ネックレス・ジョーク
この話のオチを先に言ってしまえば、ネックレスという言葉を遊んで「首なし」としたやつがいた――――というだけのお話だ。ネックがレス。実に不愉快な冗談だ。ああ、これだけは伝えておこう。それを言ったのは私ではない。
「よく真顔でそんなことができますわね」
「慣れているのでね」
私のこの行為にますわねなどという演技がましい口調で苦言を言うこの女の名前は、黒き狂気兇器強姫。長いから省略して、狂姫だ。髪も瞳も黒いが、これはこの女本来の色ではない。もとは不思議の国のアリスを嫌でも思い出させる、よくできた金髪碧眼。それが黒化したのは体内にあるナノマシンと、頭に詰まっている思想の影響だ。
「一体それはなんのための実験ですの?」
「合理的という言葉への反逆だよ」
彼女の淹れる珈琲は不味い。濃い目にしてくれと頼んだが、度が過ぎている。おまえの真っ黒を飲み物にまで押しつけるなと言ってやりたいが、今日はやめておこう。
「はぐらかしてくれますわね」
「なにをしているかは見ればわかるだろう」
首という人体の弱点をなくすために、首だけを切り捨ててつなぎ直す。わかりやすく言えば、胴体に頭を直づけにするということだ。
「それでは左右を見渡せませんわ」
「体を動かせば見れる」
「それでは反応が遅れますわ」
全くその通りだ。戦闘を行う者の理屈としては正しい。確かにおまえの場合は、なくすよりも補強したほうが良い結果につながるはずだ。
「そもそもその頭、腐ってますわよ? 本当になにがしたいんですの?」
「腐敗など、この世界には溢れている。ゾンビの頭を一つ使った程度、今更驚くことかね?」
「そういう話をしているわけではないですわ」
どうも最近の狂姫は無邪気すぎる。まるで餓鬼じゃないかと言いたくなる時が、度々ある。まぁ、別に構わんが。
「なぁ狂姫。運動好きのおまえにはわからんかもしれんが、私のような人間は肩がこる。目も疲れる。そうした時、やっかいなのは首なのだよ」
「狂気ですわね」
「面白い洒落を言うじゃないか」
「はぐらかすからですわ」
おまえが次に言いたいことはわかる。だったら自分にやればいいじゃないかと、私に半分真顔で言うのだろう。だがそれはできないのだよ、左右を見渡せなくなったら困るのでね。