五話 災難の後
ミネルバの魔法によって雇っていた傭兵の裏切りを知ったアルハイト達であったが、すでに傭兵達は雲隠れした後であり、見つけ出しても物理的に捕らえられるだけの戦闘力がアルハイト達にあるかもわからないので捜索することはなかった。
すぐに荒事を専門とする者達にアンデルセン家とアルハイト下着店と取引のある商店の伝手を使って渡りをつけ、傭兵達の居場所を調べさせている。
アルハイト下着店王都支部の従業員にはばあやを含め店に住み込みで働いていた者も多く、彼らの宿探しにも奔走した。
更に同時進行で店の再建の為に建設業者との連絡も欠かせない。
アルハイトにとっても、アンナにとっても全く休むことのできない休日となった。
ミネルバは二人と違い楽しそうにしていた。そもそも外出するのすら何年かぶりとのこと、外に出るだけで気分転換になる。
「さて、みなさん今日はお疲れさまでした。ばあやはもちろんアンナとミネルバ先生につきましては大切な休日を潰してしまい本当に申し訳ございませんでした。」
アルハイトは頭を下げる。
場所はばあやが店が再建するまで住まうことになった宿の一室だ。
時間は深夜。もう日付が変わってしまっていた。
しかし、四人は今回の店放火事件について考えをまとめ今後の指針を立てる為にばあやの部屋で机を囲んでいた。
アンナは眠気に目を擦っているが必死で話を聞こうとしている。
早寝早起きのアンナにはつらい時間帯だ。
「まず今回の件の経緯を確認・整理させていただきます。ミネルバ先生、説明をお願いしてもよろしいですか?」
事の経緯は魔法で過去を見たミネルバの方が詳しく話すことが出来る。すでに一度全員に説明してくれていたが、ここでもう一度確認しておきたいと、アルハイトはミネルバに頼んだ。
「ふむ。よいだろう。」
ミネルバは快く、寧ろ得意気に話始めた。
「まず先日深夜未明に君達が雇っていた傭兵団『ヤマアラシ』の裏切りによって店が放火され全焼した。傭兵二名の死亡が確認されていたが、私の魔法によると死亡した二名は新入り。つまり今回放火の疑いを傭兵団『ヤマアラシ』が被らないためのアリバイ工作用の捨て駒だ。彼らは新入り二人を殺害し放火、その後何食わぬ顔で従業員達と合流した。しかし、朝我々が現場に偶然居合わせたことが彼らに災いし、アリバイ工作が無駄になった。それを悟った傭兵団は身を隠した。以上だ。これでよいか?」
アルハイトが他の二人を見回す、誰も口を開かないのを確認してアルハイトは口を開く。
「ミネルバ先生ありがとうございます。続いて、犯行の動機と犯人について現在の推測をまとめます。」
アルハイトの言葉に皆真剣に耳を傾けている。
「動機については三つの推測が出来ます商売敵か貴族かそれ以外です。」
「ざっくりしてるわね。」
アンナの突っ込みにアルハイトも苦笑を浮かべる。
「仕方ないだろ。実際そうなんだから。そもそもこの治安の良い王都で犯罪行為を行うんだ。大きな権力が背景になければ実行は出来ても後がない。それに商売敵も多いからね。可能性は高いよ。王都の服飾店を初め、グリム領から下着を運んでいた行商人にとってもうちの店の王都進出は面白くないはずだからね。」
アンナが納得の色を示しているのを確認しながらアルハイトは口を動かす。
「あと、貴族に関しては王都での示威行為だ。アンデルセン家が中央に進出してきた。利権を奪われるかもしれないと考えたバカな貴族の仕業みたいな感じかな。」
ミネルバが膝を組み替えるのが視界に映る。視線がミネルバの足に吸い寄せられるが、強靭な精神力で引きはがし、アルハイトは全員の顔を見回す。
「とにもかくにも犯人、というか黒幕の可能性がある者が多すぎる。これから調べないといけないね。」
「なるほど。それで?すでに捜索はしているのだろう?その後はどうする?報復するといっていたが落としどころは考えているのか?」
ミネルバの言葉にアルハイトは答える。
「黒幕が判明しないとわかりませんね。出来れば俺の手で主犯を討ち取りたいところですが、まあ無理でしょうね。アルハイト下着店に手を出せばただでは済まないということを盛大に知らしめたいので今回の件と関わりがあって潰せる相手なら全てしかも派手に潰す予定ではいますが…。具体策は特にありません。捜索待ちです。」
「わかった。それまでは学園生活を普通に続けるというわけだな。」
「ええ。言いづらいですが、雑務全般はばあやにまかせっきりになります。まあ今更ではありますが。」
「お任せください。」
ばあやがアルハイトに頭を下げて応じる。
「さしあたっては店の再建と傭兵団の捜索が最優先ですね。もちろん従業員の身の安全を確保したうえでですが。俺とアンナは学校にいればある程度安全を保障されるでしょう。そうですよね、先生。」
「そうだな。学園には多く警備員がいるからな。しかし手練れの暗殺者でも雇われたらわからんぞ。」
「それはどこにいてもそうでしょう。でも一応学園に事情を話して警備の強化をお願いしますか。先生は大丈夫なんですよね?」
「大丈夫だ。」
「やはり先生はお強いんですか!?」
ミネルバの自信に溢れた言葉にアルハイトは身を乗り出し聞き返す。期待の現れだ。名のある有名な魔法使いだ。薄々強いのではないかと期待していた。戦闘力があれば最悪ミネルバに傭兵団の壊滅を依頼することも出来る。果たしてその答えは…。
「いや、弱い!」
ミネルバの言葉にアルハイトはずっこける。それを無視してミネルバはしゃべり続ける。
「私の魔法は研究特化の自慢の魔法だ!戦闘などできん!。」
「じゃあなんで自信満々で大丈夫なんて言ったんですか!?」
豊かな胸を張って答えるミネルバにアルハイトは大きな声で不満を叫ぶ。
「私ほどの研究者にもなると命を狙われることもあるからな!しかし私の頭脳は国の宝だ。というわけで国から自衛用の宝具をいくつか賜っている。だから大丈夫だ。それに私はお前が外に出ない限りは外出しないしな。ん?」
気付けばアンナがアルハイトの肩にもたれて寝入ってしまっていた。十歳児である彼女には深夜過ぎまでの会議は辛すぎたようだ。
アルハイトも身体年齢は十歳児であるが精神は40代であるうえ、事件の当事者として緊張感がある。まだまだ起きていられる。
「アンナが限界みたいだな。今日は一泊させてもらって明日学園に戻るか。」
ミネルバの提案にアルハイトは頷いた。しかし疑問があったことを思い出し、聞くことにした。
「ミネルバ先生の過去を見る魔法、傭兵に使用することは出来ますか?」
「あの魔法は生物には使えない。時に干渉するなどと言われているがあれは嘘だ。空間の記憶を読み取っているだけに過ぎない。そもそも生物にこの魔法が使用できるならとっくにお前やジュジュに使用している。」
「それもそうですね。」
話も終わり、ばあやの部屋を出る三人。
別れ際、ミネルバがアルハイトに声をかけた。
「アルハイト。君は始まりが始まりだっただけにこの一か月、学園でもその外でも肩肘張って生きているように見える。」
その声はいつになく真剣で穏やかだ。
「今回の事件もゆゆしき事態だ。貴族としての矜持や店のオーナーとしての責任もあろう。しかし君はいまだ子供だ。周りの大人に頼りたまえ。私も大人であるし一応教師でもある。」
あまり生徒の面倒は見てこなかったがな。苦笑と共に小さな声で付け足すミネルバ。
アルハイトは半分寝ているアンナに肩を貸しながら立ち止まり、ミネルバの話を聞いている。
「助けが必要であれば頼り給え。力になろう。」
クロノスが宿の窓から侵入し、ミネルバの肩に着地する。
窓からの風に髪をなびかせ、月明かりの後光を受けたミネルバはこの世ならざる美しさを纏っていた。その美の化身は神々しく、しかしどこか恐ろしくも感じる。
「例え隠し事があろうとね…。」
ミネルバの優しさに満ちた、しかしその核心をつく言の葉に、アルハイトは自身の気付いた事実がミネルバに悟られている事を知った。
※
「やっちまった!」
火事騒動から数日後、アルハイトは寮の自室で頭を抱えて蹲る。
「よもやミネルバ先生とアンナのスリーサイズの測定をし忘れるとは!」
膝をつきアルハイトは慟哭する。
「漢アルハイト!一生の不覚!」
数日前の緊迫感はどこへやら。アルハイトは数日前に逃したラッキースケベを嘆いていた。
このところ毎日ばあやから店の再建の進捗と捜索具合の報告を受けるが一向に進展が見られない。常に緊張の糸を張り続けていても、いざという時疲れてしまい、力を出せなければ意味がない。そんな言い訳も手伝い、アルハイトは平常通り、煩悩のままに生きていた。
そもそも数日間、事件も起きずに平和な日々を過ごせているのだ。アルハイトの場合、嫌味嫉み妬みと共に物理的イジメを受けているので本来は平和とは言えないのだが、しかし概ねいつも通りの日常を手にしているのだ。気が緩むのも仕方あるまい。
しかし、アンナが未だにピリピリとしている様子から、転生した40代精神故に肝が据わっているともいえるのかもしれない。
「仕方ない。しかし次こそは!店を再建した暁には彼奴らのスリーサイズを我が手に!」
決意を新たに自身の部屋を出るアルハイト。アンナと合流し、ミネルバの研究室へと向かう。
近頃はミネルバの研究室に近づくとやたらと視線を感じるようになった。
ここ数日流行っている、ある噂の影響だろう。
しかし、今まで声をかけられることはなかったので、油断していた。
「おい。」
声変わり前にしては低い声がした。
アルハイトとアンナの知らない声だ。故に関係ないと思い、無視して歩いていたのだが…。
「私を無視するな!!」
その声は怒気を帯び、心なし前より声が近くから聞こえる。
振り返ると、どこかで見たことのあるような少年が二人をにらみつけていた。
几帳面に整髪料で赤髪を七三に分け、黒い学校指定のローブを着ている。肩には金色の刺繍。貴族だ。
その刺繍をアルハイトは一瞥してから口を開く。
「上級生の方ですよね?我々に御用ですか?」
聞き返しながら、声をかけてきた上級生の周囲に目を向ける。使い魔がいない。セニアのワイバーンと同じように大型の使い魔専用厩舎にいるのだろうか。
「ちっ。」
失礼なことにアルハイトの質問に舌打ちをしてから口を開いた。
「私は4学年次席、ジイル・プロイセンだ。お前たちがアルハイト・アンデルセンとアンナ・ハンニバルか?」
細身だが身長の高いジイルは二人を見下ろし、高圧的に尋ねてきた。
「そうですが…。」
「あっ!この人、前ミネルバ先生の研究室から出てきた…。」
アンナがアルハイトだけに聞こえる声で呟いた。
アルハイトもアンナの言葉で思い出すとともに悟る。ああ、この人もミネルバ絡みか、と。
アルハイトの日常はあの火事の休日以来実は変わったことが一つあった。それはミネルバを紹介してほしいという者を筆頭にそれに関わる話しを受けることが多くなったのだ。休日、ミネルバと共に歩いていたことを学園の生徒に見咎められ、学園内に広がってしまった。
アルハイトとアンナはここ数日で知った事だったがミネルバは国内の有名人で学園生徒の憧れだ。
多くの生徒が彼女の指導を望んだが、ミネルバは赴任して三年、誰の指導も行ったことがない。教師としてどうかとも思うが彼女は研究員として学園に請われて雇われている。生徒に指導せずともクビになどならない。
それでも生徒達はもしかしたらと一縷の望みを頼りに、ミネルバの研究室を訪れる。
自分を指導してくれと。彼らは時の魔女の初めての弟子という栄誉を賜りたいのだ。その栄誉は貴族平民問わず一生の誉れとなるだろう。
しかし、ミネルバは首を縦には振らない。自身の研究の邪魔になるからだ。
やがて、時の魔女の一番弟子という立場は、学園内外問わず多くの注目を集めた。一体誰がその座を戴くのかと…。
そんななか、アルハイトがミネルバの研究室を頻繁に訪れているという噂が広がった。
また身の程知らずの見栄っ張りが愚かにもミネルバの指導をしつこく請おうとしている。
じきに諦めるだろうと嘲笑とともに囁かれた。
しかし休日にミネルバ、アルハイト、アンナの姿が目撃されたことで噂は180度方向を変えた。アルハイトはミネルバと親しいと。
その噂は妬み嫉みを多分に孕み、学園内外に瞬く間に広がったのだった。
図らずもアルハイトとアンナは蔑まれる立場から一転、羨望の的となったのである。
寧ろイジメはエスカレートしているのでアルハイトとアンナはその立場の変化を実感することはないのだが…。
さらにに運がいいのか、悪いのか、弟子であるとの誤解はされていない。教授の弟子になるには正式な書類の申請を行わなければならず、学園に問い合わせれば時の魔女に弟子が出来たかどうかはすぐにわかるからだ。
「お前が貴族の汚点か。よく恥ずかしげもなく堂々と往来を歩けるものだ。」
「プロイセン宮廷子爵のご子息ですね。先輩とはいえ伯爵家嫡男に対する口の利き方ではない。この学園にもマナーの授業があったはずですが…。」
ジイルの嫌味に嫌味を返すアルハイト。
(また、強烈な奴に目を付けられた。)
アルハイトに対する陰口は多いが、直接嫌味を言ってくる人間は限られる。筆頭はセニアだが、そう言った連中の相手は疲れるのだ。勘弁してほしいというのがアルハイトの正直な心情である。
プロイセン宮廷子爵は領地を持たない法衣貴族だ。子爵という位は伯爵の下、男爵の上の地位に当たる。
本来、アルハイトの言う通り、嫌味を言ってよいような関係ではない。
しかし、若さというべきか、大人と子供の狭間の時期にいる複雑なジイルの心情が彼の現状への不満と合わさって、この蛮行ともいうべき言動を可能にしていた。
実際、第三、第四学年は身分の差に関わる問題が多い。内訳としては色恋と喧嘩に二分出来るのだが、問題を起こすのは得てして能力は高いが身分の低い生徒であることが多く、学園側は毎年頭を抱えている。
優秀な人材であっても所詮は子供。身分の違いと社会のルールが自身に不利だと頭で理解していても、感情を制御できずに愚かな行動に出てしまう生徒が後を絶たない。
ジイルもその一人なのだ。
「ふん。所詮すぐに勘当される人間だろう。問題ない。」
明らかに見下した言い様にアルハイトの苛立ちは募る。
(それはお前の希望的観測だろ!コイツ、セニアとは違うタイプのバカだ。なんで俺がこんな奴に見下されなきゃならんのじゃ!)
アンナの表情も険しい。そもそもセニアの一件以来アンナは貴族が苦手だ。しかもジイルは高圧的な物言いがどこかセニアと被る。
「それより、どんな手でレイヴンオウル導師に取り入ったかは知らんが、彼女と金輪際関わるな。あの方は貴様のように臆病な無能と付き合うべき人間ではない。」
そして、平民など論外だ。とアンナを鋭く睨みつけながら付け足す。
「しかし一体なぜ導師は私ではなくお前らなどと…。」
憎々し気に呟くジイル。
彼はミネルバに弟子入り志願を行っていた生徒の一人だ。しかもその中でも最もしつこい部類の人間であった。何せミネルバが学園に赴任した当初から三年間、頼み込みつづけているのだから。
もう一度舌打ちをし、一方的に言いたい事だけを言うとジイルは背を向け去っていった。
「何あれ?」
アンナが相変わらずの険しい表情でアルハイトに零す。
「さあね。でも間違いなく弟子入り志願者ではあるみたいだ。迷惑な部類のね。」
ミネルバの研究室に向かいながら話す。
「なんであんなにご機嫌斜めなのかは知らないけど、俺達の苛立ちを沈める方法はわかるよ。」
アルハイト達は研究室にたどり着き、ノックをしてドアノブに手を掛ける。
「どんな方法?」
アンナの疑問にアルハイトは研究室の扉を開きながら答えた。
「ミネルバ先生にチクろう。」
「うわあ…、陰湿。でも名案ね。」
その後二人はミネルバに多少脚色しながらジイルの悪評を伝えた。要は告げ口をしたのである。
(すっきりしたぜ。)
ちなみにアンナは滅多に陰口を言わないためか、もしくは溜まりに溜まった鬱憤ゆえか、今までになく饒舌であった。
「ジイル・プロイセンか。覚えておこう。まさかこの私から研究材料を奪おうなどという輩がいようとは。断じて許さん。」
「え?研究『材料』?」
アルハイトとアンナの告げ口を聞いたミネルバは、「ミネルバと関わるなと言われた」の部分で憤慨した。
しかし、三年間頼み続けて名前も憶えられていないことも哀れだが、名を覚えられたと思えば嫌われるというのも悲惨だ。
アルハイトとアンナにしてみれば「ざまーみろ」としか思わないが…。
それよりアルハイトは自身が材料扱いされたことに愕然とする。
彼はミネルバと良好な関係を築いてきたつもりだ。まさかミネルバの肢体を邪な目で見ていたことがバレたわけでもあるまい。
「え?先生、研究材料って言葉の綾ですよね?ね?」
「あ、当たり前だろ!私のこの澄んだ目を見ろ!これが生徒を材料扱いする者の目か!?」
ミネルバは自身の失言に気付いたのか、首を振り、慌ててアルハイトの材料扱いを否定した。
「目ぇ瞑ってるじゃないですか!?自信がないのですか!?潔白を証明する自信が!」
「………。真実や真理を追究し続けた私だからこそわかるんだが、知らないままでいた方が幸せなことも多い。不要な詮索は身を滅ぶすぞ。」
「これもうダメな奴だ。先生俺の事研究材料だと思ってる!」
落ち込むアルハイトにアンナが慰めの言葉を掛ける。
「いや、でも、ほら。先生はきっと人よりも研究材料の方に愛情注ぐ人だし、寧ろ良かったんじゃない?そ、それに私はアルハイトの事ちゃんと人間だと思っているわ。」
「ちゃんと人間だと思ってるって何?他のものに見えかねないの、俺?」
アンナの微妙なフォローに悲鳴なのか突っ込みなのかわからない声を出すアルハイト。
不気味な触手が背中にくっついている事情、アルハイトも少しナーバスになっている。
「え?いや違くて…。」
「ふふふ。騙されてはいけないぞアルハイト。アンナのような女は要注意だ。可愛い顔をしているが彼女は君のことをパトロンもしくは財布としてしか見ていないに違いない。だからあんな言葉が出てくるのだ。あー可哀想に。」
ミネルバが非難の矛先を自身から逸らそうと、アンナの言葉を遮り、そのままアンナを責めはじめた。
「ちょっ!先生何言ってるんですか!?フォローしてあげたのに!違うからねアルハイト!それこそ言葉の綾よ!」
「恩着せがましいぞアンナ!自分だけ良い人ぶりおって!ほら白状したまえ!君の目にはアルハイトは人間じゃなく、何に見えているのか白状したまえ!」
「やめて!その言い争い!俺が傷つくだけだから!」
醜い言い争いが繰り広げられた。
ミネルバはアルハイトにへそを曲げられて研究が出来なくなるのを恐れて。アンナは純粋にアルハイトに誤解されたくないが為の言い争いだ。
「ふむ。いささか大人げなかったな。」
口論の末に涙目のアルハイトとアンナ。それぞれ理由は違うが原因はミネルバにある。
そんな二人を見て自身の行いを反省しつつもミネルバはどこか満足気だ。
「今日はこの辺にしておこうか。」
ミネルバの言葉に安堵した二人はそのまま帰路に就いた。
二人が部屋を出たのを確認して、ミネルバはふと独り言ちた。
「しかし、いつになく楽しかった…。」
その呟きにクロノスが返事をするかのようにホーと鳴いた。
災難の後とは思えない楽しい一日だった。
そしてその夜、ミネルバの部屋が襲撃された。