デミ・ゴッド
「勇者たる私が倒さねばならぬ、敵です」
「敵……」
「あ、デミ・ゴッド全てが敵と言うわけではありませんよ。これから私たちに味方してくれるデミ・ゴッドに会いに行きましょう」
「分かった。村にお別れをしてくる」
デミ・ゴッドについてはおいおい聞いていけばいいか。
今回、奴隷にされかけた女性たちは幸いにも助けられた。だが、村の男衆もおばさんたちも皆、殺されてしまった。
色々と調べた結果この敵を派遣した軍は覇王国グラニスグランド。勇者アリスが活動停止した二百年前から続く帝国だそうだ。
こいつらは敗残兵だと思われる。大して強くなかったし。
私たちがこれから向かう国は女王国エリスエデン。デミ・ゴッドのエリス=ガーデナが影から支配する国らしい。どうやら今回の兵たちはエリスエデンに敗北した敗残兵だったようだ。
グラニスグランド覇王国……そちらはいつか潰さなければならない国。
しかし、二百年も生きてるのか。そう思ったが、デミ・ゴッドに寿命は無いらしい。私もそうなりかけているそうだ。強い魔力を持った人類近縁種が更に強い強い魔力を持つことで、神に差し掛かるという。
ちなみにこの世界を支配する神様は五柱いて、その内の三柱を祀る三神教が主流の宗教で、他の二柱の神様は今のところ地方に神殿が置かれているくらいらしい。
主となる三柱は、太陽の女神、月の女神、星の女神で他の二柱は海の女神と森の女神。
アリスを遣わせた女神様は星の女神様だそうだ。優しい所も有るが、実力主義の厳しい神様だと伝わっている。
デミ・ゴッドも神様だけど位が違うらしい。
宇宙を司る神と星で覇権を争っているレベルの神だから桁が違うよね。
「そうか、神託に有った宇宙の全ての火を司る女神の候補は、貴女なのね」
「へ?」
火を司る女神? 思わず変な声が出た。
◇side アリス
いや、女神様、二百年も動けないのは辛かったわ。お陰でこの邪竜をコントロール下に置けたけれど。
星の女神様なら逆に「つまんなかった」とか言いそうだけど。絶対に言うわね、あの中二病が治らない女神様なら。
私が初めて会った時も黒いノートを読んで中二ポエムな魔法の呪文を唱えていたものね。確か「漆黒より暗き冥府の深淵に蠢く亡者の……」とかなんとか。私もよく二百年も覚えていたわね。意味が全く分からないけど中二病なのはよく分かったわ。
あの黒いノート、名前を書かれたら死にそうなボロボロのノートだったのよね。英語でブラックノートとか書いてたし。絶対に狙ってたわね、あれは。黒ノートってか黒歴史ノートだったけど。
その女神様の容姿はゴスロリヘテロクロミアの徹底的な中二拗らせルックだったけど悔しいことに似合ってて可愛かった。
その女神様が私をここに送り込んだ時に確かに言ってた。あらゆるサポートをしないと消えてしまいそうな火の女神候補の女の子がいるから探し出してサポートをしてやって欲しい、と。
二百年も経ったから約束を守れなかったのか、と思ったら、それも計算済みだったのね。
あの二百年はいったい……。いや、運命の強制力みたいな物が有るのかもしれない。女神様は「運命は人の物」って口癖みたいに言ってたしね。私がヘマした結果の二百年だったんだろう。
あ、私が本名が有栖川恵里菜なのにエリナじゃなくアリスを名乗ってるのは、異世界が不思議の国みたいな世界だろうと思っていたから。物理現象や植生が地球にここまで近い世界とは思わなかったわ。魔法はあるけど。
チョコやコーヒーやトマトも有ったから料理は捗ったのよね。
でも二百年も経ってるのに何故かこの世界はちっとも進歩していないみたい。ここがドのつく田舎だからかな?
昔の歌に有ったような文明から取り残された村なのよね。この世界だと魔物の活動で流通が分断されやすくてこういう過疎村は多い。
敵の機竜の多さから魔法技術が多少伸びてるのは感じられるんだけど……結局私と、この邪竜のコンビの方が強いのよね。
このままこの火の竜皇とか名乗る駄竜と、火の女神候補の彼女を双方とも守って、育てていかないといけないんだわ。
それは面倒臭そうで、それでいてちょっと楽しそうな未来だ。
でも、結果的に二百年も放置したデミ・ゴッドたちがどうなっているかは謎だわ。二百年前の時点ではこの邪竜を使った機竜を使えていたなら絶対に負けなかったはずだけれど、どうなっているのかしらね。
弱体化してくれていたら笑えるのだけど、まあデミ・ゴッドたちは皆チートキャラだったからなあ。かなり強くなってるんだろうなあ。
邪竜の力、私の技術、それだけでは勝てないかもしれない。
鍵を握るのは間違いなくリンネ、彼女。やはりこれは運命だったのかもしれないわ。
「しかし、覇王国も残っているんですか」
「ん」
「あの国のデミ・ゴッドは中々に厄介だったはずだが、二百年か。流石に眠りすぎたかもしれんな」
「このロリ竜皇が変に足掻くから拗れてしまったわね」
「ロリ言うでない。誰が奴隷同然の契約など受け付けるか」
そこは私も変に拘りすぎたかも知れないわね。案外こいつはオツムも弱そうだし御し易そうだもの、この駄竜皇め。
結局かなり譲歩した契約になってしまったものね。無駄に時間を費やしてしまったわ。
さて、情勢がどうなっているのか、まずは私が軍人として所属している女王国に帰らなければ。
「あれ? 女王国はまだ有るわよね?」
「ん」
「まああのレズ女神はそうそう死ぬまいよ。殺しても死なぬという奴だ」
「う、うーん、帰るのちょっと嫌だわ。二百年分のスキンシップされそう」
エリスエデン女王国の支配者、デミ・ゴッドのエリス様は本当に怖い。
まず私がアリスと名乗ってもエリナと名乗っても二文字も名前が被ってるのが嫌ね。まあそれはどうでもいいんだけど。
「はあ……」
「なあ、竜化して帰らんか? もし襲われたらそこで屠れるぞ?」
「流石にお披露目しなければ国に入った時点で他国の竜と思われて撃墜されるわ」
「飛行能力さえ取り戻せたらなぁ……。そんな警備隊の竜ども余裕で振り払えるのに……」
そう言えばこの駄竜はめちゃ速く飛べるんだったわね。そしたらリンネが更に酔いそうだけど。
エチケット袋を検討するべきかも知れないわね。
まあ今回は歩いて帰るしかないわ。エリスエデン国境までは竜で良いけどね。
はあ……、帰りたくない……。
sideを入れないとお話にならなくなるシーンがあるのでご容赦ください。主人公が気を失ったりすると周りからの反応が描けなくて。