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23.異世界の甘い笑顔

「・・・チサちゃん。ノルム先輩はどうしちゃったの?」


サイモンが引きつった笑顔で私に聞いてくる。

・・・ですよね、そう思いますよね。


シャルロッテさんから、ロマンス小説を借りて熟読したらしいノルムさんは、朝から気味の悪い薄笑いをずっと浮かべているのだ。


サイモンさんがビックリして、聞いてくるのも分かるよね。


「・・・えっと。『甘い笑顔』らしいです。」


「な、なにそれ?!」


サイモンさんはノルムさんを二度見する。

・・・ちょっと失礼かも。でも、気持ちはわかります。


「サイモン、何か文句があるのか。・・・これは『甘い笑顔』だ。・・・シャルロッテから借りた本のヒーローは、そういう顔をするからな。『甘い笑顔』とはどうやるのかと執事に確認したところ、薄く笑うと回答を得たのだ。これでチサを見つめると良いらしい。」


・・・。

まるで、良くないけど。


ノルムさんは真顔でそう話すと、また全然甘く無い『甘い笑顔』を浮かべた。


「・・・チサちゃん、ノルム先輩はとりあえず置いておいて、今日は、この国のお祭りについてお勉強しようと思っているんだ。」


「・・・お祭り、ですか?」


「うん。そう。・・・夏が終わって秋が来ると、この国にお祭りの季節『収穫期』がやってくるんだ。『収穫期』には豊穣の女神に収穫物を捧げて、素晴らしい実りに感謝するお祭りが各地で行われる。・・・ここ王都でも、もちろんお祭りが行われるんだよ。『収穫期』のお祭りの中では1番の規模でね、王族から公爵家までが、着飾ってパレードに参加して、お菓子を撒き散らすんだ。それが子供たちに大人気でね・・・ちょっと、楽しそうだろ。」


へえ。確かに楽しそう!


・・・あれ、公爵家?


「ノルムさんも、お子さんにお菓子を撒くんですか?」


私はノルムさんにそう尋ねるが、相変わらず気味の悪い薄笑いを顔に貼り付けて私をジッと見つみめており、それを崩さない為にか、答える気は無いようだ。


「・・・ノルム先輩はノルム先輩だから、お菓子の代わりにお薬を撒き散らしてるんだよ。ちょっとした回復薬らしいんだけど、夏の終わりくらいから、有り余る魔力で大量に作って、それを撒くんだ。・・・神経痛のお年寄りに大人気で、ノルム先輩の周りには子供ではなくお爺ちゃんお婆ちゃんが群がるんだよ。」


「へ、へえ・・・。」


まあ、子供に好かれるキャラじゃないしね、確実に。


「サイモン違うぞ。・・・菓子より薬のほうが、ありがたいに決まっている。飴など一時の楽しみにしかならん。平民の中には薬すら買えない奴もいるんだ。あの薬は地味だが、とても安全でそこそこ効果も高い。真面目に使い続ければ、だいぶ良くなるものなんだ!・・・あれを楽しみにしている奴もたくさんいるのだ。」


ノルムさんはとうとう痺れを切らして、そう話した。


「まあ、先輩のお薬撒きは、名物のひとつんだよね。・・・だからチサちゃん、一緒に見に行かない?先輩の勇姿を。」


「・・・え。」


「先輩はパレードに出るだろ?だから、僕とチサちゃんでそれを観に行こう?きっと先輩の人気ぶりに驚くよ!・・・それにね、お祭りには、屋台とか見せ物小屋なんかも沢山あって、すごく楽しいんだよ。僕が色々と案内するから。・・・ね、先輩、チサちゃんを案内しても良いですよね?」


・・・えっと・・・これってノルムさんをダシにして、堂々とお祭りデートに誘われてる気がするんだけど・・・???


お祭りには行ってみたいけど・・・さすがに、ノルムさんもこの魂胆には気付くよ、ね???


「おお!是非そうすると良い。・・・私の人気ぶりに、チサは思わず嫉妬してしまうだろうな!」


・・・え???


「そうですね、ノルム先輩は格好良いですしね!」


サイモンさんが笑顔でそう言うと、ノルムさんは『甘い笑顔』のまま頷く。


えっと・・・サイモンさんて、結構・・・イイ性格、なの???優しいのは本当に優しいけど、それだけじゃない・・・のね?


シャルロッテさんは『人徳者』だからノルムさんと上手くやれるんじゃないかと言ってたけど、ノルムさんをあしらうのが、とっても上手いってのがあるんじゃ・・・。


「じゃあ、来月末にあるお祭りは、僕と行こうね!・・・楽しみだね、チサちゃん!」


そう言うとサイモンさんは・・・本当に甘い笑顔を浮かべて笑った。


「・・・は、はい。」


思わず、顔が赤くなってしまう。


サイモンさんは、普通っぽい顔立ちだけど・・・すごく素敵な笑顔をくれるから、いつもドキドキしてしまう・・・。


「・・・あ・・・。えーっと・・・せ、せっかくだから、豊穣の女神についても説明するね!」


サイモンさんもハッとして赤くなり、慌てて本を取り出す。


・・・来月末のお祭り・・・すごく楽しみだな・・・。

そんな気持ちを噛みしめていると、不意にノルムさんが言った。


「ああ、そうだ。・・・サイモン、今度、ウィリアム殿下とシャルロッテ嬢の婚約者パーティーがあるだろ?・・・お前も行くのか?」


「・・・いえ?・・・さすがに伯爵家の私にまでは声はかかりませんよ。嫡男でもありませんし・・・?」


不意にシャルロッテさんたちの婚約パーティーについて聞かれて、サイモンさんはは戸惑ったように答える。


「・・・そうか。ではシャルロッテに招待するように言っておく。・・・私も婚約者のチサと出るつもりなんだ。ついでに各方面に婚約者として紹介したくてね。・・・サイモンも婚約者と出たら良い。チサもサイモンの婚約者に会ってみたいだろう?」


・・・え。

ど・・・どういう・・・事???


サイモンさんを見つめると、サイモンさんは苦笑いする。


「・・・先輩、良くご存知で。」


「公爵家の情報網を甘くみては困る。・・・チサ、サイモンは近々婚約するそうなんだ。・・・こんなのに騙されてはいけない。チサを口説いておいて、あまりに酷いではないか、サイモン。見損なったぞ!」


ノルムさんは勝ち誇った様にそう言うと、サイモンさんを睨んだ。


「・・・チサちゃん、・・・勝手に・・・ごめんね。」


・・・え。

そ・・・そ・・・そんな・・・。


サイモンさんは・・・誰かと婚約してしまう・・・の?


心臓がバクバクして、世界が揺れて見える。

そんな・・・。だって・・・今さっきお祭りに行こうって・・・。


サイモンさんはフッと悲しげな目で私を見つめると、ノルムさんを睨み、こう言った。


「先輩が、チサちゃんを騙してしてした婚約をいつまでも解消しないのが悪いのです。・・・だから、僕は異議申し立てをする為に、僕とチサちゃんが婚約したという書面も提出いたしました。・・・事実上の宣戦布告です。チサちゃんは僕の婚約者でもある。」


え?


・・・は、はぁ???






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