経験値
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少しずつ機竜の乗り方が分かってきた。馬などに近いのかもしれない。
田舎なので私も多少は馬に乗れる。村の人に教わったのだ。
方々から火が上がる村を駆け抜ける中で沢山の村人の死体を見た。狩人のおじさんも薬草スープのおばさんもエルフのお兄さんも獣人のおじさんも、死んでいる…………許せない。怒りのあまりに静かに涙が溢れる。
逃げ惑う敵兵を後ろから屠っても心がちっとも痛まない。こんな野蛮なやつら、ゴブリンと一緒だ。欲のままに奪うのがお前らの正義なら、私もその正義を示そう。
「戦う、倒す」
「目覚めるのです。その力を正義の為に」
「抗うのだ、全ての理不尽に」
勇者と邪竜が声を揃える。私も、自分の力を伸ばして戦いたい。こいつらはその為の経験値だ。
「一際大きい機竜が一機だけいますね」
「探索の魔法か。昔からみみっちい魔法が得意だな」
「誰の魔法がみみっちいですか。その魔法で機竜になった癖に」
「邪法を誇るでないわ」
機竜化の魔法は生物をシステムとして作り替える邪法だ。今では一般的になってしまっているが生物の意思を無視して奴隷化する、とても危険で邪悪な魔法だ。
「確かに邪法では有ります。しかし、大勢の人を殺す凶悪な竜どもに使うのはやむを得ません」
「どう理屈を付けようが我が意思を奪う邪法に変わりはないわ」
「それを使う私も邪悪?」
「……使い方次第です」
「いずれお主がその力を使いこなせるようになれば我の自由度も上がる。そうなればお前に掛けられた呪いも我が解けるだろう。そうなればその真の魔力を借りて我も自由だ。それならお主自体は邪悪とは言えまいよ」
「……いつか、ね」
敵兵を薙ぎ払い、焼き尽くす。こうして私は強くなっていく。……やがて森の中、敵の宿営地らしき場所に聖剣アリスのサーチに掛かった巨大な竜が見えてきた。
あいつを倒して、もっと強くなる。
「行く」
「聖剣の力を解放します。出力、百二十パーセント」
「ケチ臭いな。我の力も解放せよ」
「邪竜の力も十パーセントまで解放します」
「本当にみみっちいな!」
「フィオの力、十パーセント?」
その割にはあまりに強すぎると思った。人間も機竜もフィオの動きにはついてこられていない。私の拙い剣術でも倒せるほどだ。
「そもそものポテンシャルが我と奴らでは違うのよ。簡単に言えば平屋の小屋と城が戦うようなものだ。戦争するという意味でな」
それでは全く勝負にならない。城に二千人兵が詰めれたとしてその十分の一。平屋の小屋に二百人は詰められまい。そう言うことなのか。
もし私がフィオの力を百パーセント引き出せるようになると、国と戦争しても勝てるかもしれないと言うことだ。……いずれ、だが。
「今はゆっくり力を蓄えれば良い。我の中にいればそれも早まろう」
「濃密な魔力の中にいれば人は早く強くなれますからね。この戦いが終わるまでにでも貴女のその強い魔力が更に一段強くなるでしょう」
「まだまだ強くなれるだろう。我らを信じよ」
「分かった」
今は目の前のデカブツを倒す。サイズは違うけれど鈍重な感じの短い足で首が長く太い、直立した竜。見た目だけでも負ける気はしない。二人が自信満々なのもあるけれど、何となく魔力感知が上がっているようで、相手の魔力が分かる。間違いなくこちらほど強くはない。
「良い練習台であろう。まずは剣で攻めろ」
「出力を上げましたので剣の波動を出せます。ですがまずは接近戦で経験を積みましょう」
「分かった」
二人の意見は同じだった。やはりこの二人は仲が良いのでは無かろうか。
しかし、見上げるほどにデカい相手に剣で戦いを挑むのは無謀にも思える。
「あんなものはデカい的です。脚を攻めればあっと言う間に戦闘不能になりますよ」
「ふん、まあ接近するまでが大変であろうがな」
「ブレス、来ます!」
デカい機竜が頭の上から炎を吐き出してきた。ファイアスタンプという竜魔法らしい。巨大なオレンジの炎の球体を素早く横に回避するために左のレバーを引いてスピードを落とすと、私の意図を察したフィオは綺麗に体を右に転がした。激しく揺れたがどういう魔法か私の体は固定されている。起き上がりつつ敵に体を向けたフィオを出力を上げて全力で突っ込ませると彼女はゆるゆると体の進行方向をずらしてフェイントを掛けた。そのまま右に抜けつつ脚を斬りつける。不壊の聖剣は恐ろしいまでの切れ味だったが私が一瞬怯んでスピードを下げたからか傷は浅かった。
尻尾の横薙ぎが飛んで来たのをフィオが小さくジャンプして蹴りつけて躱す。
「ジャンプの直前に一瞬スピードを下げてくれると踏ん張って高く飛べる。忘れるな」
「分かった」
「止めは剣の波動を撃ち込むとしてこのペースで相手を削っていきましょう」
「後ろからアタックだ!」
「鈍足!」
動きの鈍い大型機竜の背中を駆け上がり、背中に剣を突き刺すと、剣と敵の骨の摩擦で制動が掛かった瞬間にフィオが後ろに飛ぶ。
「止めです!」
反射なのか大きく仰け反った大型の頭に向けてアリスがオーラブレードを飛ばした。
デカい頭が砕け散る。聖剣の威力、凄い。
色々と勉強になったけどもう少し戦っていたかったな。
「馬鹿、機竜は頭を穿っても死なんぞ!」
「あ、そうでした!」
頭を穿っても死なないなんて機竜は本当に生物の枠を外れている。そんな改造を加えられるとは確かに邪法だろう。やられる方は堪ったものじゃない。
再び向かい合い、先ほど斬った脚に更に追撃を掛けるが、痛みを感じにくいのか感じないのか動きが多少ぎこちなくなるだけで、止まらない。
フィオとアリスが言うには敵のコックピットを探して潰さなければならないようだ。
大型の場合その位置はよく分からないらしい。まあ五十メートルの中の二、三メートルを探らないと駄目だしね。
逆にあの大きさの敵に体を貫かれたら私はミンチより酷いことになるだろう。気を付けよう。
機竜の脳味噌はコックピットに移ります。