我こそが強欲
4/21 書き直し。
全てを奪ってやろう。ご飯とか、ご飯とか、ご飯とか、ご飯。あと命。命を奪わないとご飯は食べられない。土塊を食えと言うなら食うが、それは足元を食うことに他ならない。多分死ぬし。
私は食いたい。色々食いたい。しからば旅をしよう。
まずは我が敵を屠ろう。それでレーションとか奪って食べよう。多分美味しくないけど。お金ももらっちゃおう。三十グリン、大銅貨三枚もあれば一人一食は食べられる。軍隊だからそんなに持ってないかな? 全員からかき集めたらそこそこには……。
「なあ、我たちは主を間違えたのでは無いか?」
「肯定します」
「え、ひどい」
泣いても良いですか。駄目ですか。そうですね。とりあえず雑魚の兵たちを片付けましょう。
「うわああ、機竜だああああっ!!」
「逃げ、逃げっ!」
「こちらも機竜をよべえええっ!!」
あ、うん。ドラゴン相手に素で戦いを挑むなんて勇者くらいだね。勇者を勇者と呼ぶ理由が分かる。私もドラゴンと戦うなんて無理だ。兵たちは団子になって逃げ惑っている。
「機竜の力はどう使うの?」
「まずは魔法を唱えるイメージをすればディスプレイに表示が現れる。強い魔法は使えなくなっているはずだが最大では大陸を抉るほどの威力の魔法も有るので、気をつけて使え」
「右の制御レバーで威力調整は出来ますよ。左のレバーは速度調整です。手前に引いて出力を緩めればどちらも制動はしやすくなります」
「はあ、我もこれで人の言いなりか」
「さっさと降伏していれば良かったのです」
「まだ降伏した訳では無いぞ」
「喧嘩はそれまで」
どうもこの二人は仲が良くないようだ。まあ敵同士なのだから仕方がないけれど。
……とりあえず雑魚の兵隊さんも村を襲った悪人たち。滅ぼさないとね。ええと、右のレバーを少し押し込んで魔法を発動してみる。
「最初の魔法から試してみる。ファイア」
「行くぞっ! ファイア!」
機竜の口から巻き起こる激しい炎の息。初歩の魔法でもドラゴンのそれは私の魔法より遥かに強い。辺り一帯の兵たちはそのブレス一発だけで燃え尽きた。……凄い。
「本当に兵器なんだ……」
「まあ邪竜ですからね」
「邪竜言うな。竜皇である!」
「竜公?」
「何となく違う発音な気がする!」
「ポチとでも名付けますか?」
「わん公と一緒にするな!」
「ちっちっちっ。ボールとか投げる?」
「リンネも犬扱いやめい!」
暗い竜の中の部屋、コックピットと言うらしい、その部屋にアリスの笑い声が響く。なんだか賑やかになった。独り暮らしだったから嬉しい。……でも、村の人を殺した奴らは、許さない。
私は昔の私みたいに暗くなってしまっている。こいつらのせいで両親を亡くして塞ぎ込んでいた頃に戻ったようだ。
私を支えてくれた村人たちは、もういない。こいつらが奪った。
だから次は私が奪う番だ。
「どうやら向こうの機竜が来たようだな」
「あの程度なら駄竜でも勝てますよ」
「誰が駄竜か! 力を戻せ!」
「リンネに魔力が無い状態では難しいでしょう」
「ちっ、仕方無いな」
どうやら機竜化の契約で搭乗者の魔力を発動キーにしないと本当の能力を振るえないらしい。今の私の魔力は十分の一ほど。ほとんどの魔法を使えないらしくディスプレイに映る魔法欄はほとんど灰色になっている。
「緊急避難的に我の力を解放せよ。そうすればこやつらなど塵芥同然よ」
「話に乗ってはいけませんよ。この駄竜は制限解除したら暴れて逃げるだけですから」
「逃げんよ。どうせ力を百パーセントは解放させまい」
「それでもです。敵を倒したいなら聖剣を振るえば良いのです」
そう言えば聖剣を持っている。竜のサイズに合わせているのかとても大きい。人の振るえるサイズではない。この竜のサイズからして長剣と呼ばれる程度の長さなので六メートルはあるだろうか。人間など近寄れもしないだろう。
「この聖剣にはいくつもの力があるのです。サイズ調整もその一つ。後は不壊のスキルもありますので他者の剣と打ち合っても折れることがありません。剣を振るには右に浮かんでいるボールを振るって下さい。細かい調整は駄竜がするでしょう」
「駄竜言うな。……さっさとやるぞ」
「行く」
加速のレバーを入れて敵を屠る。あっと言う間に彼我の距離はゼロになり、ボールを右から左に振れば、機竜も剣を右から左に振る。敵機竜は上下二つに分かれ、激しく血を噴き出す。機竜も血を流すんだね。
「一機撃破だな」
「駄竜の癖にやりますね」
「駄竜ではない!」
「駄犬?」
「リンネが毒舌なんだが……」
私は昔から正直だ。雑談しながらも次の機竜を狩る。次は左上から右下に捌く。相手の機竜は剣で受け止めようとしたが剣ごと真っ二つになった。
「凄い」
「これが我が力よ!」
「聖剣の力です。駄竜はおまけです」
また二人はぎゃあぎゃあと喧嘩を始める。意外と仲が良いのかも知れない。まあ伝説によると火の月の丘を私たちが守り始めたのは二百年も前らしいからこの二人は二百年もの間、封印の中でいがみ合っていたのだろう。……ずいぶんと暇な話である。
「早くご飯」
「スルー良くない」
「私も食べたいですねえ」
敵の陣地が有るはずだ。竜に乗ると回復力が上がるのか魔力が少し回復してきた。魔法を見ると三つほど使用可能になっている。
「敵は皆殺し、食料は皆奪う」
「シンプルで良いな!」
「本当に主を間違えたかも」
まあ今更だろう。私は少しでもこの竜の使い方を覚えて、……そうだ、旅をしよう。
沢山の物を見て沢山の音を聞いて沢山の物を食べて、自由を、沢山の幸せを掴むのだ。
「我こそが強欲」
体調悪いので連日投稿できそうにないです。すみません。
リンネは十四才。日本なら中学二年生。後は分かるな?