おまけ 異世界で子どもをつくる方法 前編
思い付いてしまったので、おまけを追加しました。
エロくないのですが、なんだかヤバい話です。
あんまり読まれなかった話だし・・・どうせ誰も見てないからいいよね???
「はあ・・・。」
思わず溜息を漏らすと、サイモンさんが気遣わしげに私の肩を抱いた。
私が手にしているのは、シャルロッテ様からのお茶会兼、赤ちゃんのお披露目会の招待状だ。
シャルロッテ様はつい最近、第二子を出産され、体調が整ったので是非に・・・と、ノルムさんや私たちをお茶会に招いてくれたのだ。
すごくおめでたいし、嬉しいって思う。
だけど・・・。
私とサイモンさんが結婚してはや5年・・・。
一向に私たちは、子供に恵まれない。
結婚して1年目は特に気にしていなかった。
2年目でアレ?って思ったけれど、サイモンさんと結婚するまでに色々とあって、ストレスで生理が止まったりした事もあったから、私はなるべく体に気をつけようって思って終わった。
3年目になると、サイモンさんも不安になってきて、『知佐都の世界とこの世界は子供の作り方が違うのでしょうか?』なんて聞いてきた。だけど、そんな訳はなく・・・なので、お互いの知識を使って妊活に励もうって話になった。
4年目はなると、今度は周りからも『子供はまだ?』って聞かれるようになった。(ただし、人に無関心なノルムさんを除く。)だけど、サイモンさんの薬草の知識も、私のいた世界での知識も、まるで成果を結ばず、私たちには焦りが生まれはじめた。
そして・・・とうとう5年目。
「なあ、知佐都・・・。ノルム先輩に相談してみない?気まずいとか、恥ずかしいってのも分かるけれど、僕らが知る限りで良いと思う事は試してきたし、このままこうしていているよりは可能性があると思うんだ。少なくとも、先輩は薬草学の権威だし、僕より知識もある。魔力もすごいから、ひょっとしたら先輩が作った薬なら・・・。」
「うん・・・そうだね。」
なんとなく、あのノルムさんにこんな相談をするのは憚られて、私たちはこの話を彼にした事はなかった。
この世界には不妊外来など存在しない。
不妊治療ってなると、主に魔法がかかった薬湯を飲む事になる。・・・そして、それはかなり魔力が高く、薬草学のエキスパートでもあるサイモンさんが作った魔法薬で散々試してきた。
一方で私も、子供が出来やすい日を計算したり、体を冷やさないとか、ストレスを溜めないとか・・・あちらの世界で良いとされてきた事を、合わせ技で取り入れてもみた。
・・・。
でも、全然ダメだった・・・。
こうなると、サイモンさんの言うように、蘇生薬すら調合できるノルムさんに頼るのが、一番良い方法に思えてきた。
◇
「子供が出来ない・・・?」
夕食の時に、サイモンさんが思いきって話を切り出すと、ノルムさんは美しい顔を不思議そうに傾げる。
サイモンさんと結婚し、ノルムさんと同居している私たちは、夕飯だけは毎日3人で一緒に食べている。・・・まあ、そうでもしないとノルムさんは研究に明け暮れて、家に帰って来なくなるし、私と長い時間離れ過ぎるとノルムさんの体調にも障るので、これは3人で暮らす上でのお約束なのだ。
「なんと・・・。サイモンは、子供の作り方を知らなかったのか・・・。」
「いえ!知ってますから!」
「なるほど・・・。じゃあ、サイモンは『種なし』なんだな。」
「えええっ?!・・・そ、それは・・・そ・・・そうなのかも・・・?」
ノルムさんは相変わらずノルムさんだ。
不妊の場合、女性が責められがちだが、ノルムさんは真っ先にサイモンさんが原因だと言い切った。
ノルムさんの『種なし』発言に、サイモンさんはベッコリと凹み、俯いてしまう。
「あ、あの・・・ノルムさん、私が原因かもです。」
「じゃあチサ、私と試してみよう!・・・それでチサが子供に恵まれれば、種なしはサイモンだ。恵まれなければ、チサの体に原因があると分かる。」
ノルムさんはサラッとそう言って、半目になった。
この半目はノルムさんの中では甘い笑顔・・・なのだそうだ。
「ちょっと先輩、何言ってるんですか!!!知佐都は先輩と試したりしません!!!絶対にダメです!!!・・・てか、先輩だって『種なし』かも知れないじゃないですか。その検証に意味はありません。以前、子供を授かった実績のある人ならともかく・・・!」
サイモンさんは普段は常識人なのだが、ノルムさんといると時々ズレてしまう。
実績のあるなしに関わらず、私はサイモンさん以外の誰とも試してみる気はない。だって、私が欲しいと切に願っているのはサイモンさんとの子供なのだから・・・。
そう言いかけると、ノルムさんが口を開いた。
「ふむ。なるほど。そうするとウィリアムだな!あいつはシャルロッテに子供を二人も生ませた実績があるし、頭も顔もいい。チサ、私から頼んでやろうか・・・?」
「「・・・。」」
さすがノルムさんなトンデモ人選に、サイモンさんと私は声が出ない。ウィリアム陛下はこの国の王様なのですが!!!
「せ、先輩!!!」
サイモンさんが怒鳴るとノルムさんは肩をすくめる。
なんか、わざとやってません?これ???
「・・・ノルムさん、私たち本気で悩んでるんですよ?」
「ん・・・。そうだったな。・・・すまない、少し冗談が過ぎた。」
「先輩・・・どこからどこまでが冗談ですか?」
「まあ、全部だ。」
「は?」
「え?」
「簡単に言うと、サイモンとチサに子供は出来ない。」
「「・・・え。」」
ノルムさんの発言に、私とサイモンさんは目を見開く。
「チサは私たちと同じようにしか見えないが、厳密には違う種類の人間なんだ。・・・それゆえ、魔力がない。」
「違う・・・種類・・・?」
私が目眩を感じながらそう言うと、サイモンさんが隣にやってきて私の肩を抱き寄せた。
「しかし先輩・・・犬は種類が違っても子供が出来るではありませんか?」
「ああ・・・。しかし、犬は犬種によって見た目がかなり違うが、種族という意味では同じ種なんだ。しかしながら、落ち人と私たちは見た目がソックリにも関わらず、かなり離れた種であるらしい。・・・多分だが私たちには、サルと人くらいの差があるのだ。それで子供は出来ない。・・・ちなみにチサ、私やサイモンがサルだからな?チサが人という意味で言ってるから、ショックは受けないでくれ・・・。」
ノルムさん・・・私、そこはそんなに気にしてません・・・。
それよりも、どう足掻いても私とサイモンさんでは、子供が望めないって事の方がショックです!!!
「そ・・・そんな・・・。ノルムさん・・・な、なんでそれ、早く言ってくれなかったんですか?!・・・そんな大事な事を黙ってたなんて、酷いです!」
ノルムさんを責めても仕方ないのに、私はつい八つ当たり気味にそう言ってしまった。
ブワッと涙が溢れてくる。
種が違うから、サイモンさんとの子供が絶対に授からないって・・・どう受け止めていいかわからないよ・・・。
サイモンさんがギュッと私を抱きしめてくれる。
「先輩、なぜこんな大切な事をずっと黙ってたんですか?」
サイモンさんの声も低くて震えていた。
「え???・・・えっと・・・子供が出来ないって事は、その・・・大事な事なのか???・・・す、すまない、それ・・・知らなかった・・・。」
「「・・・。」」
どこまでもズレているノルムさんに、ショックを通り越してしまい、呆気に取られる。
でも、どう見てもノルムさんの今の顔は、本当に分かってなくて混乱している顔だ。
「いやいや先輩、普通は結婚したら子供欲しいって思いません?」
「サイモン・・・お前はそうやって『普通』に囚われているから凡庸だと言われるのだ。・・・じゃあ何か、サイモンはチサが子供を産めないと知っていたら、チサと結婚しなかったのか???」
「そ、それは!・・・そんな事は絶対にないです!!!」
「・・・なら、別に子供ができようができまいが、構わないだろ。そもそも・・・要らないだろ、子供なんて。」
「「え・・・?」」
「いるか、アレ???・・・赤ん坊なんて泣いて煩いし、ヨダレでベタベタで何でも口に入れて汚いし、世話がかかる。シャルロッテの赤ん坊は、私の絹の手袋をチューチュー吸ってたんだぞ?!怒鳴って取り返したらギャン泣きされてウィリアムに睨まれた。・・・理不尽ではないか!あの手袋はお気に入りだったんだ!私の方が泣きたかったのに、だ!」
前に、シャルロッテ様の赤ちゃんを見に行った時にノルムさんとウィリアム陛下が何だかモメてたけど・・・それでだったのか。そりゃ、赤ちゃん怒鳴って泣かせたら、睨まれますって・・・。
・・・そうか、ノルムさん・・・子供絶対に欲しくないタイプの人間だったのか。なんかまあ、分かる・・・。子供って他人の赤ちゃんを嫌うからな・・・。
「あっ!そうだ、ダイキだ!・・・ダイキとチサなら子供が望めるはずだ。同郷なのだろ?!ウィリアムに頼んでやろう。2人産んで、1人ずつ分けたら良いじゃないか。」
良い事思い付いた!みたいに言いますが、全然良いアイデアじゃないですよ、それ。
「ノルムさん、私が産みたかったのは、愛するサイモンさんの赤ちゃんなんです。赤ちゃんを産めれば何でもいいって訳じゃないです。・・・それに、赤ちゃんは物じゃないので、産んだら分けるなんて絶対にできません。愛した人と慈しんで育てていく、すごく大切なもの・・・未来みたいなもんなんですよ?」
「そ、そうなのか・・・。う、うーーーん・・・。」
噛み砕いて私の気持ちを言い聞かせると、ノルムさんは黙って考え込んだ。
◇
数日後の夕食事・・・。
「チサ、サイモンの子供なら産ませてやれるかも知れない。」
突然、ノルムさんがそう言った。
「・・・どういう事ですか?」
「サイモンと誰かの子供をチサが産むって事なら技術的には可能性なんだ。」
・・・。
他の人から卵子提供を受けるって事か・・・。
元の世界でも、そういう話は聞いた事がある。
「そ・・・それは・・・。」
サイモンさんとの子供は欲しい。
だけど、簡単に私は頷けなかった。
そりゃ・・・自分がお腹を痛めて産むし、選択としては、ありかも知れない。
だけど、子供はサイモンさんに似ず、見知らぬ女性ソックリになるかも知れない。つまりは、そうなったとしても、躊躇ったり迷わずに、愛して育ていくという、大きな決心と覚悟がいるだろう。
「先輩・・・。僕が欲しいのは知佐都との子供なんですよね。他の女性との子供ってのは、ちょっと・・・。」
サイモンさんも引っかかるものがあるのだろう、口を濁す。
「ダメなのか?」
「ダメっていうか・・・。うーん・・・他の女性と僕の子供ってのは、なんか複雑な気持ちになっちゃうと思うんですよね・・・。・・・知佐都はどう?」
「そ、そうですね・・・。元の世界でもそういう話はあったのですが、自分がやるとなると、かなりの覚悟が必要だなと思います。それに私も・・・やっぱりサイモンさんと別の女性の子供ってとこに、ひっかかっちゃうかも知れません。子供は産んだら終わりって訳ではありませんし・・・。」
私がそう言うと、ノルムさんは「なるほど・・・。やっぱり提供してもらう女性ってのが問題になるんだな・・・。」と呟いて、少し置いてからコホンと咳払いをした。
「じゃあ、私とサイモンの子供ならどうだ?」
「「は、はいっ?!」」
今度は何を言い出した?!とばかりに、2人でノルムさんを見つめ、それからサイモンさんと顔を見合わせた。
「サ、サイモンさん。あの・・・この世界って、魔法を使ったら女性にもなれちゃって、男同士でも子供が出来るんですか?」
「いや・・・まさか。もちろん女性に見せる魔術はあるんだよ?ただそれは、あくまで相手に誤認させるっていう幻覚の魔術なんだ。だから本来の性別は変わらないんだよ。・・・当たり前だけど、子供は普通に異性との間にしかできないよ。」
「なるほど・・・。」
魔法で見られるらしきサイモンとノルムさんの女性の姿が非常に気になってしまったが、今は話題が横にそれすぎるので、私は頭からそれを振り払った。
「サイモン!!!・・・『当たり前』や『普通』なんかに囚われるなと、私は何度も言っているだろう?!だからお前はつまらないんだ。」
「すみませんね、つまらなくて。・・・僕、先輩みたいにズレまくった面白さは目指して生きてないんで。」
「・・・まあいい、それがサイモンの味だ。」
「あの、先輩?そしたらサッサと頓珍漢なお話、続けてもらえませんか?」
サイモンさんは、なんだかんだで言う事は言うくせに、ノルムさんを上手く操縦するんだよね・・・ある意味、それこそ普通じゃなくて凄いって私は思うけど。
「ああ、そうだったな・・・実は細胞の形を変えるという魔術があるんだ。まだ研究段階なんだが、例えば皮膚の細胞を変化させて、臓器の細胞にする・・・なんて研究をしている奴らがいる。」
「へえ・・・。魔法ってすごい。」
「チサ、魔法じゃない魔術だ。」
ノルムさんいわく、魔法と魔術は別ものなんだって。・・・ちなみに「サイモンさんも言い方とか気になりますか?」って聞いてみたが、「僕はどっちだって話が通じるし、別に気にしないけど?」って笑いながら言ってくれた。
やっぱり私の旦那様って、おおらかで素敵・・・。
「だが・・・。そいつらが言うに、男の生殖細胞を女の生殖細胞の型に変化させる事は、何故か出来ないんだと言うんだ。同じひとつの細胞なのに・・・と。逆もダメらしい。」
「そうなんですか。なんでだろう・・・数は釣り合っているのに・・・生命の神秘ってやつですかね?」
サイモンさんがそう言うとノルムさんは首を横に振った。
「・・・あのな、女性の生殖細胞は一生で生み出せる数が男性に比べ圧倒的に少なくないんだ。」
「さすがにその位は僕も知ってますよ。・・・あっ!」
「そうだ。・・・変換が上手くいかないのは、価値が違うからなんだ。思うに・・・男性の1ヶ月分の生殖細胞全てが、女性の生殖細胞一つと価値が釣り合うのではないだろうか?逆は価値が高すぎるものを価値の低い一つにまとめようとするから崩壊が起きてるんだと思う。・・・つまり、1ヶ月分の男性の生殖細胞全てを魔法で生きたままビンで保管しておき、これを魔術で一つにまとめ、女性型の生殖細胞に変化させれば・・・上手くいくのでは???・・・どうだ!これが天才の閃きってヤツだ!!!」
「「・・・。」」
なんか一瞬で色々と妄想が捗ってしまい、サイモンさんと私はしぶくちな顔になってしまった。
1ヶ月分ビンに保存しとくってさ・・・。
「なんか僕、嫌ですよ。ビンに貯めるとか・・・。」
「何言ってるんだ?やるのは私だぞ?・・・サイモンには出来ないだろう?1か月間もの長期間、ビンに時間停止の魔術だけをかけ続けるだけでなく、温度や湿度もコントロールし続けるなど・・・。これは凡人にできる事ではない。」
色々な意味で凡人には出来ないと思う・・・。
「だからサイモンの出番は最後だけだ。それで私とサイモンの生殖細胞から受精卵をつくり、チサのお腹で育ててもらう・・・。そしたら、生まれて来るのはチサと私とサイモンの子供って事になるだろ?!どうだ、他の女は出てこないし、チサは知らない女性にヤキモチを妬かずにすむ。運命の相手である私とサイモンの子供なのだから、チサも嬉しいよな?!サイモンだって敬愛する私との子供なんて、光栄だろ?!それに私も・・・シャルロッテとウィリアムの赤ん坊なんか1ミリも興味が湧かなかったが、サイモンとチサとの子供は違う。私たちの暮らしを変え、見たことのない未来へ連れて行ってくれるとは思わないか?!」
ノルムさんは得意げで自信たっぷりに明るくそう言うが・・・。
う、うーーーん?!?!
・・・。
・・・。
確かにそれは・・・。
・・・。
・・・。
嫌じゃないのが、なんか嫌だ・・・。
倫理感も常識も、なんかどっか飛んでいってる。
なのにアリかなって思ってしまった自分が嫌だ。
・・・。
ふと、サイモンさんとバチッと目が合い、私たちはお互いの意思を確認し合った。
そして、サイモンさんはノルムさんに言う。
「この話は、持ち帰らせて夫婦でゆっくりと考えさせて下さい。」・・・と。
・・・そう。
非常に残念な事に、サイモンさんの顔にも、私と同じ様な表情が浮かんでいたのだ。
つまり、私とサイモンさんは苦笑いを浮かべるしかなかった。
だって、凡庸でつまらない私たちは、こんな普通じゃない事に・・・とりあえず、即答だけはしたくないのだから。




