第六話 異界の地へ渡る
吸い込まれていった。
物理的にも、精神的にも、俺は扉を開けた瞬間の見えた景色に吸い込まれていった。
光の一欠片もない暗闇、透き通った冷たさ、生命を感じさせない。先程の冷たさはこれだったか…。
「まるで宇宙が誕生する前のようだ…。」
感動した。何もないのにと、友達に笑われるかもしれない。今はいないが。けれど、ずっと俺はこの景色が見たかった。夢で見た景色。何度も焦がれた途方もない綺麗な暗闇。
惹かれてしまっていいじゃないか。
---------時間という概念がこの空間にあるならば、果たして何時間経っただろうか。--------------
ずっと浮いている感覚は奇妙な感覚であり、意識があるのに景色は暗いまま。
慣れていないはずなのに、こうして冷静でいられている。
いや、果たしてそうだろうか。もしかしたら今は夢を見ていて、意識があるというふうに錯覚しているのかもしれない。
こんなことを考えるのはやはり面白い。答えは出ない。けれど楽しい。
哲学だったっけか。もといた世界には戻れない気がするが、なかなかに興味深い。
思考は深く、さらに過去へ、さらに未来へ、今を見渡す。
思考が輪廻する。交わって、塗りつぶしあって、混沌となる。
混沌に混沌を重ね、ループし続けて、思考回路はもはや人間には辿り着けない。
―――つまりは、私が神だ―――
「!? !!?!!」
急に空間は光に塗りつぶされた。冷えていた感触も次第に温かなものへと変わり、俺は―――
『『罪』と『愛』と『力』を証明せよと我は言った。だが、それぞれに試練というわけではない。人の生を受けてきた貴様なら、意味はわかるな?』
そんな言葉がなぜか今、脳裏をよぎって、全身にムチ打つような痛みとともに、俺の意識は失われた。