだ。トカゲ使いは珍しいからな。もうあそこで野垂れ死ぬかと覚悟していたぞ」


 シンクレアは安心したかのように、ため息を吐いた。


 「……? 野垂れ死ぬって何故そんなことが?」

 「い、いや、何でもない。そ、それよりもこれからどうする」


 野垂れ死ぬ、か。

 俺自身トカゲ使いがどういう役割かはよく分からない。

 何故小さいトカゲになっていたのだろうか。

 ドラゴンと……俺のようなトカゲ使いに、何か関係があるのか。


 しかし、俺に協力してくれるようである。

 一緒に居てくれるだけ良しとしよう。

 Sランクのドラゴンなら百人力だ。


 「アイツらを、追うぞ」

 「やはりそうか。私なら匂いで追跡できる。手を貸そう」


 俺は今までのドラゴンに対する感情を捨て、言った。


 「……頼む」


 俺は、このドラゴンと行動を共にすると決めた。

 


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