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赤月竜戦記  作者: いかや☆きいろ
英雄の誕生
2/21

正義は我に在り

 5/2 書き直し。

「奪うなら我を」


「正しく在りたいなら私を」


 私は、いつも見ていた火の月の丘に辿り着いた。

 そこは私たちの村が守り通してきた場所。神聖なる土地。最後の一人となっても、守り通さなければならないと伝わる場所だった。


 そこで響いてきたのは二つの声。気高き少女と、優しい少女の声だった。姿は見えないがずいぶんとしっかりした声だった。


 私は魔力を使い果たし、疲れ果て、そこに響いてきた魅惑的な声に、ただ手を伸ばすしか無かったのだ。できなかったのだ。


「私の手に……力を……」


 無意識に発していた声。伸ばした手は痩せていて、土で汚れている。ただただ力を求めていた、私は。


「力を……あとご飯を……」


「なんでこの惨状で飯?!」


「私も美味しいご飯食べたーい!」


「お前もかい!」


 何やら二つの声が言い争う。お腹すいた。

 ……そして、あいつらを、私に殺させて欲しい。


 何故かその二つの気持ちが融合した。……奪う。

 その時。


「仕方あるまい。この者の望みは我らと同じ」


「ようやく機竜になる気になりましたか」


「誰が奴隷になどなるか。我は竜皇ぞ」


「それ自称ですよね」


「竜皇って名乗ったら他の竜は挑戦してくるの! 負けてなければ竜皇なの!」


「地が出てますよ。それに私に負けましたよね」


「負けてないわ! つか危機感無いな!」


「二人とも危機感無い」


「お前もだ!」


「うんうん、貴女も危機感無いですね」


 追ってきた騎士はほとんど燃やしたからね。魔力がほぼ尽きたからもう無理だけど。


 私が使えるのは最下級の火の魔法だけ。でも魔力は多いから全部焼き払えた。


 幼い頃、私の魔力が高すぎるゆえに懸念した旅の巫女さんが、私の魔法を最下級の火の魔法に制限する(まじな)いを掛けていったのだ。そのせいで不便はあったが、暴走せずに済んだので私は感謝していた。


 今、この時までは。


「私に掛かってる呪いが解ければなんとかなる」


「ふむ? お主、なかなか高い魔力が有るのだな。我が騎士に相応しい」


「その魔力があるなら呪いが掛かっていても聖剣を使えますよ」


「だから、(われ)が機竜として力を貸そう」


「だから私が聖剣として力を貸しましょう」


 私の中に響く二つの声。私は躊躇いもなく答えた。


「ご飯食べたらなんとかなる」


「飯が一番か!」


「まずは危機を乗り越えてからご飯食べましょう!」


 ご飯を食べたら魔力が回復するので逃げるくらいなら本当になんとかなるのだが、やはりこのままではご飯が食べられないらしい。それに、すぐにでも村の仲間の敵を討ちたい。


「敵討ちと飯どっちが大事なのだ……?」


「この子けっこうぶっ壊れてますね」


 私に良くしてくれた村の人たちには感謝をしているのだ。だから敵は討ちたい。両親を亡くした…………殺した私が生きてこれたのはこの村の人々のお陰なんだから。

 でもご飯を食べても逃げることができるというだけなのは間違いない。機竜という言葉が聞こえたし、私がドラゴンに勝つのは呪いがかかったままだと無理だ。


 だから私は……、力が、欲しい。


「仕方ありませんね、制限を緩めましょう」


「これでいよいよ我が力を振るえるな」


「……力を、貸して」


「良いでしょう」


「良かろう」


 汝に、力を。

 二つの声は確かにそう響いた。


 虐殺を始めよう。正義のために、欲望のために。


「機竜発動……おい、力が制限され過ぎではないか?」


「そもそも聖剣の力が有れば事足りますよ」


「むぐう、いずれ更に力を解放してもらうからな」


「悪しき亜神たちを滅ぼすためには、いずれ」


 二人の話は良く分からなかったが、私に力が与えられたことだけは解った。


 気付けば、私は竜の中にいた。目の前の窓には何故かその竜の姿が映っている。黒い人の形に近い竜が鎧のような装甲を纏い、所々が赤く光り輝いている。

 本で読んで知っている。竜を機械化して乗り込むために聖剣を使う魔法術式が有るのだと。そうして生まれた機竜に乗り込み戦う騎士がいるのだと。


 私はこの時、最凶の機竜騎士になった……らしい。


 私の乗った機体は高さ十一メートル程度だそうだ。聞いた話では五十メートルを超える機竜もいるらしいので小型だ。……力の程は分からないけど。


 そしてこの竜は剣を持っていた。これが聖剣。

 聖剣は剣としての力も桁外れだが、竜を機竜にするための装置(プラグ)だと聞いている。


 二人の話を聞く限りではこの聖剣を用いた勇者アリスが竜皇を名乗るフィオを機竜にしようとして失敗、しつつも、邪竜として暴れていたこの機竜の基となったフィオを封じることには成功した、そういう話のようだ。それをどうしてか赤月丘の伝説に変えて私たちの村が守っていたらしい。


 ちなみに聖剣に宿る意識はかつてその聖剣を振るった勇者アリスらしかった。

 機竜化術式に思わぬ抵抗を見せた邪竜フィオをギリギリ封印する為に緊急的に聖剣と融合したのだそうだ。


「我が名はフィオ。真名は、ファーガニ・ブレイブ・オーディン・グランバル・フィオラ」


「私の名はアリス、有栖川恵里菜」


「そう、私の名はリンネ」


 二人の名前はどちらも聞いたことのない響きだった。何か意味があるんだろうか?

 名乗ったことで契約が完了し、私たちのいずれかが死なない限りそれは続くそうだ。私たちはこれで、三人で一つの機竜騎士になったのだ。


「我ら三位一体、この世界の理不尽を屠り尽くそうぞ!」


「我ら三位一体、この世界を護りましょう!」


「我ら三位一体、……うん、たくさんご飯食べよう」


 結局飯か! そう叫んだ二人を責めたものはこの場にはいなかった。


 とろくさい敵騎士たちはようやくこの丘に逃れた私を見付けたらしい。しかし、今の私は機竜の中にいる。良く分からないレバーやボタンがいくつもある部屋で、私はディスプレイと呼ばれる窓から世界を眺めていた。


 火の災厄と、私の魔法を封じた巫女は言った。私もそう思う。私の力が制限されていなかった時、私は森を一つ焼き尽くした事があるのだ。そして両親は死んだ。


 二人の、機竜と聖剣の意識は私に敵討ちはいいのかと聞いていたが、馬鹿げている。


 私のような災厄を受け入れてくれた村人たちを蹂躙した輩を、最初から一人たりとも許す気など無いのだ。それが、当然。すなわち。


「正義は我に在り」






 機竜については詳しくは後程。ストックは四十話ほどあります。

 リンネが両親を殺したと言い張る理由は三章くらいで分かります。

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