竜皇の力
楽しんでいただけたら幸いです。
4/21 書き直し。
「一時的に二十パーセントまで力を引き上げろ!」
「二十パーセント……現在のリンネさんの魔力なら行けますか」
「やってみて」
パワーアップするとどう体に影響を及ぼすのか……。いきなり倍の出力、少し怖さを感じる。
ぐっ、と体に圧力が掛かり、それが更に強くなってきた。
「十五パーセント……十六パーセント……十七パーセント……、リンネさん、行けますか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫、行ける」
「さすが我が主よ。そんなに柔ではないな!」
かなり体に掛かる負荷が増した。シートベルトという物が私を支えてくれているので吹き飛びはしないが、急旋回されると体が潰れて内臓が引きずられるような感覚に見舞われる。これ以上強くなったら動きについて行けなくなりそうだ。脳味噌までシャッフルされてしまう。
「む、バイタルが良くないな。アリスよ、リンネの重力軽減操作を頼む」
「了解しました、重力軽減の際に気分が悪くなるかも知れませんので、リンネさん、体調に気を付けて」
「分かった。少し吐きそう」
「うわわ、中で吐くでないぞリンネよ!!」
確かにお腹の中で吐かれるとか怖すぎるよね。
良く考えれば分かることだったが馬車の全力疾走より速く、制動時の遠心力が強く掛かるのだ。馬車に乗った経験は少ないが酔うのも当然だろう。早めに対処してもらえば良かった。迂闊だったな。
でもこれは制動に耐えきれないような急激な動きが相手には出来ないと言うことで、こちらのスピードが、相手が重力コントロールを出来ない場合限定ではあるが、けして負けることは無いと言うことだ。全力でフィオが動いたら酔うどころか潰れてしまいそうだけど、そこはアリスがいてくれて良かったな。
「三人で、強くなる」
「その通りだ」
「頑張りましょうね!」
「では、一つ上の竜の魔法を見せてやろう。竜皇たる我が力をな!!」
そう言うとフィオは口に魔力を集中させる。その魔力の圧力と波動だけで頭がくらくらするようだ。それを見てアリスが魔力防御を展開してくれる。
やがて魔力が十分に溜まったらしい。私が発射のボタンを押すとフィオが、その必殺の一撃を放つ。
「我に砕けぬ物無し! フレア・ボム!!」
ぐおう、と眼前一杯に広がった炎。それは大型機竜の背中に直撃し、弾けた。山をも砕きそうなフィオの炎だ。……フルパワーなら大陸を抉ると言うのは誇張では無いらしい。
それに勝てたアリスも化け物かも知れない。
大型機竜は上半身を吹き飛ばされ、緩やかに膝を突き機能停止……死を迎えられたようだ。
「これで最後?」
「ミンチよりひでぇですね」
「頭の中読まれた?」
「え? 故国の慣用句のような物ですよ」
「そう」
ひょっとしたらその故国の人が言葉を遺していたのかも知れない。本で読んだ記憶がある。ハンバーグ食べられなくなりそう。
私は魔法使いなので村長宅の本を優先的に読めたのだ。まあ火の魔法しか使えないのであまりタメにはなってないが。
でも魔王様の恋愛物語とか冒険ものなんてのもあって、それが凄い好きだったんだよね。村長の本も回収しないと。
「うむ、全員倒したな。仕上げに飯でも漁るか」
「うん。これ、どうやって降りる?」
「左に避難ボタンがありますが基本は私が出しますよ。仮体展開」
閃光が目の前に広がり、うわっと、思う間もなく私の体は地に降りていた。
何故かアリスが「目がっ、目があっ」とか騒いでうざかった。そこまで眩しくない。
私の前に現れたのは美しくきらびやかながら、野生で戦い抜いたオーラを内に感じさせるような、そんな二人。
どうやら彼女たちがアリスと…………。
「私がアリスです」
「我こそが竜皇、フィオ様だ!」
私の隣に降り立ったアリスらしき少女は銀髪に青い目、白い肌で美しいと言うより可愛い。胸は普通。
フィオは…………。
「竜皇……ぷぷぷぷ」
「む、アリス、笑うでない!」
「可愛い」
黒髪のツインテールに赤い目、白い肌の低身長な八歳くらいの女の子だ。可愛いけどあの竜には思えない。ちなみに竜の時は全身が黒く、所々赤い光を放つ、鎧を纏った人間のようなスマートな体の竜だった。
どういう原理かは分からないが外観もモニターに映っていたのだが、千里眼システムと言うらしい。ビジョンと呼ばれる装置でその映像を映すことができるそうだ。
アリスが言うには赤いのは三倍速いそうだ。本当かな。もっと速くない? フィオはスピードが凄いと思う。全力の十分の一以下で他の機竜は全て置き去りだった。
おまけで、私はボサボサの茶髪、肩までのロングヘアに茶色い目のかなり平凡な顔立ちで胸も貧相、どこを取っても普通だ。眠そうな顔とよく言われる。身長はアリスより五センチくらい低く、百五十八なので小さい方だろう。フィオはそれより更に頭一つ以上小さい。
「フィオちゃん、……竜皇ちゃま……、ぷぷぷぷぷ」
「貴様あッ! アリスうっ! 笑うでない! 笑うでない!」
やっぱりアリスとフィオは仲が良いと思う。フィオの魔法は凄まじい力だったがこの見た目の可愛さも凄まじいと思った。流石は竜皇だ(棒)。
ん、なんだか世界が回っている。そう言えば忘れていた。
「オロオロオロオロ……」
「ぎゃー! 吐くなら離れて吐けーッ!!」
「まさかのゲロイン! 離れてリンネさん!」
完全に酔った。これが機竜酔いか。慣れるまでこれは大変そうである。
「も、二人が、普通に戦えば?」
「この姿であんな力が出るものか!」
「私も邪竜の力を抑えてるのでそんなに力は出せませんね。一応剣は振れますが」
やっぱり無理か。機竜はそういうものなんだろう。
だが、アリスに剣を教わるとかはできそうだし、これからは魔法剣士として力を磨いていかないと駄目だろう。
その後はしっかり吐いたので敵軍の糧食を頂いてたっぷり食べたのだった。お金も個人の財布を漁ればなかなか集まった。二十万グリンは下らない。そこそこ裕福な家でも二年は楽しく生きられる。何か軍略で使う予定だったのだろう、大金貨が入っていたのが大きかったな。大金貨は十枚で都市部で家を建てられるくらいのお金だと聞いたことがある。それが二枚分もある。
ちなみに糧食は乾パンとか干し肉ばかりで、実に不味かった。改善を要求する。大量に食べたけど。
アリスが調理してくれたのでかなり美味しくなった。水で戻した干し肉とたっぷり野菜煮込みだそうだ。これは美味い。
「あんなに吐いてたのに良く食べられるね」
「リンネの神経とか胃袋とか普通の規格と違う気がするな。……もしや、デミ・ゴッドに近付いているのか?」
「デミ・ゴッド?」
聞いたことがある。確か幾つかの国を支配する七人の、神に近い力を持つ存在だ。
それに私は近付いているらしい。
「デミ・ゴッド……」
「敵に回すと厄介な連中だ」
「そうね」
そして、勇者たる私が倒さねばならぬ、敵です。
アリスは呟いた。
応援して下さって有り難う御座います!




