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春夏愁刀  作者: 三藤ユウ
一章
4/6

どうか、生きて。

回想回。起床をどうするか迷ったらいっそ悪夢を見せて回想させてしまえと思った次第。

 母が、妹が、弟が、殺されてしまう。血がこびりついた赤黒い木の柱に縛り付けられ必死にもがいている。あらゆる穴から液体があふれ出し顔はかつて見たどの顔よりも醜く歪んでいる。体が、動かない。俺の家族が、何ものにも代えがたく心から愛おしい俺だけの家族が、目の前で殺されようとしているというのに。息が、うまくできなかった。処刑人が刀を振り上げ、母の肩に向けて勢いよく振り下ろす。もがいているせいか肩を外れ、左腕を深々と斬りこんだ。思わず目をつむってしまう。遅れて耳を裂くような悲鳴が響き渡った。震えながらそっと目を開くと深い後悔と怒りが沸き上がってきた。母の左腕はかろうじて筋で繋がっている状態で風が吹くたびに揺れていた。意識を失っているのかぐったりとうなだれている。このままではいずれ出血で命を落としてしまうだろう。恐怖が不思議と薄まっていき、冷静な心の中で激しい怒りが燃え上がる。見物人を押しのけ、大股で周りを睨みつけながら最前列まで歩いて行った。武器は何も持っていない。それでもなんとかして家族を救い出さねばならない。

 処刑台をなにかないかと観察していると妹と目が合った。顔は涙でぐしゃぐしゃだったが怒りや恨みという表情ではなかった。しばらく見つめあったのち彼女は口角をあげ、目をつむりながら笑った。見物人からざわめきが起こる。笑顔を作れるような気分ではとてもないだろうに。彼女はずっと笑顔を保ち続けた。ぼろぼろと涙を流しながら。心配をさせないようにということだろうか。_俺の行動を予期して逃げろと言ってくれたのだろうか。どうするべきかわからずにうつむく。そんなのは都合のいい妄想なのかもしれない。けれど、必死に笑顔を作るその様は助けて、というより大丈夫だからどうか逃げて、というように見えてしまう。だがここで見捨ててしまったら_。もう二度と会えない。顔を上げると彼女はまっすぐ俺を見ていた。彼女は息を大きく吸った。

「いままでありがとう! 私はお空に行くけれど、どうか、生きてください! 神様はきっと私たちを見守ってくださっている! だから、あきらめないで!」



 __夢…か。慣れないこの部屋で目覚めることに違和感を感じながら、ぼんやりと今さっき見たものを思い出す。またあの光景を目にするとは。とても生々しい夢だった。一般的には悪夢だろう。もちろん俺にとっては人生の中で一番最悪な出来事だ。しかしあの言葉がなければきっと俺はもう生きていない。処刑を無理やり止めようと武器も持たずに飛び込み、家族の目の前で殺されていたかもしれない。もし飛び込まなくても悲しみと申し訳なさに耐えきれず、あの後自殺を図っていたかもしれない。それらを回避し廃人のように生きようが、牢にとらわれようが、結局小春とは会えていなかった。もし会えていたとしても覚悟は決まらなかっただろう。昨夜にした選択は正しかったのか、最良のものであったのかはわからない。だが、何もなしえることのできなかった、何も救えなかった俺が、大きな事でなくとも、少しは何かすることが、変わることができるような気がする。何もかも失ったが、神様はまだ死ぬなと、小春に会わせてくれたのだ。何か意味があるに違いない。そう考えることにして布団をめくり、起き上がる。少し早く起きてしまったかもしれないが、外を散歩するのもいいかもしれない。部屋からそっと出て外へと向かうのだった。

江戸時代って庶民は玄関がなかったみたいです…。この物語に登場させていいものか迷ってしまう。あったとしても「玄関」という名詞は現代的な気がするんですよね。身近な言葉だからでしょうか。

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