その4 あっ、神様なんだぁ…それは無理!
日本には大勢の神様がいる。
森羅万象、自然から様々な神が生まれた。
幾数年もの月日が流れたモノには神が宿る、いわゆる八百万の神ってやつだ。
んで、何で俺がこんな説明をしているのかって言うと…まぁ、あれだ、目の前の自称神様が原因だ。
「だ、だからですね。わたしは神様なんですよ。この立派な柳の木、それが私なんです!ふふふっ」
俯きながら肩を震わせて笑うって不気味な笑い方だな…おい。その笑い方だと幽霊と言われても仕方ないと思うが…うん、黙ってよう。
とりあえず、そっと生暖かい目で見ているとチラチラっとこっちの様子を窺う神様…なに?どうしてほしいんだよ?
「ちっ…突っ込みなさいよ」
小さな声で悪態つきながらキッと睨まれる。
目が怖いよ?柳の神様(自称)。
「っで、その柳の神様は何をしているんですか?」
俺はすごくまともな質問をしたと思うよ?けど、柳の神様(自称)は-何をいってるんだこいつ?-みたいな目で俺を見やがるんだ。
「柳の木の下に柳の神様がいるのは当然の事じゃないですか?何をいってるんですか?バカですか?」
口に出して言いやがりやがりましたよ、この子。
いや、まぁ、そうなんだけどさ…わざわざ口に出さなくても良いんじゃないか?なんか、へこむだろ?
「いや、そんなことを聞きたいわけじゃなくてな…。どうして、俺なんかをじぃっと見てたかってこと」
そうそう、へこんでても解決しないからな。まずは俺が巻き込まれた理由を知らないとな。
「えっ?」
なに、驚いた顔してるのよ?いやいやいや、驚いてるのはこっちなんですけど?
まさかと思うけどさぁ…。
「目が合ったから、とりあえず俺を見てたわけじゃないよね?違うよね?何かあるんだよね?ちょ、ちょマジで目線を逸らさないで!えっ、まじ?いや、頼むから…黙らないでくれ」
目線を逸らしてあらぬ方向を見つめる柳の神様。
「…ひゅー、ひゅー」
ちょっと、神様?誤魔化そうとしてません?
口笛も、まともに吹けてませんよ?
しかも何か変な汗をダラダラ垂れ流してますけど大丈夫ですか?ってか俺、何か変なことを言ったか?
わけがわからない。
目の前の柳の神様の挙動不審な態度にどう対応すればよいか頭を悩ませていた。
そんな時-----。
ぐぅ~。
「うん?」
なにか聞こえたよな。
ぐぅ~~~~~。
あぁ、そういうこと。
俺を見ていた理由が何となくわかった気がした。
真っ赤な顔して俯く柳の神様を横目に苦笑しながら俺はさっきまで座っていたベンチに戻って弁当を手に取ると--あぁ、やっぱりだ。
こっちをチラ見してるな。
しかも俺の手元を何度も…だ。
「あぁ~、食いかけだけど食うか?」
俺のその言葉に驚いた表情を浮かべてバッと振り返る柳の神様、えっと…瞳が爛々と輝いてますよね。
食べたいんだな、間違いなく。
ただね…素朴な疑問が一つあるんだか?
「食べることができるのか?」
だいたい幽霊…いえ、神様は物に触れることが出来るのか?貴女の身体、透けてますよね?
俺の知る限り触れることができないってのが定番なんですが…いや、待って、なんなの?その期待に満ちた眼差しは?やめて、嫌な予感しかしない。
「私の姿が見えるのですよね?」
ゾクッ、嫌な予感に背筋に寒気が走る。
その反面、物凄く期待に満ちた瞳を大きく見開いて真っ直ぐ俺に向けてくる柳の神様。
口角がこれでもかってぐらい上がってるな…。
ジリジリと寄ってくる神様に後ずさりする俺。
「ということは霊媒体質ですよね?」
うん、なんだかこの後の展開が読めてきたぞ…。
とりあえず嫌な予感がして後ずさる俺とジュルリッと唾を飲み込みながらジリジリと近付いてくる神様。
「身体を貸してくださいっ!」
大きな声ではっきりと予想通りのお願いをぶちかまし、瞬時にキレイな土下座までしやがりましたよ…。
神様ですよね?貴女は…。
しかも見た目が好みの女性が目の前で土下座している姿に物凄い罪悪感を感じる……。
だけどね----。
「嫌です!」
それだけは断固お断りだ。
ろくな目に遭わないって囁くんだよ…俺の社畜魂が。
真夜中の公園で額を地面に擦り付ける神様とその姿を見ないよう視線を逸らして仁王立ちしている俺。
端から見たら逮捕事案間違いなし。
さぁ、どうする俺。
屈するか、突っぱねるか、その判断次第で俺の今後が決まってしまう気がする。
そして時刻は3時半、俺は無事に睡眠がとれるのか?いや、それよりも俺は貞操は守れるか?
ちょっと自信がありません…。