10.異世界で選んだ人
「・・・ノルムさんは、シャルロッテさんと婚約されているのですよね?」
私は意味が分からず、ノルムさんに聞き返す。
「シャルロッテが婚約しているのは、王太子であるウィリアムだ。・・・さすがに幾ら幼馴染だからとは言え、未来の国母たるシャルロッテをそう何度もは呼び出せまい。・・・世間体もあるのだから・・・。」
・・・。
えっと・・・。
「では、私とノルムさんが婚約しているんですか???」
「・・・お前が良いと言ったではないか。好きにして構わないと。」
・・・あれは、私との話だったのか???
てっきり、ノルムさんが長年の彼女さんと結婚するのに、私からの許可を得たいという話かと思っていたのだが・・・違ったの???
「・・・そう、なのですか?・・・。」
そうは言ってみたものの、やはり心の中には、疑問符しか湧いて来なかった。
・・・何故、ノルムさんは私と婚約なんかしたのだろうか?
「あの・・・ノルムさんは、私が好きなのでしょうか?」
そうは思えないが、聞いておくべきだろう。
「・・・そ、そういう訳ではないが・・・。『終末の魔道士』とその『落ち人』は運命の相手なのだ。『落ち人』は自分が救いたい『終末の魔道士』を選んで落ちて来てくれると言われている。」
・・・な、なるほど。
好きではないが、運命だからそうすべきだと・・・そう言う事なのか。
だけど・・・。
「えっと・・・。別に私、ノルムさんを選んで落ちて来た訳ではありませんよ?気が付いたら、噴水の側に落ちて来て・・・。」
「だが、君はこの世界に来てすぐに選んでいるんだ・・・私を。」
え・・・?
いつ、ノルムさんを選んだと言うのだろう???
確か、私の保護者に決まったと言われて紹介されたんだよね・・・?
それって、すでに決まっていたのでは無かったのかな???
「・・・『落ち人』は最初に会った『終末の魔道士』が運命の相手なんだ。・・・チサ、君が落ちて来たと聞いて、何人かの『終末の魔道士』が君に会いに行っている。・・・だが、運命でない奴はどんなに急いでも、君には最初に会えない。・・・トラブルに巻き込まれたり、馬車が遅れたり、『落ち人』の具合が悪くなったり・・・。とにかく、最初には会えないんだ。そして、一番最初に出会う者が、その『落ち人』の運命の相手、なんだ・・・。」
そういう意味で選別があったのか・・・。
つまり、私と最初に会ったからノルムさんに決まった・・・そういう事なのか。
「・・・運命はわかりました。ですが、婚約とか結婚する必要はないのではありませんか?」
色々な薬を作って、この世界の人々を救おうとしているノルムさんを救えた事に後悔は無い。
だから、そんな立派な方を救うのが私の運命だった・・・そう言われるなら、それでもいい。
だけど、別に私を好きでも無いなら、何も結婚しなくても構わないのでは無いだろうか。・・・少なくとも、こうして生活の面倒は見て貰っており、それなりに恩は返してもらってはいると思う・・・。
私がそう言うと、ノルムさんは困った顔になり、私に言った。
「・・・男女の場合、大概は結ばれる運びとなる。」
・・・。
あ、そうですか・・・としか言えない。
これまでの『落ち人』と『終末の魔道士』はそうだったのだろう。・・・しかし、私たちがそうなるとは、まるで思えないのだが???
現時点で、お互いを嫌ってはいないが、異性としての好意は無い訳で・・・。
もしかすると、お互いに興味すら無い可能性が非常に高い・・・。
「あ、あの。でも、すごく年が離れていたり、男同士とか、女同士なんて場合もあるのですよね?・・・そういった場合はどうなるのですか?」
「・・・そういった場合は、兄弟や親子、とても仲の良い友人になる事が多いそうだ。ソウルメイト、みたいな感じになるらしい。」
・・・ソウルメイト。
なんだかそれも、私たちには当てはまらない気がする・・・。
そもそも、ソウルも何も・・・ノルムさんがどんな人なのかすら、私には良く分かっていないし・・・。
「・・・チサ。その・・・。お前を眠らせる事はできる。だが、私は自分の『運命の相手』に、できればそんな寂しい結論を出させたくは無いんだ。・・・もう少し、私に時間をくれないだろうか。」
・・・寂しい結論か・・・。
結論も何も、すでにこの世界は全て寂しいし、虚しいんだけどな・・・。
夢とはいえ・・・すっと死ぬまで元の世界で生活できるなら・・・それはそれで幸せなんだけど。
・・・だけど・・・時間で区切りがつくなら、悪く無いのかも。
「・・・ノルムさん。では、時間を決めませんか?・・・一年後に、もしまだ私が眠らせて欲しいと言ったなら、今度は本当に眠らせて貰いたいです。・・・私は貴方が嫌いでは無いけれど、結婚したいとか、ソウルメイトだなんて思ってはいなくて・・・それは、ノルムさんも同じだと思うのですけれど・・・。」
「・・・ああ。・・・。そう・・・だな。」
「では、一年だけ、・・・一年だけ頑張ってみる事にします。一年たってもこのままなら・・・こういう『運命』もありなんだって、お互いに別の幸せに向かいませんか?」
終わりがあるなら、一年くらいなら、耐えられるだろう。
夢とはいえ、醒めないなら現実と変わらない。・・・一年後に、私は元の世界に帰れるのだ。
「・・・分かった。一年・・・。」
ノルムさんは噛み締める様に、そう言った。




