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13話 「虚妄の森」


 「シンクレア……」


 ドラゴンになったシンクレアの声が辺りに響き続ける。

 こうして離れている間、ずっと。


 「おい、何立ち止待ってんだ。『弓使い』らが追ってきてるかもしれねぇんだぞ。

 まさか疲れたなんて言わねぇだろうな?」

 「……」


 ドランが走りながら振り返る。

 言っていることはもっともが、これは正しさだけで片付けて良い事ではない。

 いつだって正義が正しいとは限らないのだ。


 「グレイ様……お気持ちは分かりますが、今の最優先すべきことは貴方が生きて『虚妄の森』に辿り着くことでしょう?」

 「……ああ」


 同じドラゴンであるリヴァイアドもちゃんと前を向いている。俺も……見習わなければな。


 シンクレアは生きている。

 死ぬ筈がない。

 そうだ、ドラゴンは心臓が残っていれば生き延びれるのだ。

 現にジャンに首を斬られても普通に生きていた。

 ポジティブに、ポジティブに。

 ネガティブだったら目的から遠ざかる。

 ゼラ達に復讐をするという目的に。


 「……よし、行くか」

 「ふっ、やりゃあできんじゃねぇか」


 俺は髪を掻き上げ、走り出した。





 二十分ほど走っただろうか。

 既に日は沈み、辺りは暗くなっている。

 幸い月明かりのおかげで足元だけは見えるから立ち往生せずに済んで良かった。

 シンクレアの覚悟が無駄になってしまう。


 たまにSランク級の魔物が出た時もあったが、魔物の匂いの分かるリヴァイアドが全て処理してくれた。

 明らかにリヴァイアドの剣はジャンと戦った時よりも速くなっている。

 ドラゴン本来の力が戻ってきているのだろう。


 ……あれ?


 何で見えてるんだ?


 俺は自身の体を見下ろす。

 手には光源になりそうな物は何も持っていない。

 ならば何が光を――――


 「首飾り……か?」


 俺がジャンから受け取った首飾り。

 九傑騎士の宝石をはめる為の首飾り。

 それが、ほんのぼんやりと輝いている。


 「おい、リヴァイアド。何で首飾りが光っていることを教えてくれなかったんだ」

 「……首飾り、ですか?」


 リヴァイアドは不思議そうな表情で首飾りを見つめる。


 「光ってなどいませんが」

 「光って……ない?」


 ならば俺が見ているこれは何だ?

 これが幻覚とか言う奴なのか?


 「おいドラン」

 「……今度は何だ」

 「俺の首飾り……光ってなんかないよな?」

 「当たり前だろうが。首飾りが光る訳ねぇだろ。シンクレアと離れたストレスで頭イカレちまったか?」

 「……」


 ドランにも見えていない。

 首に掛けている俺だけが見えている。

 それに、何だかさっきより光が少し明るくなっている気がする。

 やはりドランの言う通りシンクレアを失った悲しみによるストレスで幻覚で頭がおかしくなったのだろうか。


 「お前ら、この山を超えたら『虚妄の森』だ」


 目の前にそびえ立つのはかなり大きいはげ山。

 ドラゴンを従える前だったら確実に登ることが出来なかっただろう。


 「この辺りには『弓使い』はいないのか」

 「それは心配するな。いる可能性はゼロではないが、いたとしても『虚妄の森』に先に着いた奴に全員ぶっ殺されてる筈だ」


 あの『弓使い』を殺せる奴……会いたくは無いな。


 「じゃ、行くぞ。ここらにはドラゴンの寝床があるから気を付けろよ」


 俺達は山を登り始める。

 ドラゴンの体力というものは相当な様で、山を登っているというのにまるで平坦な地面を歩いているかのように軽い。

 とても楽だ。


 「おい、ありゃあ何だ?」


 そんな事を考えていると、ドランが急に立ち止まった。

 前方に黒く、岩のような影がある。

 その影は岩にしてはギザギザで――


 「まさか……ドラゴンじゃないよな」


 俺は剣を抜き、近づいていく。

 もしかしたらリヴァイアドと同じように自我を失ったドラゴンかもしれない。

 その時は俺が『トカゲ使い』の能力を使い、従える。仲間が増えるかもしれないな。


 「……」


 おかしい。

 俺がこれほどまで近づいているというのに微動だにしない。

 まさか――


 「うっ……!!」


 俺が首飾りで照らした先にあったのは、全身の皮が剥ぎ取られ、爪や牙が落とされたドラゴンだった。


 「こ、これは……」


 心臓には丸く穴が開いている。

 一発だ。

 このドラゴンは心臓への一発で死んでいる。

 血の渇き具合から、おそらく数時間前。


 「何があったのですか?」

 「リヴァイアド、来るな」

 「は、はい」


 リヴァイアドは昔の記憶が無いらしいが、念の為に見せないでおこう。

 自身の仲間がこんなことになっているなんて知られたら普通でいられなくなるのは自明だ。


 「おい、この穴……なんか見覚えねぇか?」

 「……確かに」


 ドラゴンの心臓についた丸い穴。

 こぶし大の丸い穴。

 どこかで見たことが――


 「まさか、『光弓』か……?」

 「……馬鹿言え。ここから何キロあると思ってんだ」


 普通ならここから打つなんて考えられない。

 普通ならば。


 「……どうやら山を降りてるみたいだ。今気にすることじゃねぇな」


 ドランが山の下を指差す。


 「ほら見ろ。森に入っていった足跡がある」


 指差した先には確かに下へ続いていく足跡があった。

 そしてその先は……森だ


 「『虚妄の森』か」


 いきなり木が生えているのだ。

 それもかなり大きな。

 荒野と隣接しており土壌はかなり栄養が少ないはずだがお構い無しに伸びている。

 まるで何かから影響を受けているように。


 「リヴァイアド、行くぞ」

 「……はい」


 リヴァイアドは影の形や匂いでドラゴンの死体があるということは薄々感づいているだろう。

 だが、直接見せないのが彼の為だ。


 「ここから先は慎重に行く。木の上に『弓使い』がいるかもしれねぇからな。

 暗闇だから大丈夫だとは思うが、狙えなくなる森の中までは隠れて移動だ」

 「……凄いな」

 「何がだ?」


 流石はSランクパーティーのリーダーと言ったところか、指示が的確だ。

 それに土地勘と戦闘の心得もあり褒めざるを得ない。


 「何もねぇならさっさと俺に付いてこい。死にてぇのか」


 俺はドランの後ろを追い、岩肌を降りる。


 やはり魔族が上に立っているこの世界ではこう言う能力のある人間が上にいくのだろうな。

 俺が女だったら惚れてしまいそうだ。


 ……口は悪いけど。


 俺達は『虚妄の森』の暗闇へと歩みを進めた。

 『真実』を求めて。


この小説を読んで続きが気になる等と思われた方はブクマ、感想、下の☆でポイントを入れて頂けるととても連載の励みになります!!

よろしくお願い致しますm(_ _)m


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