27.異世界で魔王の誕生
「・・・実は、魔王が誕生してしまったそうだ。100年ぶりになる。」
パーティーが終わり、私たちが王子様の元へ赴くと、王子様は真っ青な顔でノルムさんにそう告げた。
「・・・。何故だ?・・・魔王になりそうな『終末の魔道士』など居なかったはずだ。そもそも、そうならないよう、私たちは生まれた時から、この力の恐ろしさを自覚するように育てられてきている。・・・魔王になどなる事が、民衆にどれほどの脅威をもたらすか、王族や王家に連なる者として、みな自覚があるはずだ。」
「・・・ああ。そう育てられた僕たちはね。・・・魔王になったのは・・・ある公爵の落胤だ・・・。公爵自身も自分に落胤がいる事を知らなかった。彼は子供の頃から魔力を暴走させ続け・・・人里離れた場所で暮らしていたらしい。そして魔力と命を使い切るやり方も理由も知らないまま、魔物を産み続ける存在になっていた・・・。最近、近隣の村で人が何かに襲われて殺される事件が頻発していたんだ。そこで調査団を送ると・・・この事実が判明した。」
王子様の話にノルムさんは真っ青になり、言葉を失う。
ダイキさんは気をやりそうになるシャルロッテさんを支えている。・・・サイモンさんすら深刻そうに顔を顰めた。
・・・『落ち人』の来なかった『終末の魔道士』は、余剰魔力が過ぎると、魔物を産むようになり、自我を崩壊させ、魔王という存在になるとは聞いていた。だから、そうならない為に、生命力を削る程の魔力を使い続けて死ぬと・・・。
だけど・・・『終末の魔道士』たちが、自らを犠牲にして防いできた・・・最悪の結末・・・魔王が誕生してしまった・・・。
私も、今から100年前に魔王が誕生し、この世界にどれほどの犠牲と混乱をもたらしたかに付いては、サイモンさんから授業として聞いていた。それが、また・・・起きるの?
・・・不安になってサイモンさんを見上げると、私の手をギュッと握ってくれる。
王子様も青い顔のまま、ノルムさんを見つめた。
「ノルム・・・チサちゃんを手放して、僕と魔王を倒しに行ってくれないか。今いる『終末の魔道士』の中で最も魔力が高いのは君だ。僕もダイキと離れる。多分、攻撃力にかけては僕が一番だろうし・・・。『落ち人』と暫く離れていれば、また生命力を削るほどの魔力が使えるようになる。・・・他にも『終末の魔道士』で魔力や能力が高い順に、数名を募り、討伐に乗り出そう。これは僕たち『終末の魔道士』同士がケリをつけるべき事だから・・・。」
「・・・ああ、そうだろうな。」
ノルムさんはそう言って頷いた。
とうとう、シャルロッテさんの美しい瞳からは涙が溢れはじめる。王子様はその顔を悲痛な面持ちで見つめ、静かに話しはじめる。
「シャルロッテ・・・すまない。やっと婚約できたのに・・・こんな・・・。だが、王子として『終末の魔道士』として、やるしかないんだ。どうか、ダイキを頼む・・・。ダイキもシャルロッテを支えてやってくれ。」
「・・・わかり・・・ました。ご・・・ご武運を・・・。」
「ウィル。シャリーと、お前の帰りを待ってる。・・・俺はお前を信じているからな。」
口元を押さえて声を殺すシャルロッテさんを抱きとめ、ダイキさんは王子様に力強く声をかける。
王子様は二人に近づき、二人を強く抱きしめた。
「シャリー、ディー・・・必ず帰る。・・・愛する二人の元に。」
その様子を私とノルムさんとサイモンさんは、ただ見つめていた。・・・王子様とダイキさんて・・・まあシャルロッテさんも含めてだけど・・・運命感がすごいよね。
無表情で考え込むノルムさんをチラリと見つめると、バチリと目が合ってしまった。
「・・・チサ、サイモン、私たちもあれをやろうか?」
「あ・・・大丈夫です。・・・でも、どうかご無事で。」
「先輩、チサちゃんは僕に任せ下さい。・・・どうせ先輩ならしぶといんで、帰ってきちゃうって思ってます。」
私たちがそう言うと、ノルムさんは溜息を吐いた。
いや、溜息吐きたいのこっちだし・・・。
「・・・おい、ウィル。そうすると、魔王が生まれたって事は、『魔力持ちの落ち人』が来るのか。」
ヒシッと抱き合い、お互いの無事を祈り合う三人を気にもとめず、ノルムさんは王子様に聞いた。
「あ。ああ。そ、そうだね、多分・・・近々、落ちてくるはずだよ?そうか・・・それから出立する事になるね・・・。」
王子様はハッとした様に顔を上げる。
魔力ありの『落ち人』???
そういえば、そういう『落ち人』もいると聞いたけど???
私が首を傾げていると、サイモンさんは小声で解説を入れてくれる。
「通常ね、『落ち人』には魔力が無いだろ?チサちゃんみたいに。・・・それは魔力の有り余る『終末の魔道士』を救う為に落ちてくるからだって言われてる。・・・でも、ごくたまに『魔力有りの落ち人』が落ちてくるんだ・・・。それは、魔王になってしまった『終末の魔道士』を救う・・・倒す為だと言われている・・・。彼らは、この世界の理りとはまるで違う魔力を使う。その為、魔王を倒すのに圧倒的に有利なんだ。」
そこまで言うと、サイモンさんは言いにくそうになり、下を向いてしまった。
・・・え・・・?
「・・・どうしました?」
「・・・あの・・・。・・・隠そうとするなんて、僕は醜いし、本当に小物だよね・・・。あのね、『魔力有りの落ち人』に限っては、魔王を倒すと元の世界に戻れるらしいんだ。・・・もう、救うべき運命の相手がこの世界にいないから・・・らしいけど。・・・あ、あの、それでね・・・その機会に、もしかしたらチサちゃんも、帰れるかも知れないって思ったんだ。」
そう言ったサイモンの瞳が悲し気に揺れている。
え・・・。帰れる、かも・・・知れない?
「もちろん、ノルム先輩を置いていく事になるし・・・まあ、死なないけど僕の事もね・・・。だけど、この世界が辛いならノルム先輩にお願いしてみないか?ノルム先輩は討伐に出るんだろ?・・・魔王を倒した瞬間に、チサちゃんをその場に呼んでもらうんだ。・・・そうしたら、君もきっと帰れる。チサちゃんは落ちてきてまだ1年も過ぎてない。・・・きっと戻れば、元の暮らしに戻れるよ。」
「サイモン、さん・・・?」
「僕・・・チサちゃんが好きだよ。だけど、僕は『終末の魔道士』じゃないから、運命相手でもないし、シャルロッテ様とダイキ様みたいに強い絆だって、まだそこまでは無いよね。付き合いはじめたばかりだし・・・。ノルム先輩がどう考えてるかは分からないけど、チサちゃんが帰りたいなら、僕は手伝うよ。きっと、戻れば僕の事なんて忘れてしまえる。・・・先輩は死んでしまうから、違うかも知れないけど、でもさ、それだって、チサちゃんが落ちて来なければ、そうなってた事だ。・・・戻って日常に煩雑されたら、いつかは遠い異世界の事なんて、遠い記憶になっていくよ・・・。」
サイモンさんは静かにそう言うと顔を伏せた。




