プロローグ 仮説
ここはどこだろうか、暗いのか明るいのかすら明確でない。手足がどこにも触れていないというのに、まっすぐに俺はたっている。匂いはない、何も聞こえない、触れようと手を伸ばすが何も触れない、空気を舐めてみようとするも舌は空回った。
わかったことは一つ。俺が普段見ている光景とは違うこと、この場所は空気でも液体でも固体でもないこと。
ふと気づく。声が出るのか試していないということを。
「――あ」
声は出るようだ。
「俺は…火之神大希」
名前も言える。記憶はある。
それからしばらくそんなことを繰り返していたのだけれど、突然光のようなものがこの場所に現れた。
気づけばそこには人がいた。いや、人というにはあまりにも眩しく恐ろしい。見た目は人と変わらないのにだ。
後光のようなものが指していて顔も色もわからない…。だからシルエットだけで分析しよう…とするも対象からも光が漏れているといった感じで何も掴めない。
だが、光の及ぶ範囲からある程度の距離感というものはわかる。5メートルくらいだろうか。
そうこうしているうちに対象は唇を動かし始めた。