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赤月竜戦記  作者: いかや☆きいろ
英雄の誕生
1/21

始まり

 久しぶりに戦闘メインのお話になります。初めての方もよろしくお願いします!

 5/2 書き直し。

 流通が魔物や戦争で細断されているこの世界には良くあることだった。


 都会では最新の技術で高い建物や魔道具が溢れ返り、便利な暮らしをしていると言うのに、私の村はどこの国に所属しているかも分からない貧しい村で、人々はみんな大変な労働していながらもなお、飢えていた。


 川の水を汲み上げたバケツを懸命に運ぶのが日課だった。


 川までは一キロ有り往復で二キロ、木のバケツ一杯、八リットルの水ならば八キロ以上の重さがあるそれを、舗装されてもいない道で何往復も運ばなければならない。


 生活に使う水を一度に運ぶのは無理であった。何度も往復し、畑に撒く水も含めて、一日に四十リットルから八十リットルを、少なくとも必要とした。水の魔法使いなら大人気だったろう。私は違った。


 料理のためにひたすら魚を捌き、芋の皮を剥くのも仕事だった。

 朝早くに起きて魚を獲り、芋の皮を剥き、鍋に水を注ぎ、炊き、煮えれば岩塩のみで味を整え、完成すれば器に盛り付け、他の村人に配膳しなくてはならなかった。さして美味くない飯を食うのも苦行であった。


 煮炊きのために、暖を取るために、柴をかき集め、火を起こすのが仕事だった。これは、私の魔法が使えた。


 腰を折り山を徘徊し、薪を割り、焚き付けに()べるのが仕事だった。土に塗れながら山に登り、時には木を切り倒し、重荷を背負い山を降りた。木を乾かし、乾いた木にマサカリを振るい、薪を割った。


 時には糞尿をかき混ぜ肥やしを育てるのが仕事だった。


 悪臭にまみれ、人によっては病に犯され、寄生虫が身体に湧くものさえいた。大抵命は助からなかった。


 畑を、更に腰を痛めつつ耕し、苗を植え、やがて実れば刈り取り、稲ならば実を落とし、杵で叩き、石臼で挽き、精米するまでが仕事だった。


 時には山野をさまよい、野草や山菜を漁り、毒キノコを間違って食うこともあった。

 時には魔獣に襲われ、戦い、大怪我さえした。それを狩って食う者もいた。他では汚れ仕事と蔑まれる狩人も、この村では英雄だ。

 魔物が暴れれば私は重要な戦力なので良く戦った。なので肉の配給はわりと多かったのが救いだ。


 それで一日に二食食えるならば、幸運であった。眠れる場所など貧しい者では厩や木の洞くらいだった。石積の小屋を持つ私のような者は裕福な方であった。


 何処の国に所属しているかも分からないような田舎である。保証などどこにもない。住民は五十人程度、ほとんどの家は木製だ。都市部ではビルと呼ばれるコンクリートの塔型ダンジョンのような建物も有るらしい。憧れて夢を見て都会に出て失敗する人の話は、この村でよく聞く笑い話だ。


 私の暮らしは厳しいが別に私が奴隷扱いされているわけではない。この村では多くの者が、誰もが、自分が暮らすために必要な労働だった。

 実際に余った時間には村長の家で本を読むこともできていた。読書は村人に一番人気の趣味だった。

 文字が読めないと内職する人も多かった。


 この村は危険な魔獣が蔓延る魔境の地にある。畑の実りは少なくて、一般的には巨体で強靭な肉体を持つと言われる獣人はみんな痩せているし、美しいと言われるエルフも痩せ細り煤けている。

 それでも、この村の人々には生きるのに必死になる、理由があった。


 この村には火の月の丘とか、赤月丘と呼ばれる場所があったからだ。


 その丘は、幸せを呼ぶために二柱の神が封印されていると言われていた。


 この土地に住む者たちは、その凄惨な生活の中に有っても、誰もが希望を失っていなかったのだ。


 やがて火の月の丘の神様は目覚め、その祠を守る私たちは必ず幸せを手に入れる。最後の一人となっても、その祠を、火の月の丘を守れ、と。


 私、リンネはこの伝説が好きだった。私が授かったただ一つの属性が、火だったからだ。


 火の月の丘の村、この村では今代、私以上の火の使い手はいなかった。


 火の使い手、つまり私は魔法を生まれつき使える、魔法使いだったのだ。


 でもまあ、火の使い手が生活の上でできることは、そんなに多くはなくて。


「リンネ、種火をお願いするよ」


「はい、おばちゃん。今日も薬草スープ?」


「すまないねえ、録な物が取れなくてさ」


「いい、私薬草スープ大好物」


「いやあ、本当にいつも助かるよ。リンネの火魔法は最高だねえ!」


 このおばさんは嫌味で言ってるわけではない。この村は本当に貧しいのだ。火起こしも大変な労働だし、私の存在はとても大きかった。

 それにこの返礼の薬草スープは破格である。実際私も好物だ。


 仕事には対価、これはこの村では普通のことだ。

 この村では火魔法の役割は魔物を倒す以外はこれくらいだし、逆にこれ以上の魔法を使える人がいない。私は便利な着火ガールなのだ。


 この火魔法は最下級ではあるが、ゴブリンやスライムくらいなら一発で倒せるので皆に有り難がられていたりする。時々猪とかミノタウロスのような強めの魔物も狩る。


 手入れしてなくてよれよれの肩まで伸びた茶髪、白く少しくすんだ肌、身長も体型も普通だが胸は小さくてやや痩せた、目は大きいがよく眠そうと言われる吊り気味の茶色の目の、多少火魔法が得意な大食いの十四才の女の子。それが私だ。


 ちなみに薬草スープは普通に好きだ。

 苦味が子供はだいたい苦手だが、私は何でも食べる子供なのだ。ただちょっと食べ過ぎるけど。


「おーい、リンネ! 今日は百キロはある猪を取ってきたぞ!」


「やった。今日は満腹になる。……食べるのが私だけなら」


「可食部位五十キロ以上ですけど?! フードファイターでも五キロくらいしか食えませんけど!?」


「冗談。五キロでいい」


「それも十分多いがな……」


 私は桁外れの大食いなのだ。狩りでは私も良く活躍するので肉の分け前は多いが、普段は小皿一杯の穀物で我慢しているが、ぶっちゃけ私は世界中の料理を一度に並べて食べ尽くすのが夢だったりするくらいの大食いなのだ。

 なのでこの村で暮らすのは非常に辛い。私はいつだって限界まで我慢しているから。


 でも、だからこそみんな私を蔑んだりしない。火の魔法と食の我慢は私がこの村で認められている理由なんだ。


 我慢するのは辛いけど、でも、だから、私は我慢することがどれほど人のためになるかも知っていた。


 我慢して、我慢して生きてきた。それが当たり前だった。


 ある日、それでも我慢できない日が、訪れた。


「機竜隊、この村から略奪せよ!」


「おおおっ!」


 何処からともなく現れた異国の兵団が、私たちの村からあらゆる物を奪っていったのだ。


 全身鎧を纏ったどこの者か分からない騎士たちに、全ての村人が、殺され、奪われ、焼かれていく。


 捕まるとどうなるかなど想像もしたくない。優しい村の人たちは私たち村の娘を丘へと逃がした。狩人のおじさんも薬草スープのおばさんも戦っていた。しかしそれでも追い詰められ、多くの友達が殺され、あるいは奴隷とするために連れ去られた。村の大人たちはそれでもなお私たちを逃がすために必死に抵抗していたが、普段戦闘などしない他の娘たちはすぐに疲れ果て足を止め、次々に捕まっていった。


 私は必死に抵抗した。私は小娘だがもとより魔境でも戦闘要員だ。逃げながらも火の魔法使いとして多くの敵を焼いた。しかし、騎士たちはかえって怒り、私が丘に辿り着くまでに全ての村人を殺したり、捕らえた挙げ句に私を殺そうとしてきた。私は全て焼き払っても逃げた。


 全てを、奪われた。


 …………なら、私が全てを奪っても良いはずだ。


 人は正義ゆえに怒り、欲ゆえに殺す。


 だから、私にその二人は声をかけてきたのだろう。


「奪うなら我を」


「正しく在りたいなら私を」


 どこからともなく、厳かな声が、響いた。






 リンネの村はド田舎です。他の地域では現代的な暮らしをしています。

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