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春夏愁刀  作者: 三藤ユウ
一章
3/6

ぎこちない仲間入り

 少女が扉を開けようと手を伸ばしたその時。扉がガラガラ、と大きな音を立てて勢いよく開いた。

まさに一歩踏み出そうという態勢で中にいたのは長髪を後ろで一つにまとめている大人びた青年だった。

青年はこちらをしばらく刺すような目つきで観察したあと、刀の柄に手をのせながらこちらにしっかりとした足取りでゆっくりと歩いてきた。

「_その少年は?」青年が低く唸るような声で少女に問う。

「牢で見つけました。たった一人牢から出ることを望んだ者です。皇帝への強い恨みを持っており体つきもしっかりしているので仲間にどうかと_。」

 ああ。なるほど。こいつは皇帝に歯向かうやつで俺を勧誘しようとしたのか。まあ納得だ。だが青年が何も知らないところを見ると我々の存在を知ったものは抹殺する! とか言ってくる可能性はある。まあ襲い掛かってこられたとしたら少女だけならまだしも、青年にはとてもかなわないだろう。最初に見たときは大柄でもなくなんとかなりそうかと思ったが近くで見ると引き締まっているのがわかる。特に足だ。ふくらはぎに硬く筋張ったこぶがついている。これは相当鍛えているだろう。

 

 青年は少女に手招きをし、ひそひそと会話をはじめた。青年の顔が鬼のように恐ろしいのと、少女が今にも泣きだしそうな様子で唇をかみしめているところから判断すると説教をされているように見える。まるで親に内緒で動物を拾ってきて叱られている女の子だ。と、思いながらしばらく待っていると、だんだんと真剣な表情に変わってきた。まずい。殺される。しかも話し合いは終わったようで青年と少女が歩いてきた。覚悟を決めてはいるものの怖いものは怖い。咄嗟に身構え、一歩後ずさる。青年は歩みを止めて軽く息を吸う。

「君が皇帝を殺すためにその命を捨てる覚悟があるのなら私たちは君を受け入れよう。 _私たちは反逆者だ。皇帝を恨む者、この国を変えんとする者を私たちは歓迎する。」

 

 ……とりあえず今すぐ死ぬことはなさそうだ。歓迎すると言っておきながら敵意むき出しの目はどうにかしてほしいものだが。初対面の素性も知らないやつを信用しろっていうのもなかなか難しいとは思うが。

行く当てもないし、皇帝に復讐ができるかもしれない、国を変えられるかもしれないとなれば乗らない手はない。というか反逆者の顔と家を知ってしまったのだから、断れば生きては帰してくれないだろう。

「どうせ死ぬのならこの国に一矢報いてから死にますよ。ぜひよろしく頼みます。」

「そうか。俺は冬真だ。そして妹の小春。よろしく頼む。」

 ため息をついたように見えたのはきっと気のせいだろう。そこまで拒絶しなくてもいいじゃないか。

それにしても春に冬か。ひょっとしたら運命なのかもしれない。そう思いながら自分の名前を名乗る。

「夏己です。夏に(おのれ)で夏己。本名ですよ。なんだか運命感じますね。」

一生懸命明るく爽やかにふるまう。そうしていないと冬真と名乗った青年の目に刺殺されてしまうように思えて仕方ない。そうしてぎこちないながらも反逆者の仲間入りをした。まあ元からだが。


 それから先はよく覚えていない。刀をもぎ取られ、寝室を与えられ、水も食も取らずに布団に横になっている。冬真に相当警戒されているのが少し傷ついた。まあ自分も殺されると思っていたのだからお互いさまではある。ぼうっと考えていると強い眠気が襲ってきた。当然だ。牢を出る時点でに本来眠っている時間だ。そこそこ歩いていたし、何より精神的に疲れていた。酷い空腹状態であったことおも忘れて夏己は深い眠りへと落ちていった。

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