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新月と幼女騎士

 魔王オルバが居城としているのは魔法生物を利用した城だ。

 別の言い方をするのなら、城型のゴーレムと表現するべきか。


 この城は、住む者が増えるたびに成長していく。

 現在では都市クラスの街がいくつも収納される程に至っている。


 また様々な民族を受け入れているため、住民の衣装も様々。

 多くの人が集まる区域に行けば、まるで大きな仮装パーティーに紛れこんだと錯覚するほどだ。


 そのような城の一画。

 平均的な収入の者が集まる区画を、新月(シンゲツ)という少女が歩いている。


 彼女は黒髪黒目で歳の項は10歳前後。

 なぜか、この世界には無い巫女装束を着ている。

 そう魔王オルバだ。


 身分としては軍部在籍。

 魔王直属というエリート設定になっているのは、彼女なりの見栄か?


 シンゲツが魔王オルバであると知る者はいない。

 だから力こそ弱まるが、周囲の目を気にせず好きに動ける。


「お兄さん2つ頂戴」

「シンゲツちゃんか。コイツはオマケだ持っていきな」

「わー、ありがとう」


 うまく立ち回っている。

 魔王のクセに、違和感0で街に溶け込んでいた。


 オマケでもらった焼き鳥を食べながら徘徊する。

 新しくできた屋台を見かければ味を確かめ、古い馴染みの店を見かければソチラに向かう。


 多くの人々が街を行きかっている。

 彼女は誰ともぶつからぬ様に動いていた。

 その様は熟練の技を感じる程だ。


 魔王なのに馴染み過ぎである。


 程良く腹が膨れた。

 そろそろ帰ろうかと思い始めた頃。

 彼女に悲劇が訪れる。


 ガチャリと冷たい感触と共に音がした。


 遅れて気付く。

 冷たい感触のしたところに手を当てると、それは首輪であった。


 鋼鉄で出来たかのようなゴツイ首輪。

 それが自分を捕えていた。


 意味が分からない。

 なぜ街のど真ん中で、いきなり首輪が着けられているのだろう?


 周囲を見回すも、助けてくれそうな者はいない。

 誰もが突然の凶行に呆然としていた。


 混乱する彼女に、答えを示したのは後ろにいた者。

 すなわち首輪を着けた犯人であった。


「君には、私と共に堕天使の塔を登ってもらう」


 声の主は件の幼女騎士セルフィ。 

 街中で突如として見知らぬ少女に首輪をはめる。


 そのような魔界でも滅多に聞かない凶行に及んだ。

 なのに彼女の振る舞いは堂々とした物であった。


 *


 幼女騎士セルフィ。

 彼女は探していた。

 共に堕天使の塔を登る人材を。


 己の成長──もとい発育──いや身長────そう偉大なる魔王陛下への忠義のために。


 彼女は(戦闘力に限れば)優れた騎士だ。

 まさしく一騎当千の実力を持っている。


 しかし魔界に詳しいわけではない。

 だから案内をする者が必要なのだが、魔物の中には人間を見下す者も多い。


 そこで登場するのが、この魔法の首輪。

 従属の証であり、逆らえば呪いで体を痺れさせたり昏倒させたりできる優れ物。


 ついでに情報鏡と呼ばれる道具も貸し出された。


 こちらは虫めがねのような外見をしたレンズ。

 情報鏡を通して見る事で、任務を帯びていない暇な軍人は赤く染まって見えるという。


 これらを使って、堕天使の塔を登る案内人を作れと言われた。


 なぜ魔王軍側で案内人を用意しないのか?

 それは魔族には、セルフィのような普人種と呼ばれる種族を見下す者が多いからだとか。


 情報鏡で暇な者を探し、交渉した後で逆らえないように魔法の首輪をつけろという事だ。


 魔界は弱肉強食。

 城内での非道は禁止されているが、上層部の許可は受けている。

 問題はない。


 *


『君には、私と共に堕天使の塔を登ってもらう』


 声の主を確かめると、あの幼女騎士ちゃんでした☆


 でも、こんな首輪風情で──えっ、ウソ? 

 邪神の力を完全に封じられている!?


 ちょっ、何これ。

 なんで邪神の力を封じられるのかな!?

 神の力を簡単に封じられるっておかしくありません?


「それは軍務卿殿が偉大なる魔王陛下より下賜された魔封じの首輪。魔王陛下のご意向さえあれば、そのような物はいらぬのだが無知蒙昧な不届者がいるとのことで私に与えられたのだ。首輪とはいえ、魔王様より下賜された宝物だ。喜ぶがいい」


 なんで忠誠心がここまであるのでしょう?

 18禁の”クッ殺”を幼女騎士にやっちゃったのでしょうか!?


 軍務卿の前には、新月の姿で出ないようにしよう。

 絶対にそうしよう!


「死地に向かうと言っても差し支えない旅になるかもしれない。だが偉大なる魔王様のため、我らはこの旅を完遂させねばならないのだ」


 今、忠誠を捧げた魔王様を死地に連れて行こうとしているんだけどね!


「他にも強そうな人がいるんじゃないかな? ほら、あの人なんか魔法が得意そうで騎士様と相性が良さそうですよ!」

「私は強い。魔王陛下には負けたが、それは偉大なる陛下だったからだ。故に私に必要なのは力ではない。それは愛らしい者による癒しだ!!」


 おかしな理論ですよね。

 ついでに、変態チックな響きがあるよね!

 貞操の危機を感じます。

 助けを呼びましょう。


「安心していい。これを見ろ。軍部司令殿や宰相殿から、旅の同行者を好きに選んで良いという許可をもらってある。お前の各種保障や給料は保障されているぞ。なお、勅令だから拒否権はない」


 ひょっとして、先手を打たれました?

 私達を囲んでいた人の輪から、緊迫感が無くなっちゃっています。

 皆様”お上に言われたのなら仕方ねえや”っていう、閉塞的な現代社会で上司と部下の板ばさみに疲れ果てた中堅管理職の背中を見ているかのような哀愁漂う顔をしていらっしゃる!?


 助けは期待できない。

 なら、もうここは魔王だと──あっ。


 Qここで自分が魔王っていったらどうなりますか?

 A忠誠心の厚過ぎる配下に、魔王様の名を語るふてえ野郎だとボコられて死んじゃいます(過去に同様の事件が複数回あり)


「さあ行こう。私の発育…………偉大なる魔王陛下に忠誠を捧げる旅へ」

「ちょっと待って! ねえ、話聞いている?! 私、一言も了解していませんよね!?」


 私、魔王オルバこと新月は頑張って抵抗しました。

 でも幼女騎士の力を前に私は無力でした。


 強制、強要、無理強い、騎士の風上にもおけない行為です!

 今すぐ裁判所に駆け込みたい気分です!


 ですがこの体では逃げられません。

 弱過ぎるし、邪神の力も使えませんから。

 なによりも首輪のせいで逃げたらコテッといっちゃいます。


 助けも求められません。

 私が魔王だと知っている方はいませんから。

 それに軍務卿の勅命なので、魔王以外が覆すのは難しいのです。


 だから私は我慢します。

 最後まで乗り切ります!

 必ず帰ってきます。


 I'LL BE CAMEBACKです!!!

最後まで呼んで頂きありがとうございましたm(_ _ )m

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