19.異世界で見つめないで
あの日から、ずーっとノルムさんが私を見ている。
・・・サイモンさんに「チサちゃんの顔を見ていない!」と言われたからだ。
だからって、そんなに見つめられても・・・ね。
そこまで整った容姿って訳じゃありませんし・・・。
サイモンさんとノルムさんは、あの後も険悪ではあったけど、ノルムさんはサイモンさんをクビにしたりはしなかった。
・・・いや、できなかったという方が正しいかも。
結局は、サイモンさんより博識で人当たりの良い適任者が居ないらしく、ノルムさんは悔しげに「まあ、サイモンは私とチサが親交を深めて行くのを、指を咥えて見てるんだな!」と捨て台詞を吐いて・・・それで終了だった。
「チサ・・・何か顔に出せ。」
さっきから、私の顔をジーっと見ていたノルムさんにそう言われて、私はサイモンさんから借りた星座の本から顔を上げた。
「何かとは、何でしょうか。」
「分からない。・・・サイモンがよく、お前から読み取る・・・感情とか、そんな感じだ。」
・・・。
う、うーん・・・?
感情ならすでに浮かんでるはず・・・あんまりジッと見ないでって・・・。
「その。こうして見られてるのがイヤです。」
私は思い切って、ノルムさんに言う。
「そうか。だが、見ないと分からないのだから、見ない訳にいかないだろう・・・?」
・・・。
どうしよう・・・これ。
私は早くサイモンさんが来てくれるのを願いつつ、星座の本を読みふけった。
「・・・チサはなぜ、星が気になるんだ。」
「・・・。えっと・・・。私がいた星が見えるかなって・・・。」
「異世界とは、星なのか?・・・まあ、落ちて来るんだから、そう言うものかも知れないな。」
ノルムさんも気になるようで、星座の本を覗き込む。
「・・・見当はついているのか?」
「いえ・・・。私の世界でもそんなに星に詳しかった訳じゃないですし・・・。ただ、夜空を見上げて、私のいた世界がどれかかも知れないって思ったら、元気出るかなって。」
「・・・だから、サイモンと星を見に行きたかったのか?」
「はい。」
私がそう言うと、ノルムさんは満足そうに微笑む。
「そうか、やはりチサはサイモンに運命を感じては居ないんだな!」
・・・。
運命・・・ね・・・。
私はダイキさんと王子様に会って、ひとつ感じた事があった。それは、運命は感じるだけじゃなく、2人で作っていく関係みたいなものかも知れないって事だ。
・・・ダイキさんは、今や王子様と一緒に政治についても学び、今や『落ち人』と『終末の魔道士』という関係に留まらず、そちらの面でも支え合うパートナーになっていると聞いた。
出会った途端に『運命』なんて感じなくても、そういうのもあるんだなって、それから私は思っているのだけど・・・。
だけど。
だけど・・・。
・・・ノルムさんと支え合うとか、やっぱり何だかピンとこない・・・。
私がボンヤリと考え込んでいると、ノルムさんは横から覗き込んで、星座の本を読んでいるみたいだった。
「・・・チサ、私がチサの星について教えてやろう。」
「え?」
「チサは、自分の元の世界の星の場所など、覚えてはいないだろう?・・・なら、全てチサの星とすれば良い。」
・・・?
ノルムさんは、図鑑を指差す。
「例えば、この星が本当にチサの星だとする。・・・だが、確認する術はないのだ。つまり私たちにはこれが、チサの星だとは一生分からない。・・・これは悲劇だろうか?いや、私はそうは思わない。ここから見える全ての星は、チサの星だと言う可能性を否定できない。・・・まあ、肯定も出来ないが。」
「・・・???」
「お前が夜、寂しいなら、全ての星がチサの星だ。・・・これだけ故郷の可能性の元にいるなら、お前は元気が出るだろう・・・。」
ノルムさんは、いかにも俺は良い事を言った風なドヤ顔だが・・・。
・・・。全くよく分からない。
でも・・・意味不明だけど・・・これって、ノルムさんなりに励ましてくれてるつもりなの・・・かな???
「ありがとうございます???」
「ああ。これで解決したな。・・・もう、サイモンと星を見に行く必要は無いな。」
・・・。
あ。・・・そういう事???
「じゃあ、ノルムさんとも星を見なくて済みますね。」
何となく面白くなくて、つい反論してしまうと、渋い顔で、またしても溜息を吐かれた。
◇◇◇
少しすると、サイモンさんは少し埃っぽい格好で、遅れてやってきた。
「ごめんね、チサちゃん。遅くなってしまって。」
「いえ、どうされました?」
サイモンさんが時間に遅れるなどあまり無かったし、この汚れた格好も気にかかり、心配して聞くと、サイモンさんは心配ないよって感じにフワリと微笑む。
「サイモン、随分とだらしないのではないか?その格好は、女性の前に出て良いものだと、私は思わないがね。」
研究を休んでも、いつも通りにピシッと三揃いのスーツを着ているノルムさんが、鋭くサイモンさんに嫌味を言うが、サイモンさんはまるで気にかける様子も無く、大きなバッグから薄いピンク色?アイボリー?の草を取り出した。
「ほら、前にチサちゃんが興味を持っていた、カラフルな草・・・薬草だよ?可愛いって言ってたろ?・・・来る途中に見かけてね。・・・どうだい、実物は?」
あ!
サイモンさんと前に薬草の図鑑を見ていた時に、なんだか可愛くて、見てみたいなって言ったやつだ。・・・たしか、葉っぱもハート型なんだよね?
私は薬草を手にとる。葉っぱは歪ながらハートっぽい型をしていて、なんだか嬉しくなる。
「ああ・・・。これが実物!・・・図鑑とはだいぶ感じが違いますね?色も柔らかい色合いだし、ハートも歪んでいるんですね?・・・実際に見られて嬉しいです!」
何気に、見てみたいと言った言葉を覚えていてくれたのも、こうして実物が見られたのも、どちらも嬉しくて、つい笑みが溢れる。
「これ、ちょっと珍しいやつで・・・見つけられて良かったよ。図鑑と実物は、こんな風に少し違うんだ。見分けやすくするのに、デフォルメ気味に書かれているんだ・・・。」
「へぇ・・・!」
そうか、馬車で移動した時に見慣れない風景だとは思ったが、違和感が無かったのは、図鑑ほどカラフルな草では無いからなのか。
私たちがピンクの草を見ながら、そう和やかに話していると、ノルムさんがフンと笑った。
「フン。たかだか、ロセウス草ではないか。さほど珍しい薬草ではないな。・・・チサ、薬草が気になるなら、私がフィールドワークに案内しよう。もっと珍しい薬草をお前に見せてやる。・・・回復魔法と薬草学の権威たる私が、ね。」
・・・。
・・・。
私とサイモンさんは思わず顔を見合わせた。




