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7.異世界の教師

「はじめまして、チサちゃん。・・・僕がチサちゃんの教師役になりましたサイモン・アダマールです。・・・何でも気軽に聞いてくださいね。」


茶髪に茶色い目の親しみやすそうなソバカス顔の男性は、そう言うと、フワリと笑った。


「チサ、サイモンは私の魔術学院の後輩で、共同研究をしていた相手なんだ。・・・なかなか優秀な男だ。・・・お前はこちらの常識に乏しいから、サイモンから色々と学ぶと良いだろう。魔力量もなかなか多いから、不便があればやらせても良い。」


ノルムさんは、いつもの無表情でそう言った。


「は、はじめまして。サイモンさん。・・・チサです。そ、その・・・そんな優秀な方に先生になっていただくなんて、申し訳無いです。」


無表情だが、ノルムさんが褒める程だ。かなり優秀な方ではあるのだろう。・・・メイドのクレアだけではなく、こんな方まで付けていただくなんて、申し訳ないな・・・。


「チサちゃん。君はさ、ノルム先輩にとって、とても大切な人だからね?・・・先輩のお役に立てるなら、僕はとても光栄な事だよ。」


・・・あ、そうか。


別に私の為じゃないのか。ノルムさんの役に立ちたいって事か・・・。

そう、だよね・・・少し考えたら、分かる事だ。


「ノルムさんは、優秀な魔道士さんなんですね・・・。」


こんなにノルムさんを慕う者がいるのだから、きっとそうなのだろう。

魔物になるほどの溢れる魔力をお持ちなのだし・・・。


「優秀かは知らないが、魔力量の多い魔導士ではあるな。・・・そう言えば、異界には魔法が無いらしいな?」


私が尋ねると、ノルムさんはそう答える。


「あの・・・。どんな魔法があるのですか?」


私が聞くと、ノルムさんは生粋の魔道士なのだろう・・・とても難しい説明を延々とし始めた。魔法について、生き生きと語るノルムさんは、とても眩しい。・・・私を得た事で長生きできる事になったから、もっと研究を深めたいと、熱い意気込みまで語ってくれた。


「・・・特に私は回復の魔法を得意としているんだ。」


「へえ・・・。」


「それを薬草に込めて、薬を作ったりしている。また、新たな薬の合成にも着手しようと考えているんだ。・・・少ない魔力量でも効果の高い薬が生み出せれば、市井の人々の暮らしもさらに良くなるだろう。」


・・・そうなんだ。


私がいれば、この世界の隅っこに暮らす人にも恩恵が行くのか。・・・こんな凄い人を救えたなら、まぁ・・・ちょっとは良かったのかもな。


「ねえ、すごいだろ?!・・・先輩がこれからも、研究を続けられるのは、チサちゃんのおかげだよ?先輩の研究で沢山の人が救われるんだ。・・・本当に、すごい事だよね。」


サイモンさんは心酔しきったようにそう言うと、私に笑いかけた。


◇◇◇


サイモンさんは本当に優秀な方だった。


私が疑問に思う事を分かりやすく説明してくれるし、教え方も嫌味が無くて聞きやすい。

穏やかで話しやすくて、帰りには魔法で浴槽にお湯まで張ってくれる。


・・・全部、ノルムさんの為・・・なんだろうけど。


今日は二人でこの世界の地図を見ていた。


「この世界は・・・とても狭いのですね。」


ノルムさんが見せてくれた地図には、海と大きな大陸が一つあるのみだ。


「いいや、違うんだよ。他にも大陸はあるんだが、位置関係がイマイチ良く分かっていなくって・・・自分の国のある大陸の地図しか無いってのが本当の所だね・・・。」


「へえ・・・そうなんですね。では・・・他の大陸との行き来はあまり無いのですか?」


「いや・・・そんな事は無いんだ。船乗りたちは羅針盤と、日中なら太陽を見て進むし、夜は『印星』って星を頼りに進むらしい。・・・だから往来はあるし、船乗り達は他の大陸も描かれた地図を持ってはいるらしいけど、そこまで一般的では無いんだよね・・・。」


・・・なるほど・・・そうなんだ。


「・・・『印星』・・・って、『北極星』、ですかね?・・・私のいた世界では、北に『北極星』っていう、ほとんど動かない明るい星があるんですけど・・・。」


そう言えば・・・異世界の星って、どんななのだろう?

こっちは、やたらと『月』が青白くて不気味なのは知ってるけど・・・。


「ん?『北極星』???・・・北の動かない星・・・。へぇ、異界はそうなんだね?・・・そうだな、その言い方だと、こちらの世界には『南極星』って事になるのかな?南にだけど、やっぱりほとんど動かない明るい星があるんだよ・・・。そうだ、良かったら今度、星を見にいかないか?」


「え・・・?いいんですか?」


サイモンさんが居てくれる時間は、だいたい夕方くらいまでだ。

・・・星を見るとなると、夜まで居ていただく事になるだろう・・・残業ってやつ、だよね。


「・・・うん。良かったら、良く星が見える場所もあるんだよ。どう・・・かな?」


・・・。


私はあの月を見てから、考えている事がある。


この『異世界』は、地球とは違う惑星なのでは無いだろうか・・・と。

あの、やたらと大きな『月』も、『南極星』も、きっとそう言う事なのでは無いだろうか・・・。


だったら・・・もしかしたら、もしかして・・・地球が見えたりしないだろうか?・・・地球はダメでも、恒星である太陽なら見えないだろうか?


・・・星に詳しく無い私には、それを知る術は無いかも知れないけれど・・・でも・・・。


「サイモンさんは、星にお詳しいのですか?」


「それ程でもないけど、少しなら分かるよ?・・・どうかな、チサちゃん?」


・・・なら、お言葉に甘えてみようかな?


私は、その提案に頷いた。


サイモンさんは嬉しそうに微笑むと、「ノルム先輩には秘密だよ?きっと煩いからね?」そう言って、帰っていった。


・・・だけど、ノルムさんに黙って夜に屋敷を抜け出す訳にはいかないだろう。いくらサイモンさんが一緒とは言え、保護者の了解は必要だよね・・・?


私は、夕食の時にノルムさんに天体観測に行くという事を話そうと心に決めた。






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