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001  作者: Nora_
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01

皐月さつき、起きてー」


 男の子の声が聞こえてきて僕は体を起こした。

 スマホで時間を確認してみると6月26日の朝6時50分だということも分かった。

 問題だったのは今日が日曜日だということ……。


「出かけるって約束をしてたでしょー?」

「ん? え……」


 その男の子の名前は長崎祐ながさきゆう、祐は困った感じの顔でこちらを見下ろしていた。


「祐、今日は日曜日なのに何で来る?」

「だーかーらー! 今日は出かける約束があるって言ったでしょ!」


 出かける約束……果たしてあっただろうか? が、頑張って思い出そうとしても結局出てこないまま終わりを迎える。


「出かける約束だけじゃ分からない。もう少し細かい説明が必要」

「デート……って、何でそんな距離を取るの?」

「祐とは長い仲だけど、そういうつもりで見ていない」


 祐は「俺とじゃないよ!?」と叫んだ、それを見てやっとなるほどと気づく。

 今日は友達が初デートをする日……だったかも? ……適当に準備を済ませて祐と外に出る。

 それにしても慣れないデートを見せてどうしたいのだろうか? 「私達はお前らとは違うぜ」とアピールしていきたいなら別に好き勝手してくれればいいように思うが。


「皐月っ、ぼうっとしてたら危ないでしょ!」

「うるさい、日曜日くらい僕はゆっくり寝たい、それなのに下らないことに巻き込まれて正直迷惑」


 けれどそれはあくまで平日だったらの話で、休日では範囲外となる。


「そう言わないであげてよ……二人ともやっと恋人同士になれたんだよ?」

「だからってそれを見せつけるのが正解?」

「不安なんでしょ、それで俺らの意見を聞いて改善していきたいんだろうね」

「だったら祐だけが見ればいい、僕はコンビニに寄るからばいばい」

「ちょっと――」


 実に無駄な時間を過ごしてしまったとジュースを選びつつ僕は内で呟いた。

 確かあの二人は小学生の頃からの仲だと言っていたような気がする、僕と祐とは違って幼馴染でもないのに今までで関わりがあるなんて凄いと思う。

 そして実際に願いを成就させたのは紛れもない事実だ。

 でも、そこで終わりでしかない。

 人を好きになるのは勝手だし、ついつい見せたくなるのも向こうの勝手だが、僕にだって自由に選択できる権利が存在しているのだ。

 会計を済まして店の外に出たら祐がまだそこにいた、一応祐の分も買っていたので手渡した。


「ありがとう! って、帰ろうとしないでよっ」

「……逆に祐はそんなの見せられて嬉しい?」

「ふ、複雑なのは確かだけどさ、俺はずっとあの二人と関わってきたわけだし……見ててって頼んできたならしてあげたいなって思うけど」

「僕は知ってる、祐があの子を好きだったこと」


 中々酷い行為と言えるかもしれない、好きだった女の子に「デートを見てて」なんて言われる体験はどういう感覚なんだろうか? ……祐だったらへらへらしながら「分かったよ」なんて言いそうだったが。


「……終わったことだよそれは。いいからお願い! 一人じゃ……」

「はぁ……自由に断る権利が僕にもあるし祐も断ればいい、それじゃ傷つくだけ」

「……心配してくれるの?」

「無駄な時間を送りたいなら僕は止めない、帰るのも行くのも本来は祐の自由、どうする?」


 祐は散々悩んでいたものの、「やっぱり行くよ、約束だから」と口にした、それならとまだ一口も飲んでいないボトルを渡して去ることにする。

 こういうところは嫌いだ。

 したくもないことをしてへらへらして誰かのために動こうとするのは立派と言えるが、それで傷ついていたら話にならない。


「待って皐月っ」

「しつこい」

「違う……本当は行きたくないんだ! だけど約束もしてるしって悩んでて……」

「スマホ貸して」

「え? はい」


 僕はその女の子のトークに『今日は用事で行けなくなった、行けないけど楽しんできて』と送ってアプリを終了させスマホを返した。


「ん、断っておいた」

「ええ!? あ、もう既読ついてる……あれ? 怒ってないみたい。それどころか『頼んでごめんね」』って送ってきてくれてる……ありがとう皐月!」

「祐の生き方は下手くそ、嫌なら嫌って断るのが必要なのにできてない、帰る」

「待って待って、一緒に帰らないと皐月迷子になっちゃいそうだからさ!」


 まだ家から少ししか歩いていないから迷子になんてなるわけないのに……。


「祐は嫌い」

「そう言わないでよ、ほら、ボトル返すからさ」

「1度あげた物、祐のだからいらない」


 物をあげれば機嫌を直すと思われているところも嫌いだった。




 翌日の月曜日、放課後になり廊下を歩いていると祐と件の男の子が追ってきた。

 名前は平池渉ひらいけわたる


「おい綾野あやの、昨日は何で見に来てくれなかったんだよ」

「興味なかった。平池だって朝日のデート現場なんて見たくない、違う?」

「大体俺らは恋人同士なんだからそんなこと聞かれてもな……」

「まあまあ! いいから帰ろうよ!」


 僕と平池、そして鷲谷朝日わしやあさひと友達のせいで祐の反応はいつもこんな感じだ。

 目の前にいるのが恋敵だというのにへらへらして機嫌を伺っている……実に無駄な行為だろう。

 二人で帰ればいいと言って歩くと今度は朝日に遭遇した。


「皐月、渉……あ、いたわね」

「ん、ばいばい朝日」

「待ちなさい、今日は一緒に帰りましょう」


 まああのへらへら祐を見るよりかはマシか。

 帰り道、誘ってきたくせに朝日は何も喋らなかった。

 そしてあっという間に別れ道へとやってくる……きてしまう。


「……聞かないのね昨日のこと」

「興味がない」

「酷いわね……実はね、少し失敗してしまったのよ。そのせいで別れ際微妙になって今日は一度も話せていないの」


 興味ないって言ってるのにどこまで自分勝手なんだろうか。


「……そういえば祐の様子はどんな感じなの?」

「いつも通りへらへらしてる」

「……あなたは祐のことどう思っているの?」

「好きじゃない」


 少なくともあの性格を直さない限りは、とまでは言わなくていいだろう。


「祐は良い子よ? 優しいし気が利くし」


 散々祐は好意を彼女にぶつけていたというのに、素気なく振った朝日がそれを言うのかと僕は思った。

 でも仕方ないことだそれも、だって朝日にはずっと好きだった平池渉という男がいたのだから。


「僕や祐のことはどうでもいいはず。朝日は平池にだけ集中すればいい」

「……そう言われても初デートだったのに失敗してしまったのよ? どうしたらいいか分からないのよ」

「これまでしてきたように真っ直ぐ向き合うしかない、これまでのことを考えれば遥かに簡単」

「そうよね、だってずっと頑張ってきたんだもの。皐月ありがとう」


 お礼を言われる理由もよく分からないが、うんとだけ返しておいた。


「おーい朝日!」

「渉……」

「昨日は悪かったな……また今週の土曜日出かけてくれないか?」

「……ええ、私こそごめんなさい。そして、分かったわ」


 もうどうでもいいので歩いていると横に祐が並んできて言う。


「別に一人で帰らなくていいじゃん皐月」


 と。

 僕に笑いかける時もそう、結局顔色を伺うような種類のそれに、


「祐」

「何?」

「へらへらしているところを見るとイライラする、今の祐は好きじゃない」


 僕は正直なところを祐にぶつけていた。

 それは朝日が祐の告白を断った時の言葉と少し差はあるものの、似たような内容のものだ。


「え……そ、そんなこと言わなくてもよくない? 俺、結構皐月に優しくしてるつもりなんだけど……」

「優しくしてくれたのは感謝しているけど、朝日が言っていた気持ちも分かる。何でもかんでも受け入れて動けばいいというわけじゃない、祐は分かってない」

「鷲谷が言ってた気持ち分かるって……俺が振られて当然ってこと?」

「そういうことじゃない、誰にでも優しくしようとするところが信用できないってこと……だと思う」


 僕だってどうしてここまで見たくないと思うのかよく分かっていない。

 だからそれを聞かれても細かく答えてやることはできなかった。


「……皐月だけに優しくしたら好きになってくれるの?」

「祐にそんなことはできない、できるなら朝日にしていた、違う?」

「鷲谷は関係ない! 好きになってくれるかどうかだけ答えてよ!」

「好きにはならないと思う」

「……そっか、あ、家だから帰るねもう」

「ん、ばいばい」


 1つ選択をミスれば簡単に消えてしまうような脆い人間関係、別に祐だからとかではなく自分が恐らく誰も好きになれないと考えていた。


「記憶があるから面倒くさい」


 消えてしまえばいいのに、と願ったところで何も変わらない残酷な世界だ。

 それでも願った、消えてしまえばいいのに、と。

 けれど今回は実際に……。



 

 現在時刻6時50分25秒、僕は静かに体を起こした。

 そして目の前に存在している誰かも分からない男の子を見て問うのだ、誰ですかと。

 男の子は「な、何冗談を言ってるの?」と困惑しているようだったが、よく分からない。


「僕の名前は綾野皐月、どうしてあなたはここにいるんですか?」

「も、もしかして昨日のことまだ怒ってるのっ? ごめん! でも、嫌いって言ってきたのは皐月だからさ、直接嫌いなんて言われたら帰りたくもなるでしょ?」

「僕があなたに嫌いって言ったんですか?」

「ちょっと待ってよ! その敬語止めてくれない?」

「とは言われましても……」


 初対面の相手にぐいぐいタメ口でいけるような人間ではないのだ。

 自分の守るためにしていることで、求められてもどうしようもないと答えておいた。


「ほ、本当に俺の名前分からないの? な、長崎祐だよ?」

「すみません……あの、制服に着替えたいので」


 部屋から出てもらう。

 警戒しつつ制服を着て鞄も忘れずに持ち扉を開けると、そこには誰もいなくて。

 幽霊だったのだろうかと考えつつ一階へ下りたら、母と話している男の子がそこにいた。


「ちょっと皐月! 祐君のこと忘れちゃったって本当っ?」

「え……お母さん知ってるの?」

「ちょっと待って……皐月はお母さんなんて呼ばないわよ?」

「え……」


 お母さんと呼ぶのはおかしいのだろうか。

 世間一般的に大体はママかお母さん呼びだと思うのだが……。


「どうやら部分的な記憶が消えてるみたいですね」

「でも制服を着ているし、呼び方はあれだけど私のことも分かっているのよね?」

「実の母を忘れるわけがない」

「良かったー喋り方はいつも通りね!」

「だけど心配ですよ、これはもう俺が見てないと……」

「祐君っ、頼んだわよ!」

「は、はいっ、任せてください!」


 僕はふたりのやり取りを他所に母が作ってくれていた朝食を食べた。いつも通り美味い。

 食べ終わって食器を片付けて、色々しなくちゃいけないことをしてから家の外に出る。


「あの、余計なことしなくていいですから」

「そういうわけには……もしかしたら僕のせいかもしれないし」


 あれ? さっきまでは俺だった気がしたような……。

 どうでもいいか、しつこく付き纏ってくるようだったら遠慮なく本音をぶつけさせてもらえば。

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