貴方を、今も想う。
いつもありがとうございます(^^)pixivに載せていた作品です。たまにはこんなのもいいかな、的な。これからもよろしくお願いします。
夏の喧騒、静かな夜長と組み合わせて相反する夜と昼。
外では夏で昼の時間、中では夜長の冷ややかな空気、
この町ではそんなことは惰性のごっこ遊びのようなままごと。
「ヨルダ、外では戒律の件はどうなってるの?」
シンプルな光沢のボルドーで象られた液晶を見やる。
キーボードはピンク色でギャップを演出し、目の前の人物はしなやかな指を操る。
煙草の半分もない小さなノートパソコンは私のお気に入りである。
横に渋い缶のタバコが置かれ、ヨルダは一本葉巻のように軽く手に取る。
胸元と耳元にきらびやかなゴールドのチェーンが光っている。
よく見ると、時期的に彼氏からもらったというよりも、自分のご褒美という揶揄は突っ込まないでおこうか。
「ん~、やっぱり戒律の案件はともかくとして、
あちらさんは逃げ足が速くってね。また逃げられちった」
にゃっはと笑いそうな童顔が口元だけ笑っていた。
それと同時に葉巻からは火煙が灯のように光っている。
よく見ると警護服を着ていて、ストレス発散というように眉尻に皴が寄り、ヒット件数は0の画面が検索結果に映ってた。
ノートから目をそらすと、自分よりも若く美しい喫茶店のボンキュッボンに目が行き、「羨ましいです」と一言感想が出て、涙がダブルで出そうです。白地にピンクベージュのストライプのエプロン、ところどころにちりばめられる黒い繊細なレースは、一度は女子が着てみたい「カーネリアン」の名物メイド服。それを着ているのは一人だけ。この店も寂れてしまったものだ。
ところどころ老朽化の進む、きしむスギの椅子とカットテーブル、ピンク色の壁紙は今やベージュへ、纏う匂いは自分自身の葉巻。
「何見てんのよ」
「あいた、コーネちゃんは彼氏居ないの?」
「あんたねぇ、こんな寂れた街の冬の情緒溢れるがコンセプトの喫茶店にどこに愛があるのよ」
「え、あっためてくれる彼氏は私も欲しいんですけど」
「そりゃぁ…こほん。相変わらずあんたのペースに飲まれるとこだったわ」
かちゃ、その音と共に寂れたテーブルに可愛いイチゴミルクが白いカップに並々注がれる。
「何がいいんだかね~、あんなおもちゃ。
大人はわかりません~、タバコはこうして喫茶店で吸うことが義務付けられてるというのに、
小さく点在するとこで、未成年がタバコだたぁ、お姉さんは好きになれません」
ふぅ、と息をイチゴミルクに吹きかけて、一瞬霞でミルクかイチゴか分からないほどに煙が舞う。
「こういうミルクかイチゴか分からないほどに混ざって大人になるのに、
バーカね」
「ふふ、ヨルダだって、警護員になる前に、沢山悪戯してたじゃない?」
「( ,,`・ω・´)ンンン?」
「クスクス、悪戯や我儘や戒律は破った「後」に守るために出来てるのよ。
誰だって、遊ぶわ。でも…
度は過ぎたら戻れないのよ。何事もね」
煙ったいイチゴミルクを靄の中から掬いだして、一気に喉を焼くように飲んだ。
「あちち、このように喉は傷んでしまいますからね。
喉も傷みすぎたら、救い出しても戻らないんです」
涙目で格好つけるコーネは褐色色に赤い紅を引き、コップに口紅が濃く残る。
「だから、ヨルダが止めなきゃダメなの」
クス、と悪戯めいて意地悪気に笑えば、ヨルダは「了解」と親指を立てながら席を立つ。
ジリ、と音を立ててガラスの灰皿に吸い殻を押し付けながら。
「さてと、ノート君もここを出たいと言っております。寒いですから、女同士二人で夜長の喫茶店も」
「お代いい加減友人のよしみでもまけないわよ」
「あっちゃぁ、ばれておりましたか、お姉さま」
「たった一人の妹で生活費が厳しいとは言え、ほらほら、ノート君持ったわね?」
「はいはい、お姉さま、でわでわ、行ってきます!」
駆け足で駆けていく。ドアを開ければ、夏の潮騒の匂いがする気がしたのは、
明るい光とじりじりと鳴く蝉のせいだ、喧騒の、悪戯だーと思えば、
重なる背中にあの時出て行った父親を重ねて、我に返って苦笑した。
「あの子は誰を救いたいのかしら」
ー自分?
ー父親?
ー血の繋がりのない友人で姉の私?
ーそれとも、
「過去のヨルダ…かな」
じりじりと火の元は、
彼女のガラスの灰皿から吸い殻が燃えだしそうなほどに、
過去のヨルダの燻りを、姉としてコーネは見えなくなるまで光と妹を見ていた。
「ちょっとぉ、往生際が悪いんじゃない?」
「うるせぇ!」
小さな木陰でタバコを吸う少年は、紛れもない10代。
真夏のこの時期にわざわざうっとぉしいジーンズと革ジャン、
お姉さんは感心しませんと口を酸っぱく警護員として革ジャンの首元を持った。
「うわぁあああっ!?」
「そんな驚かなくてもいいじゃない、軽く持ち上げただけでしょ」
「はぁ?こんなバカ力の女居るわけ…ぐげぇ」
「馬鹿力じゃないとこの町守れないでしょ!」
軽く背の高いヨルダは、小さな体躯の少年などを軽く前方に足払いをして体を宙に浮かしてから、手を離して首元に警棒を地面の擦れる音と共に痛そうな声を上げる男に突き出して、
「こーいう趣味はないんだけど、踏むわよ?」
「ひぇっ」
「スカートの中はちゃんと防止策を施してますので見ようがご自由に。
タバコの処罰厳重化に伴い、貴方を署まで連行致します。」
ふぅと最近こういう輩が増えていることに冷や汗も夏の汗すらもかかないのは、
あの喫茶店にいたからなのか、この町が徐々におかしいからなのかの二択。
隠れの一択は、何かが動きだしそうになってるんじゃないかと、他の警護員が着て「お疲れ」と肩を叩いて気が付く。
随分と時間が経っており、私は居眠りをしていたらしく、
涼やかな夏の夜長が、ひんやりと鈴虫へ変わっていた。
「ヨルダ、居眠りか?(笑)
そんなんだから彼氏居ないんだぞ」
「うっわ、セクハラ所長!!ぶる~めんの音楽隊!」
「俺の名前はブルーだっつってんだろ、馬鹿彼氏いない歴」
「わわっ、暴露しないで、乙女の秘密っつうやつを!!」
未成年のタバコの増加についてどうこうと、私たちは冷ややかな目線を交わし話し合う、
私と彼は元恋人であり、体の関係などはなく、ただあのことが原因で別れた。
「父親の蒸発」だった。
結婚まで行く寸前姿を消した父親、
それからタバコの件数はうなぎのぼり、
流石にブルーは摘出に忙しくなる一方で、私を雇う決意を決める。
元来タバコは大人のたしなみで条件下が厳しく定められ、一定のルートで正規でないと買えなかった、
それが一変、これを何を意味するかわからず、私たちは「協定」を結び、
私はブルーとの結納を断る。
小さな町で彼に愛される幸せは、
彼の信頼と絆で確定されたはずだった「仮初」
それは終わってしまったけれど
私は彼がまだ好きで、彼には恋人がいるのだった。
愛してるに誓いを立て、
私は解決するまで彼に愛を告白しない。
時々切なくて肩が震え、胸が熱くなり泣きそうになり目頭が涙であふれるとき
コーネが見ている気がして、
歯ぎしりで寝ているふりをして、
私は涙をこらえる。
彼は今の恋人と別れたら、
コーネにアタックするつもりだと、
聞いてから眠れなく、居眠りをして彼を待つ、
肩を叩いて、心を起こしてほしくて。
揺れるゴールドのアクセサリーが音を立てる度に、
彼への心をしまう。
…pixivであまりに人気ないけど、気に入ってるので載せました。