表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/6

その1 社畜は面倒ごとに巻き込まれる


 俺は今とんでもない状況に遭遇している。


 どんな状況かって?


 う~ん、そうだねぇ…よく怪談話で聞いたりする丑三つ時に柳の木の下で白い服を着た女の人が俯いていたら貴方はどう思う?


 そんなの決まってるって?


 あぁ、そうそう幽霊だって言いたいんだろ?


 うん、俺もそう思うよ。


 だけどね……この話はそんな話なんかじゃないんだ。


 聞きたいかい?


 けど、今のこの状況を説明するにはちょっと話が長くなるけど時間は大丈夫?


 えっ?いいの?あっ、そう…暇なんだね。


 それじゃあ、今の状況を整理するために何でこんなことに巻き込まれたのか順を追って説明するよ。


 俺の名前は如月隆太(きさらぎりゅうた)37才、独身の…社畜。


 毎朝、満員電車に揺られて出社して終電間近まで働かされる。そんな毎日を送っていたら彼女に愛想つかされるのも仕方ない。だから40前にしていまだ独身。甲斐性なし?うっさいわぁ!


 ゴホンッ…失礼、取り乱しました。


 だってさ、同年代の奴は早々に結婚して下手したら中学生の子供がいる奴だっているんだよ…羨ましいじゃないか。俺なんて、俺なんてなぁ~!


 えっ?俺のことはどうでも良いから話を進めろって?いいじゃないか、ちょっとぐらい愚痴ったって…あぁ~、はいはい脱線せずに話を進めるよ。


 そんな哀愁漂う社畜の俺なんだけど、今日は何と!定時に帰れそうだったんだよ!何時ぶりだと思う?もう、思い出せないぐらい久々の定時上がりに思わずニヤニヤしながら頭の中で予定を組んでいたんだけどさぁ…やっぱ、あれかね。


 社畜の神様っているのかね? 


 上司がね、両手一杯に書類を抱えて近づいてくるわけですよ。チラリと時計を見ると終業五分前、まだ業務時間ですね。けど、貴方の持ってる書類の束は五分で終わるわけないですよね……はいっ、残業確定です。


 嫌なら断れば良いじゃないかって?


 社畜人生うん十年の俺を舐めるなよぉ~。


 無理です…もう、身体に染み付いちゃってます。


「明日まで…ですか?」


 にこやかな笑顔で頷く上司、頬をピクピクさせながら無理矢理笑顔を作る俺。


 そして、無情にも終業の音楽が流れます。


 そそくさと立ち去っていく上司に同僚たち、時間が過ぎるごとにまた一人と立ち去っていく中で書類が片付け終わったのは日付を跨いだ午前二時いわゆる丑三つ時ってやつだ。


 疲れきった身体を宥めながら首に掲げた社員証を警備員に見せて会社を出た俺は直ぐにネクタイを緩めて小さなため息を漏らす。いつものルーティンだ。


 ネクタイ緩めないと仕事が終わったって気がしないんだよね。もう、ここまでくると異常だって思うよ。


 まぁ、ただね…。


 振り返って会社を見上げる。うん、まだ灯りが付いてる部署があるねぇ……がんばれ同士(社畜)諸君、俺は帰る!


 とりあえず駅に向かうけど始発まであと一時間、どうすっかねぇ…帰っても直ぐに出社だし、どっかで暇でも潰すかね。


 寝るだけならいつもの漫喫でいいか。


 定宿と化した漫喫のポイントがすごいことになってる。まぁ、あそこはシャワー完備で安いからね。


 しかも、荷物も預けられる。


 もう帰る場所、ここで良いんじゃない?


 まぁ、あとで寄るとして先ずは…「ぐぅ--」飯だな。飯食って仮眠して仕事しましょうかね…ビバ、社畜。


 ただ、この時間だとどこも空いてないしなぁ。


 また、いつものコンビニ弁当かぁ。


 たまには普通の飯が食いたいわぁ。まぁ、贅沢を言っても叶わないし公園にでも行って食べるかな。


 微かに暖かいコンビニ弁当を引っ提げて誰もいない公園のベンチにドカッと座り込む。


 こんな真夜中だから人の気配なんて全くない公園を軽く見渡して言い知れぬ虚しさを覚えながら割り箸を取り出して--。


「いただきます」


 誰に言うでもなく両手を合わせて頭を下げる。


 なんだろうねぇ…ネクタイと一緒でこの歳になっても飯を食う前にこれしなきゃ気持ち悪いんだよ。


 いつもは幕の内だけど今日はちょっと贅沢してデミグラスハンバーグ弁当、う~ん、ソースの香りが空きっ腹に響くねぇ。


 では、先ずはハンバーグから--らめしや--うん?なんか声が聞こえた気がする?


 一口大に切ったハンバーグを箸で挟んだまま俺は周囲を見渡した。けど、誰もいない…気のせいかな?


 鼻孔を擽るデミグラスソースの誘惑に俺は気のせいと決めてハンバーグを口の中に放り込む。


「う~ん、やっぱ高いだけはあるねぇ」


 口の中に広がるデミグラスソースの芳醇な香りと溢れる肉汁、疲れた身体に染み渡っていくのが分かる。


 いつもより高かったけど正解だな。


 うまい飯を食べながら満足していると---うらめし---俺の耳にまた誰かの声が聞こえた。


「空耳…じゃないよな、はぁ」


 思わず溜め息が漏れる。


 久しぶりのアレ(・・)だな…。


 あぁっと、言い忘れてたけど俺には一つだけ特技って言うか才能があるんだよねぇ…正直に言ってはた迷惑なんだけど、うん、視えるんだ。えっ、なにが視えるのかって?お察しの通りだよ。


 いわゆる幽霊ってヤツだ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ