花火
僕は花火が大っ嫌いだ。
花火は人を呼び寄せるから。
人を呼び寄せて、扇動するから。
花火には、人を惑わす特別な何かがあるから。
今日も、花火が打ち上がる。
僕の街の、年に一度の花火。
どうして花火はこんなにも綺麗なんだろう。
花火が恨めしい。
あの日もそうだった。
僕はその時高校生で、何も考えずに夏休みを迎えようとしていた。
たぶん、今日からなんのゲームしようとか、そんな下らないこと考えてたと思う。
「あんたさ、花火とかいくタイプじゃないでしょ?」
藪から棒に煽られた。
君とは違うんだ。
「まぁね」
「明日からもゲーム三昧なわけ?」
「明日からも、ってなんだよ。僕はただ...」
「わかったわかった。変な理屈はやめてよ。理系くん」
「僕は文系だ。理系はきみ。」
「ま、看護師になりたいからね」
「きみ、論理性ってものがないよね」
「あ〜理屈っぽいのはだいっきらい。あんたみたいなのがね。」
「よく理系にいられるね....」
「あんたさ、そんなに理屈っぽいけど、花火が何でできてるか知ってんの?」
「知らないよ...」
「あたしも知らない。」
「なんじゃそれ...」
きみは、悪戯っぽくはにかんで言ったね。
「花火は、魅力だけでできてるんだよん」
君の笑顔は、たぶん花火くらい魅力的だったと思う。
次の日からゲーム三昧になった。
朝起きてゲームにログインして、テキトーなメンツでクエストやりにいって....。
気がついたら夜になってて、お風呂に入ってまたクエスト。
外に出て何か遊ぶより、ゲームをしてた方がより楽しい。
いつも思うんだけど、それでいいんじゃない?って思っちゃう。
ゲームでだって、色んな経験ができる。
死はもちろん、仲間を失う悲しみ、裏切り、協力、協調性、冒険...etc。
重要なのは、ゲーム以外で得られる殆どの経験を、ゲームで代替可能ということ。
僕はゲームのおかげでだいぶ三国志の専門家になった。
いまやってるオンラインゲームは、戦略性とか求められたりするから、その辺の知識がだいぶつくと思う。
「ゲームやってんの?」
まただ。またキミだ。
パソコンにLINEをインストールしてるから、LINEの画面がゲーム内に出てしまう。
あとで通知が表示されないよう設定しよう。
まったく、めったに来ない筈だからいれてあるのに、これじゃあ邪魔だ。
「やってるよ。やってたら悪いの?」
「別に悪くないけど。何怒ってんの?」
「怒ってないよ」
「そんなことより、写真みてよ」
“写真が送信されました”
あ〜!やかましい。
こっちはいま、超大事なクエスト中なのに!
“写真が送信されました”
“写真が送信されました”
“写真が送信されました”
「今お台場にいるんだよん」
“写真が送信されました”
“写真が送信されました”
あ〜!誰かどうにかして!
“写真が送信されました”
「たのしそうだね よかったね」
テキトーに返事しとけば収まるかな。
いい加減構うのをやめて欲しい。
「は?本気で言ってんの?」
え?どういうこと?
「わけわかんない」
え?え?ええ?
しかし僕は手を休めることが出来ず、結局落ち着いてケータイを開ける頃には、送られてきた写真たちは送信取り消しがされていて、写真を確認することはできなかった。
なんだよ、送ってくんな。
その日も、起きて同じオンラインゲームをやっていた。
ゲーム内で夏イベントが発生し、アバターやオブジェクトが夏色になっていた。
僕はそういうの嫌いだから、特にアバターは変えなかった。
「ゲームしてんの?」
あの日から連絡が途絶えていたきみだ。
「たのしい?」
レベル上げの作業してただけだったし、返信することにした。
「たのしいよ この前はごめんね」
謝罪の絵文字とかもつけといた。
うん、イッキに申し訳なさそうだ。
「謝る気あんの?」
また怒り始めた。
ごめんて。
「そうじゃない」
「そうじゃない、ってどういうこと?」
「なんでもないよ」
おっと、緊急クエストだ。
発生中のエリアに飛んで、僕もこの流れに参加する。
「花火、いこうよん」
君が誘ってくる。
緊急クエストの報酬はおおきい。
手が離せない。
ケータイも開けない。
もちろんパソコン版のLINEも開けない。
「ねえってば。誘ってるんだけど」
あ、HPやばい。
回復アイテムもってたっけ。
「あたし他の人といっちゃうよん」
やば、状態異常...。
でもいいスキルあるんだ。
「もーなんでシカトすんの」
あーー。
やられた。
「もう知らない。あたし他の人と行くから」
僕はその頃、装備や獲得スキルの割り振りを考えていた。
そして、花火の日がやってきた。
花火は相変わらず綺麗で、その綺麗さは家にいる僕の耳にも届いた。
どうして、花火は音でさえ美しいんだろう。
ヘッドホンをしながらでも、その美しさは耳に聞こえた。
夏休みが終わり、学校がまた始まると、きみはある人と手を繋いでいた。
きっと、花火を見に行ったんだろうな。
花火はだいきらいだ。
君を思い出してしまうから。