緑
何処まで漢字にするか問題。とあるゲームのせいで普通の文が分からなくなってきている。
スパイについても何と訳すかとても悩む。現段階は間者で進めます。学がないので漢字や言葉が間違っていたら教えていただけると助かります。
「ええと話をしても?緑さん。」
片付け終わったのか足を組んで座りこちらを、主に俺をじろじろと観察し続ける男に向かって小春が呼びかける。永遠と刀を研いでいた様子からかなりの変人かと心配していたがあからさまの偽名か裏でのあだ名を使うということは本物だ。一体その本物とまだ子供の小春がどう知り合ったのだろうか。
「そっちは新入りか。…で、何が聞きたい?」
小春が頷き肯定の意を示すとそれ以上俺には触れず本題に入る。
「西地区と東地区の本城とその主について。対価は翡翠の髪飾り。母の形見よ。」
そう言って小春は服の内側から布袋を取り出し、その中から薄い緑色の宝玉をあしらった簪のようなものを緑と呼ばれた男に見せた。
東西の城についてってことは…攻める気か。たった三人で城攻めとは頭がどうにかしているとしか思えないが。
男は眉間に皺を寄せ、少し寂しそうな顔をした。小春から髪飾りを丁寧に受け取り、暫く角度を変えたり光に当てたりして鑑定をし、ぽつりと呟く。
「…流石は先代の第二妃様の形見だな。そこらの貴族のものとは格が違う。」
小春が僅かに顔を曇らせる。小春の母親が先代皇帝の第二妃…?おかしい。確か第二妃は病で若くして死に、子はいなかったはずだ。無知な俺でも知っている。
そもそも皇帝の血を継ぐ者ならここにいる筈がない。そして皇帝の血統は例外なく全て濃い深紅の髪を持つという。小春の髪は真っ黒だ。仮に第二妃の子だとして少なくとも皇帝との間の子ではないだろう。
じっと考え込む俺を見て、なんだ、話してないのか。とだけ緑は言い、東西の本城とその主、だったな。と話を戻す。
「お前が何処まで知っているのか分らんが東西の主が嗣亜と伊月って事は子供でも知ってる。その二人が、と言うよりかは名誉、功績を何よりも大事にする伊月の方が一方的に嗣亜を嫌っているのも大抵の大人は知ってる。知りたいのは此処からだろうが…。まあ大した情報は無え。ただ伊月は本気で嗣亜を排除する気だ。ま、本気になったから勝てるというわけでもないがな。ああ、嗣亜を排除したいというのは暁光の方もそうだな。まあ夢珠への恋心で動いている分まだ可愛げはあるが。」
「その程度の情報、犬の末端でも知っているわ。」
小春がぴしゃりと言い放つ。
俺は今出てきた奴の名前すら聞いたことが無かったが。本城の主…って事はかの有名な将軍様か?
「…ああ、此処にそんな事さえ知らない人が居たのね。お気遣いどうも。伊月、夢珠、暁光、嗣亜は東西南北に各々の城を持つ四将軍の名。私達の敵の中で武力においては一番の強敵達。その中でも嗣亜は三年前に何の経歴もなく将軍となったから伊月に嫌われている。そして夢珠が嗣亜と仲がいいことで夢珠を好いている暁光は簡単に言えば嫉妬している。こんなところ。
刀より鋭い目で見られてしまった。諜報活動なんてしたことないんだからどうしようもないだろ。俺は悪くない。そうだ。だが気を使わせてしまったのは申し訳なく思う。
「西地区は唯一この国で国境沿いだ。西の城はすべての情報が集まる。他の将軍の弱点も当然あるんだろうな。そういや近頃政府の建物が襲撃され皆殺しにされたり、繋がれていた筈の死刑囚達が逃げ出しているんだと。事実上の警察組織は夢珠のとこだが細かな現場の検証や情報集めは伊月のとこの仕事だろう。もともと少ない部下が皆調査に派遣されて可哀そうにな?」
「そうね、世間話もいいけれど情報を頂けない?」
「将軍様のことなんて滅多に入ってこないんだがな。…伊月が一体何に対抗してか暗殺、じゃあねえな、少人数戦闘前提の部隊を育てているとか。武器は普段服にでも隠しておいて短刀と格闘が主だろうな。」
室内戦闘向きの伏兵か。棍棒で戦わされる身としては会いたくもない。せめて城攻めまでには刀を使えるようにしなければ。
「翡翠の髪飾り、売れば何十年と暮らせるのでしょうね。私、貴方の事は情報屋として高く評価しているのだけど。」
小春はまだ足りないらしい。確かに翡翠の対価の情報にしてはいまいちだ。相手を落として褒めて思いのままに何かを得る。小春は商売人に向いているな。
「…はっ。生意気だな。これでも足りねえのか…。さっきの政府の建物が襲撃されている件、西地区で特に多いそうでな。情報が集まる本城が襲われては大変だと警備を増やしている。皆、夢珠の隊だそうだ。…人の出入りが多いから城に罠は置けねえし夢珠の隊なら女がいても何もおかしくないだろうな。」
「西の城は分かったけど東の方は?」
一通り満足したのかこれ以上はもう出ないと判断したのか小春は獲物を変える。正確に効率よく狩りを進めていく様子を見ると、商売人ではなく狩人だったか。
「東に関してはもっと情報が来ねえ。そもそもあそこには間者がいねえんだ。やっと一人城には入れたそうだがまだ一番下っ端だ。あの城は階級が上がるとだんだん上層に行けるようになる仕組みだ。今は最下層の下履きだが何処まで登れるかね。それまで将軍はおろか全体の戦力も読めねえよ。」
「まあ城自体の構造については聞いただけだが情報はある。本城は山の上にあって鉄壁。まず昼に攻めようとすれば弓兵に殺されるな。嗣亜の隊は他の将軍らに比べてかなり少ないがそれに対して城だけは立派だ。でかいから正面突破もほぼ無理だ。つか罠だらけだろうよ。外から城を登るってのも対策済みだそうだ。みりゃわかるとさ。」
「そう。嗣亜については?」
勝てないと言われているのにも等しいのに小春はただ真っすぐに冷静に必要なものを取捨選択していく。ああ、本気なんだ。絶望的でも諦めないんだな。強い奴だ。
「三年前に皇帝のお墨付きで将軍となり一年と少しで立派な城を建て、そこから一年程で優秀な皇帝の近衛兵を育て上げた天才。徹底した少数精鋭主義で大の女嫌い。隊への加入には身分も年も無視した厳しい試験と副将軍との面接必須。だが入隊できた暁には皇帝のお気に入りの部下となれるし致死率一割を切る比較的安全な職場で高い給金をもらえる。聞いた話じゃ病での死はあっても任務での死はないとか。そりゃ落としても落としても希望者が殺到するわけだ。単純に嗣亜の方もかなり強いらしいしな。強くて有能で詳細不明な謎将軍。貴族の女達は熱心に噂しているよ。」
「それは骨が折れそうね。…女嫌いなのに将軍の唯一の華の夢珠とは仲がいいのね?そういう中なのかしら。」
まじめなやり取りから一変、くすりと茶化すような言い方でからかうように問う小春に対し緑もまた笑みを浮かべたじろぎもせず余裕の表情で答える。…こいつ、相当慣れているな。
「さあ。ただ嗣亜は暁光とやり合うような馬鹿じゃないだろ。それに城には下働きでさえ女を入れない徹底ぶりの嗣亜だが一人だけそこそこ上層まで出歩きを許されている女の御偉い様がいるとか。相当お気に入りみたいだな。既にお相手はいるんじゃねえか?」
…もはや話についていけない。誰が誰だ。誉れ大好きな西の伊月。四将軍の華で嗣亜と仲が良い夢珠。花に寄る虫の暁光。伊月と暁光に嫌われている東の嗣亜。こんなところか。いや小春の説明を繰り返しただけで何も理解できていない気がする。情報に触れてこなかった代償は重いな。…後で説明をお願いしよう。
そう言えばいつの間にか緑の口調が砕けている。最初は怖い変人の印象だったが案外近所のおじさんの様な人なのかもしれない。ぶっきらぼうだが話に度々忠告を混ぜている。それなりに小春を大事に思っているのだろう。
「ふふ。まあこんなところね。一番聞きたいところは聞けたから概ねは満足。」
長く座っていたのにまるで見えない糸に引かれるように真っ直ぐと立ち上がった小春は、ああそうだ。と思い出したように
「そろそろ私達動き出すと思うから貴方も気を付けてね。」とだけ言った。
「それはご丁寧にどーも。お礼ついでに忠告してやる。東は攻めないほうがいい。将軍嗣亜は妙な術を使うとか部下は人間じゃないとか。城下には化け物や辻斬りがうろついているって噂もある。まあ嗣亜の力を削ぎたい奴が流しているのもあるだろうが実際東では間者が狩られすぎだ。…引きこもりに対しては無理矢理押し入るより勝手に家から出てくるようにすりゃいいんだ。」
おまけをもらい小春は満足そうに頷く。
「ご忠告ありがとう。兄様に伝えるわ。」
そして布をかき分けそそくさと行ってしまった。俺は立ち上がれたものの足が痺れあちこちが固まり伸びをしていたところだというのに。慌ててぎこちない足取りで追いかけようとするのを緑が呼び止めた。
「そういやお前、名前は?」
夏己、は何処にでもいる名前だが情報に精通している者に、と言うよりも本名を名乗らない奴に自分が名乗るのはどうも気持ちが悪い。
「あんたが緑さんなら俺は夏だな。」
と皮肉にもとれる言い方をする俺に、それでいいと微笑み、親につけられた名前がすべてじゃないからな。とまた寂しそうな目をしていった。
過去に何かあったのだろう。だがそれを一々言葉に出して触れる必要はない。誰にでもそれなりに過去はあるし俺だって家族の最後について初対面の相手に遠慮なく突っ込まれたらいい気はしないのだから。
お辞儀をし、垂れ下がった布達をかき分け、来た道を戻る。また仁王立ちをしていた小春に謝りながら暗く静かな小路を歩いた。
嗣亜を贔屓目になってきているので何処かで他の将軍については埋め合わせします。近いうち夢珠視点のものでも書こうかと。…あれ、また嗣亜贔屓になるような。
夏己についてもキャラがぶれている気がするので後々修正するかも。
書かない期間でかなり予定登場人物が増えてしまったので展開が落ち着いたら紹介書きます