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九話 決闘

「始め!」


その言葉と共にジュジュの放った矢がジイルに殺到する。


アルハイトはこの為に武器・道具の使用自由をルールに定めたのである。もちろんこの瞬間の為だけではないが…。


ジイルは当初の予定していたマルスの火炎放射による牽制はやめ、後ろに下がると共に、マルスに矢の迎撃をさせた。


マルスの巨体はジイルを守るに十分な大きさであったが、四方八方から降り注ぐ矢はマルスの防御をすり抜けてジイルに届いた。しかしその矢はジイルの盾と剣により弾かれる。


ジイルの防御が間に合わず、矢が二つ程直撃したが、殺害禁止というルールの為に矢は刃引きされていたため、戦闘の続行は可能である。


「くっ!貴様ぁ!卑怯だぞ!このような戦い方!」


思わぬ劣勢に、自身の策を棚にあげ、思わずそう叫ぶも。


「卑怯は敗者の言い訳だと言ったはずですし、契約書にもそう明記されています。今の言を持って敗北宣言としてもいいのですが、寛容な私は許しましょう。」


と鼻で笑われる。

そんな一言で黙らされてしまう。ジイルは額に青筋を浮かべながら打開策を考える。


未だ降り注ぐ矢からマルスに守ってもらっている為よく見えないが、アルハイトは巨大な金属盾に身を隠しながらゆっくりと後退しているようだ。壁際まで後退し、後ろから攻撃されないようにするためだろう。そうなれば決定打を入れるのは不可能と言ってよい。それほどにアルハイトの盾は大きく厚い。アルハイトが壁まで後退する前に背後から一撃を入れる必要がある。


アルハイトの触手は次から次へと荷車の中から矢を取り出し、途切れることなく射かけてくる。矢が尽きる様子は未だなく、矢を打ち尽くす間に壁際に到着してしまうだろう。


ならばと魔法の詠唱を始める。

「『我は冥府を守る者。地獄の番犬。順わぬ…』ゲホゲホッ!なんだ!くそ!」


詠唱途中に何かが気管に入り込み咳き込みはじめたジイル。


アルハイトの触手によって複数の妙な玉が投げ込まれたのだ。その玉は着弾するや粒子が煙となってジイルの周囲に散り、ジイルは煙に包まれた。その粒子が詠唱中のジイルの気管に入ったのだ。


「あ、それ毒だから。死なないでね。」

「何!?」


告げられた言葉に絶句する。アルハイトの顔が煙で見えない為その言葉の真偽がわからない。咳き込んだ段階で口と鼻を携帯しているハンカチで覆っていたが、咳き込んだという事はすでに毒を吸い込んでいるという事で…。


「嘘だバカ。」


アルハイトの言葉と共に柄の長い槍を持った触手がこれまた複数突っ込んできた。数にして七本だ。


煙による視界不良と咳、そして先ほどのハッタリにまんまと隙を作ってしまったジイル。

煙による視界不良の中、矢を迎撃するマルス。その脇から槍持つ触手が迫りくる。


卑劣なそのアルハイトの手口に顔を真っ赤にしつつもどうにか卑怯と叫ぶことだけは我慢する。そして比較的短い詠唱で発動できる魔法をもって迎撃しようと試みた。


何せあの触手の伸縮具合とその数は脅威だ。下手すると10メートル以上伸びているだろう。使い魔の魔法だとジイルは推測する。


使い魔は召喚主とは独立して魔法が行使できる。例え召喚主たるアルハイトが無能でも使い魔は魔法を使うことが出来るだろうと。


そんなジイルの推測は実のところ正解で、アルハイトもミネルバも承知している事実であった。


その魔法は自己細胞の増殖だ。それによりジュジュは伸縮自在の触手を産みだしている。

傍目には地味なこの魔法も使いかた次第で脅威足り得る。


ジイルが現在そう感じているように…。


脅威に対する焦りのままに槍持つ触手に魔法を放つ。


『悔恨に身を焼け。黒火。』


薄くなってきた煙の中でジイルの前方空中から8つの黒い炎が現出した。

しかし、それを放出しようとしたところでまたもやジイルを衝撃が襲う。


ボン!


ジイルの周囲が爆発した。


急な轟音・衝撃・閃光にジイルは数瞬パニックに陥る。黒火も消えてしまっていた。


爆発の正体は粉塵爆発だ。空中に舞い上がった煙にジイルの魔法の火が着火して爆発した。粉塵爆発が起こるには煙の密度が足りないように思えたがジイルの魔法の高火力が災いしたのだろう。

ジイルには知る由もないが。


「ゲホッゲホッ!これもあいつの仕業なのか!?」


装備がいいのか、他の要素があったのか。爆発の中心にいたにも関わらず、ジイルは大きなダメージを受けていないようだった。


周囲を見回せば、ジュジュの槍持つ触手が爆発で飛び散って、そここに焼け落ちている。


粉塵爆発の暴風に煽られて、矢の雨が一時的に止んでいる。

アルハイトに目を向ければ、アルハイトの盾はもうすぐ壁際に到達してしまいそうである。


勝負を賭けるなら今しかない。

一瞬の判断でジイルは黒い巨躯に跨り指示を出す。


「行け!奴を狩れ!」


ヘルハウンドのマルスはその黒く大きな体躯を存分に使い、脅威的な速度でアルハイトに接近する。


「ちっ!ジュジュ!」


マルスの接近に触手たちは弓を引くのを止め、荷車から剣もしくは槍を取り出し迎撃を始めた。


マルスの駆ける速度は速いが、しかし、その巨躯だ。触手は容易に攻撃を当てることが出来る。だが、その巨体と速度が産みだすパワーを止めることが出来ない。どんどんアルハイトの潜むその巨大な盾に接近する。


もはや、ジイルにアルハイトを侮る気持ちも悪と詰る嫌悪も感じている場合ではなかった。

卑怯な手段に苦しめられもしたが、それがアルハイトの強みともいえる。


今はただただ勝利の為に集中していた。


アルハイトのいる場所まであと少し。


「ジュジュっ!やれ!」


アルハイトの指示に触手が反応する。


「おい…まさか…。」


ジイルは触手の動きを見て目を見開く。


ジュジュは荷車そのものを掴みあげたのだ。中には武器がてんこ盛りだ。


「やばい!マルス避けろ!」


ジイルがそう叫ぶと同時、大きな荷車がジイル目掛けて飛んできた。積んでいた武器は空中で散開しジイル達の逃げ場をなくしていた。


不意にマルスが体勢を崩した。

荷車を回避することは出来たが、積んでいた武器に捕まってしまった。マルスは前足を負傷し、顔面から地面に倒れ込む。


ジイルがこのままマルスにしがみつけばすぐに触手の餌食となるだろう。


ゆえにジイルはマルスの背を足場にして跳んだ。アルハイトのいる方へ。


もともとアルハイトの近くまで来ており、スピードも乗っていた。

接近戦に持ち込めば、体躯の差でジイルに分があるだろう。


大盾を二枚構、え姿も見えぬほどの徹底した守勢にあるアルハイト。しかしそれは逆にあの大盾の守りを突破すればアルハイトは無防備であるということでもある。


この速度ならアルハイトの潜むあの大盾の守りも貫ける。


片手剣を両手で構えながら前傾姿勢で突っ込んだ。

左腕に装着された木の丸盾からアルハイトの大盾にぶつかり二つの大盾の隙間を力づくでこじ空ける。アルハイトが抵抗しているのか、押し戻される。しかしわずかに開いたその隙間に剣を差し入れ、次いで体も肩からねじ込む。


速度と体重の乗ったジイル渾身のタックルはジイル自身にも多大な負担を強いる。

肩の骨が衝撃に軋む。感じるのは激痛だ。

だがもう少しで二枚の大楯を突破できる。


そして、その抵抗は突然なくなった。突破したのだ。あの守りを。

すぐにアルハイトを仕留めようと顔を上げれば、盾を持っていたはずのアルハイトが弓を引いて待ち構えていた。口元が三日月型に歪んでいる。


「き、貴様。盾を構えていたはずでは…!?」


驚愕し、呆けるジイル。

大盾に目を向ければ、その取手は禍々しい色合いの触手が握りこんでいた。


嵌められた。


ジイルはそう直感した。


アルハイトが構えていたと思っていた大盾は触手が持っていた。身を隠すほどの大盾二枚は全てこの時の為。ジイルに盾の守りさえ突破すれば勝てると思わせ、その裏でジイルの息の根を止める為にアルハイトは弓を引いていた。


「まさか、ここまで来るとは思いませんでしたよ。でも残念。僕の勝ちです。」


アルハイトは言葉とともに番えた矢から手を放し、そしてジイルの意識は暗転した。


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