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16.異世界の大切な人 ◇ダイキ視点◇

俺たちと暫く話をしたノルムさんとチサトさんは、俺の顔色が良くないと言い出したウィリアム殿下によって、少し早めに帰っていった。


「・・・大丈夫か、ダイキ。」


心配げに覗き込む紫色の双眸は、心配そうに翳っている。


「大丈夫。多分、ノルムさんに中てられただけだ。」


ウィリアム殿下に横になるよう勧められて、自室のベッドに横たわる。胃がムカムカしている。


「ノルムは魔力量が特に多かったんだ。・・・あいつはチサちゃんが来るまで、普通の魔道士が数十年かけて魔力を注いでやっと作れる蘇生薬すら、馬鹿みたいに作った程だし・・・。僕だって、年に数個しか出来なかったと思う・・・。」


「そっか・・・。じゃあ、思ったより俺に流れてきてたんだな・・・。あー・・・マジで気持ち悪いわ・・・。」


そう言って枕に顔を伏せる。

ウィリアム殿下はいまだにそこにいるのか、後頭部に視線を感じる。


「なあ・・・ダイキ。・・・チサちゃんに会って・・・どう・・・だった?」


あまりに不安気に聞かれて、思わず顔を向ける。

ウィリアム殿下は眉を下げたまま、立ち尽くして俺を眺めていた。


・・・いつもの自信溢れる王子様はドコに行ったんだよ。

思わず、苦笑してしまう。


「懐かしいなって思ったかな。いかにも日本人って感じの女の子だったしさ。・・・シャルロッテみたいな我の強さもないしさ。俺の知ってる普通の女の子って感じでさ・・・。・・・あの2人、うまく行くといーけどな・・・。ノルムさんの我が道を行く感もすごいけど、チサトさんも遠慮しすぎだからなー。」


「うん。そうだね・・・。ノルムってさ、昔からそんな感じなんだよね。・・・人の気持ちに疎いっていうかさ。・・・そ、・・・それでさ、あの・・・またチサちゃんに会う気なの?」


「・・・まーな。2人がどーしても上手くいかないなら、また会って、話してもいーかなぁっては思ってるよ・・・。ノルムさんの魔力はえげつないから嫌だけど、やっぱ同郷のよしみだし、チサトさんが不幸になるのは、ちょっと寂しいからな。」


見上げると、ウィリアム殿下のやたらと高い鼻の穴が見える。

美男子って、鼻の穴のカタチまで整ってんだな・・・なんて、それを眺めてやる。


「・・・ダイキは帰りたく、ならないか?」


「なったところで帰れない、だろ?」


・・・なんだよ、今日のウィリアム殿下は、珍しくしつこいな。


「帰れたら・・・ダイキは帰るのか?」


「帰る、かもな。」


「・・・。」


ウィリアム殿下は黙って俺を見つめる。


「・・・あのさ、俺が居なくなって、ウィリアム殿下が死ぬってなら帰らないぞ?・・・お前がさ、死んでも構わないから帰りたいって気持ちは、もうとうに無いからな?」


「僕が死ななきゃ帰るのか・・・。」


・・・なんでそーなるんだよ。

まるで女子みてーだな。今日のウィリアム殿下はよ!


「帰るぞ。・・・また戻ってこれるならな。・・・ちゃんと、親や兄弟にさ、お別れを言って、そうしてこっちに戻って来たい。やっぱり『さよなら』くらい、ちゃんとしたかったしな。・・・そしたらさ、心残りなく、こっちでウィルと暮らせんだろ?」


・・・ウィルはウィリアム殿下の、近頃じゃ、めっきり呼ばなくなった愛称だ。こっちに来たばかりの頃に、まだ子供だった俺に呼ばせていたモンだ。


「ディー・・・。抱きしめても?」


キラキラ王子様にキラキラと見つめられて、ウッと詰まる。

こっちの世界は、わりにスキンシップが多めなんだよな。


「・・・お前も、懐かしい呼び方すんね。いいぞ、吐いても良いならな。」


そう言って、腕を広げる。

・・・ディーは、ダイキと呼びにくそうだったウィルの為に、俺が呼べと言った呼び方だ。


ウィルがそっと俺を抱きしめる。


・・・こいつにとって、俺は毎晩「家に帰りたいんだ。」そう泣き続けたガキのまんまなのかな・・・?


「ダイキ、デカくなったよな・・・。」


「ならねーよ。もう成長期は終わってるさ。ただ単にデブったんじゃねーか?ウィルこそ、御髪がヤベー感じだぜ、頭皮でも揉んでやるか?・・・高飛車シャルロッテに嫌われんぞ?」


俺がそう言うと、ウィルは抱きついたままクスクスと俺の耳元で笑う。くすぐったいし、なんだか男同士だから気持ち悪いんだが。


「・・・今や僕がディーにすがってる。おかしな話、だよね。」


「おかしくねーよ。老いては子に従えってゆーんだぜ?・・・こっちの世界で、俺の兄さんとか父さん代わりになってやるって、ウィルが言ったんだ。つまりはさ、成長した俺が、お前を支えてやるって寸法だ。・・・王子様は気苦労も多いしな。王様になんかなったら尚のことだぜ?・・・ウィルは俺を手放せねーな。・・・一生。・・・あのさ、俺・・・チサトさんに会って分かったんだ、俺はもう・・・ウィルを置いて帰れない。お前が死ななくても、俺だって、お前を手放せないんだ・・・。」


俺がそう言うと、ウィルはグッと抱きつく。

なんだよ、だからって甘え過ぎだろ。抱きつかれて嬉しいのは美女限定だぜ、俺。


「ディー・・・愛してる。」


「・・・おい、気持ち悪いぞ。でなくても吐きそうなんだ。よせ。」


俺が睨むとウィルは肩を竦め・・・突然、真面目な顔で俺に聞いた。


「・・・ところで、ディー。・・・僕の髪はそんなにもヤバのかい・・・?」


「んー・・・。なんかコシがねーよな・・・。フニャフニャしてる。さわり心地はスゲー良いけどな。」


俺がそう言いながら、ウィルの髪を撫でてやると、弱々しい声で「お願い・・・頭皮を揉んで・・・。シャルロッテに捨てられたくない・・・。」そう言ってきたので、俺は暫くウィルの頭をワシャワシャと揉んでやった。


・・・俺の、異界の大切な大切な王子様は、そうしてやると満足そうに顔を緩めるのだった。


よくわかんねーけど、俺も愛してるぜ。

俺の異世界の父さんで兄さんで・・・運命の王子様。


そう思ったけど、なんか男にそんな事を言うのは悔しいし、気持ち悪いから、死ぬ間際まで言ってやんねーと、俺は心に誓った。





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