21.異世界のお友達
「何でお前は来たんだ。・・・自分の立場が分からない訳でもあるまい。」
ノルムさんは不愉快そうに顔を歪めると・・・シャルロッテさんを睨んだ。
「別に私、ノルムに会いに来た訳ではなくてよ?・・・チサさんに新しい本をお持ちしただけですもの。・・・チサさん、ごきげんよう。それで・・・どうでして?あの冒険小説?!チサさんも気に入って下さったかしらって、ずっと考えてましたの!それで・・・私ね、今回はあの冒険小説の続編と、他にもおすすめの本をお持ちしましたのよ?!」
シャルロッテさんはノルムさんにピシャリとそう言うと、もはやノルムさんなど無視して私に向き直り、本をニコニコと手渡す。
「あ・・・!ありがとうございます。」
こちらの世界に来て、はじめて気に入った小説の続編だ。
嬉しく無い訳がなく、思わず顔が緩む。
「気に入って下さったのね?嬉しいわ。」
「はい。とても面白くて、あっと言う間に読んでしまいました。」
私がそう答えるとシャルロッテさんは、嬉しそうに目を細めた。
「おい。・・・シャルロッテ、帰れ。殿下の婚約者たるお前が、いくら幼馴染とはいえ、私の家に来るなど、あまり褒められた事では無いだろう。」
シャルロッテさんは、チラリとノルムさんを見つめて言う。
「ここは、別に貴方だけのお家では無いじゃない?・・・私、チサさんに会いに、チサさんのお家を訪ねただけに過ぎませんのよ。・・・むしろノルムは、なんでいらっしゃるの?なんだか邪魔だわ・・・。」
「私はチサの為に、研究を一年も休む事にしたんだ。・・・そして今はこうして、チサの為に薬草図鑑を作成している。」
ノルムさんは、手を止めてシャルロッテさんに自作の図鑑を見せつける。
ここ暫く、先日のフィールドワークで採ってきたレア薬草をノルムさんは魔法で加工して、分厚いノートに貼り付け、ものすごく長くてマニアックな解説(サイモンさん談)を書いて、図鑑を作成しているのだ。
「私はこれが完成した暁には、チサに贈るつもりだ。サイモンも、『専門的すぎて、僕が欲しいくらいです。』と完成度の高さを褒めていたし、チサは感激するだろう。」
・・・。
目の前で贈られる前にそう宣言されたら、感激する以外に選択肢が無いのだが・・・。
シャルロッテさんは微妙な顔になり、肩を竦める。
「・・・私なら全く嬉しくないわ。こんなノルムの趣味全開の図鑑なんて、ちーっとも欲しくなくてよ?・・・贈り物って、相手が喜ぶかしらって考えるのが大切だと思うわ。」
「・・・あのな。シャルロッテ。チサはシャルロッテと違い、薬草に興味があるのだ。サイモンが採ってきた、あたりふれたロセウス草も原始的な押し花にして、しおりにした程だ。色も形も損なわれてしまうと言うのにな・・・。・・・どうも図鑑と実物の違いに驚いた様なのだ。だから私は魔法を使って本物を保存した薬草の図鑑の製作に着手したんだ。・・・すべてチサの喜ぶ顔を見る為だ・・・。ああ、なんて素晴らしい完成度なのだろう!これはかなり良い出来だと思わないか?!」
・・・。
シャルロッテさんは呆れた顔で溜息を吐いた。
「あ、あの。シャルロッテさん。この間、レース編みの素敵なしおりをいただいて・・・。そ、その、これノルムさんが言っていたロセウス草のしおりなんですけど、さ、差し上げます。」
私は、あの薄ピンク色のハート形の草で作ったしおりをシャルロッテさんに思い切って渡した。
サイモンさんから頂いて、そのまま枯らしてしまうのは、なんだか惜しくて・・・。
ノルムさんの言うように、押し花にしたロセウス草は綺麗なベージュピンクから、ちょっと茶ばんだピンク色になってしまった。だけど、沢山ある中から、綺麗なハート型の物を選んでしおりにした。台紙は綺麗な紙をクレアが探して来てくれて、それに貼り付けたし、結構可愛くできたと思う。
・・・お嬢様は、こんなのお好きでは無いかもだけど。
でも、サイモンさんは『すごく可愛いね』って喜んでくれたし、クレアも『とても嬉しいです』って受け取ってくれた。・・・ノルムさんは『保管がイマイチ』だと評したけど、一応は受け取ってくれた・・・。
まあ、そうしたらノルムさんは、あの図鑑に着手しちゃったんだけど・・・。
シャルロッテさんは、私が差し出したしおりを受け取ると・・・嬉しそうに笑った。
「ありがとう。チサさん。とっても嬉しい。・・・ロセウス草の花言葉はね・・・『貴方の幸せを願う』なのよ。・・・私、お友達から、こんな素敵なプレゼントをいただいたの、はじめてだわ。大切にさせて頂くわね?」
・・・え。
・・・お友達・・・?
ポカンとシャルロッテさんを見つめる。
シャルロッテさんは、私を見つめてハッとすると赤くなってしまった。
「あ・・・。その・・・。・・・チサさんは、どう思っているか知らないけれど・・・私、チサさんとお友達になりたいと思っていて・・・。その・・・。お友達になって欲しいのよ・・・。」
「・・・あ、あのっ!う、嬉しいです!・・・私なんかで良かったら、シャルロッテさんと、お友達にならせて下さいっ!そ、その。貴族らしくも無い異界人ですけど・・・。」
私が焦ってそう答えると、シャルロッテさんは首を振る。
「チサさん。・・・そんなにご自分を卑下なさらないで・・・。私、これでもウィリアム殿下の婚約者ですのよ。異界の方なら、あの小生意気なダイキで随分慣れてますの。チサさんは生意気ではありませんけど。・・・ダイキは私とウィリアムの関心を争うライバル、でしてよ?あのダイキの真っ直ぐな黒髪は・・・ズルいですわ。ウィリアムったら、サラサラで気持ちいいっって、よく撫でますの!・・・私って、ありふれた金髪に癖毛でしょ・・・。・・・そ、それはともかく・・・その、異界からこちらにいらして、どれ程心細いか、こちらの常識とは大分違っているというのは、少しだけですけど、分かってるつもりですわ・・・。」
・・・あ、そうか、シャルロッテさんはダイキさんともお知り合いなんだったな・・・。
なんだか、優しくてゆったりとした雰囲気の王子様を、ちょっと強引で行動力があるシャルロッテさんと、言う事は言うダイキさんが取り合ってるのが、容易に想像できる・・・。
「・・・私、あまり同性で気の合うお友達がいませんの。・・・ご令嬢方は冒険小説やミステリーやサスペンス小説は読みませんのよ・・・。だ、だからお互いに感想とか、お話できたらなって。・・・お友達になっていただけません?」
そう言って私の手を握るシャルロッテさんに、私は嬉しくて、コクコクと頷いた。




