三話 ミネルバとジュジュ
「ワイバーンを召喚するとは驚いた。リントワル家の次男坊か。出来が悪いと聞いていたが、噂はあてにならんな。」
空に向けてブレスを吐くワイバーンを見ながら呟く。
時はセニアのパフォーマンス後半、前評判の悪い生徒だったため、余計に会場は盛り上がっていた。
リントワル家に縁のある者は得意気に鼻を膨らませ、それ以外の者は嫉妬と共に警戒する。あの家が次に躍進するのではないかと。
しかし同時に次の新入生に対する同情も次第に増えてきた。
ワイバーン程の使い魔の登場後にパフォーマンスをしなければならないのだ。プレッシャーも相当だろう。
しかし観客の心配も杞憂に終わった。続く新入生もまた10年に一度と言われる使い魔を召喚したからだ。
セニアに続いて5人が最高クラスの使い魔を召喚した。
会場の期待が最高潮に達したところで本命であるシンシアとアルハイトの召喚の出番が来た。
「シンシアの召喚も親心としては気になるが、やはりあの異端児の召喚も楽しみだな。」
「そうですね。果たしてアンデルセン家の神童は本物なのか、多くの貴族もそこに注目していることでしょう。」
王の言葉に宰相は頷く。
そして召喚が始まった。
詠唱が終わり、辺りが光で満ちる。
今までの中で最も大きな光量で、同時に一番長く発光していた。
「…な、んだ…あれは…!」
王は驚愕に目を見開き、恐怖に震える。
王が目にしたのはシンシアの召喚した銀毛白面九尾の妖狐…ではなかった。
アルハイトの背中でウネウネと蠢く夥しい数の触手が王の目には映っていた。
その触手はアルハイトの背を中心に円形に配置されており、毒毒しい触手の中心には刃のような歯が内側に向けて生えていた。
一本一本が異なる動きをする触手は、王には翼に見え、それを背負うアルハイトは悪魔の降臨を思わせた。
邪悪の顕現を王はアルハイトに見たのである。
周囲では貴族や商人が「気持ち悪い」や「グロテスクだ」と叫んでいるが、王には軽い気持ちであの触手を悪し様に言うことは出来なかった。
「うわああああああ」
アルハイトの悲鳴がした。
王はアルハイトが取り乱すのを見て、不覚にも安堵のため息を吐いた。不快な汗が額を伝い滴り落ちる。
王がこれほどまでの畏怖を他人に感じたのは初めてのことである。
クスクスと押し殺した笑い声がそこかしこから聞こえてきた。情けなく狼狽し、気を失ったアルハイトの醜態を人々は嘲笑っていた。
しかし、と王は思う。
彼らは考えるべきなのである。
あの触手を召喚した魔法陣の輝きが、シンシアを超えて本日一番の光量であったことを。
※
使い魔召喚の儀から一週間が経過した。
アルハイトとアンナは交友を深めていた。。
セニアに目を付けられた平民アンナと召喚の儀で史上初の醜態をさらしたアルハイト。
曰く付きの二人と仲良くなろうとする者はおらず、自然と二人でいる時間が増えた。
初めは遠慮しがちであったアンナだが、アルハイトの働きかけのおかげか一週間で随分と気安くなった。
しかし同時に貴族子息子女に対してアンナは強い警戒心を抱くようになっていた。言わずもがなセニアの一件のためだ。
アンナの祖父は一代限りの騎士爵位を持っており、地元では一目置かれていた。アンナも祖父の騎士道の薫陶を受けて育ったために、正義感が強い。実際地元でいじめを仲裁したことも一度や二度ではない。
シャンディア王立王都魔法学園では上流貴族も多く、一代貴族の孫でしかないアンナは、行動には細心の注意をしなければならない事を頭では理解していた。
しかし、セニアの暴行を見た時、初めは耐えたものの体が動いてしまったのだ。
それがよもや家族にまで被害が及びかねない事態になるとは思っていなかった。
もしあそこでアルハイトが出てこなければ…。
そんな悪夢を今でも夢に見る。
そんな訳で慎重な行動を取るようになったアンナにアルハイトは疑問を感じる。
(この子、こんなに慎重なのになんであの時、絡まれてたんだろう?)
アンナは失敗に学んだのだ。
そんなアンナに現在アルハイトは励まされていた。
「ほらアル!元気出そうよ!起きちゃったことは仕方ないんだしさ。」
アンナが頬を引きつらせながらアルハイトを一生懸命慰める。
しかしアルハイトは不満そうだ。顔を伏せて唇を尖らせている。拗ねているのだ。
何故なら…。
「慰めるならもっと近づいてきてよ!」
アンナはアルハイトから一メートル程離れた位置から声をかけていた。
「だって、その触手が…。ヌメヌメしてるし…。」
と、こういうわけである。
召喚した使い魔は一生のパートナーだ。余程の事でもない限り傍にいる。触手は今もアルハイトの背中にいるのだ。
アンナの使い魔であるアーマーゴーストはアンナの後ろから付き従ってきている。
触手はヌメっている触手とそうではない触手とがあるのだが、ヌメっている触手にふれると紫色の体液が付着してなんだか汚いのだ。アンナが近づかないのも仕方がない。
アルハイトもそれは理解しているし、寧ろ儀式の日に気絶したアルハイトを汚れることもいとわず最初に助けてくれたことを感謝している。
アンナは触手のヌメった体液のせいでその時服を一着ダメにしていた。
しかし、やはり女の子に距離を置かれている状況は堪えるのである。
(はあ。女の子のにおいを嗅ぎたい。)
落ち込むアルハイトとは裏腹に触手は今日も元気に蠢いている。
アルハイトが落ち込むのは他にも理由があった。
本来使い魔とその召喚者は意思の疎通ができ、召喚者に従うのだが、アルハイトは召喚直後に気絶したためか、意思疎通が出来ず、触手が自分の思うように動かない。
さらに、人が使う魔法は使い魔の思念が勝手に流れ込み使えるようになるものである。
自身の使い魔と意思の疎通がとれないアルハイトは魔法の使い方も知ることが出来ずに落ちぶれてしまっていた。
現在は魔法実技の授業後の休み時間。
先の授業で魔法が全く使えず、アルハイトは完全に晒し物になっていたのだ。
それをアンナが慰めていたのである。一メートル離れた距離から。
ちなみに魔法が使えない生徒というのも学園史上初だ。
無駄に「史上初」の多い奴である。
教師は魔法の応用を教える存在なので、まったく魔法の使えないアルハイトに困惑していた。
その事実もアルハイトを落ち込ませるが、それだけではない。
ドン!
肩に衝撃を受けよろめくアルハイト。
「ああ、ごめんごめん。前方不注意だったよ無能の新入生代表さま!」
肩にぶつかったのはセニアであった。
以前より多くの取り巻きを連れている。従者だけでなく下位の貴族家の子息が取り入ろうとしているのだ。
元気のないアルハイトに気を良くしたセニアは常より心持大きな声で言う。
「まさか臆病な上に魔法まで使えないとはな!実家に勘当されないのが不思議だぜ」
儀式前のアルハイトの嫌味を当てつけてくるセニア。
取り巻き達はセニアの言葉にクスクスと笑っている。
アンナはセニアの登場に触手も気にせずアルハイトに近寄りセニアを睨む。
儀式から一週間、セニアのような嫌がらせをする貴族が後を絶たない。アンデルセン家と同格もしくは少し格上の家の子息が多かったが、彼らの嫌がらせが少しづつアルハイトのメンタルを苛んでいたのだ。
勿論男の嫌がらせばかりであれば、アルハイトはイラつくだけで済んだだろう。しかし貴族の子女までもがアルハイトを攻撃してくるのだ。
正直初めてその貴族の子女に嫌がらせを受けた時アルハイトはこっそり泣いた。それほどの衝撃だったのだ。
(女の子にちやほやされるために死ぬほど勉強して女子比率の高い学園に入園したのに、女子からはこの仕打ち!アンナも中々近寄ってきてくれない!)
夢見ていた青春は塵と消えたのである。
故にアルハイトは元気がなく、何も言い返さず笑いながら去っていくセニア御一行の後ろ姿を見送った。
高笑いを上げ、大股で去りゆくセニア。その肩と背中には触手の紫の体液がべっとりと付着していた。
「大丈夫、アル?」
アンナがアルハイトを気遣う。
「ありがとう。大丈夫だよ。セニアの嫌味は可愛い部類だ。アンナこそ触手の体液つかなかった?」
「大丈夫。この子アルがいじめられている時はあたしに配慮してくれるみたい。」
アンナは笑いながら汚れてないよと服を見せる。アルハイトはと言えば『いじめられている』という言葉にショックを受けていたのだが…。
(そうか。やはり俺はいじめられていたのか…。はっきり言葉にされるとショックだな。)
そんなやりとりをしながら二人は次の授業の行われる教室へと向かった。
※
放課後、二人はとある研究室の前に来ていた。
二人は扉をノックしたのち部屋に入る。
本や紙の資料が散乱しているが、それを無視して部屋の奥へ。
普段通りならそこに設置してある机の上で研究に勤しんでいるのだが、目当ての人物はそこにはいなかった。
「ミネルバ先生!アルハイト・アンデルセンとアンナ・ハンニバルです!いらっしゃいますか!」
「む。君達か、助けてくれ。本の塔が崩れて下敷きだ。」
アルハイトの声に女性のくぐもった声が入り口近くの散乱した本の山から聞こえる。
「もう。だから片づけましょうって言ったのに…。」
アンナが呆れた声を出しながら本をどかしていく。当然アルハイトもそれに倣う。
分厚い本が多く、多少の時間はかかったが、無事彼らの目当ての人物、ミネルバ・レイヴンオウル導師を助け出すことに成功した。
「すまないね。小指を角にぶつけた拍子に本を倒してしまってね。それではさっそくで悪いが君の使い魔を見せてくれ。」
ミネルバ導師はそう言いアルハイトの背後から伸びる触手に熱い視線を向けた。
ミネルバ・レイヴンオウル導師、御年25歳。彼女は至上最年少で導師号を取得した天才である。専門分野は使い魔の生態研究である。使い魔と召喚者を繋ぐ不可視の回路の存在を系統立てて理論として証明した人物として有名だ。優秀な研究者の集まるシャンディア王立王都魔法学園を代表する人物の一人でもある。
何故彼女の研究室をアルハイトが訪れたかというと、ミネルバに頼まれたからだ。
ミネルバは召喚の儀を途中退場し保健室で休んでいたアルハイトを叩き起こし、そして迫ったのだ。
「君のその使い魔を私にくれ!」
そんな事出来るはずもないが、ミネルバにとってアルハイトの召喚した触手はそれほどまでに魅力的だった。
現在使い魔の研究は相当進歩している。もはや召喚されうる使い魔の種類は全て把握されているといってよい。使い魔研究の権威たるミネルバは当然全種類姿形性能にいたるまで記憶しているわけだが、彼女は自身の記憶にない使い魔に遭遇した。
それがアルハイトの触手であったのだ。
未知への好奇心は研究者を研究者足らしめる原動力だ。
ミネルバは研究の為と頭を下げて自身の研究室にアルハイトを招待したのが、アルハイトが研究室を訪れることになったきっかけである。
アンナは普段触手を傍で見ているという事で、彼女もまたミネルバに請われて研究室に来ている。
訳もわからずミネルバの研究室へ足を運んでいたアルハイトであったが、自身の使い魔のことを良く分かっていないアルハイトは、触手の研究を行い、わかったことを事細かくわかりやすく説明してくれるミネルバを頼りにするようになっていた。
それに加え、ミネルバは美人だった。働き過ぎで目の下に隈はあるものの、整った顔立ちにウェーブのかかった長いくすんだ金髪。そして同年代では決して見ることのできない豊満なバストにくびれた腰。
正直アルハイトはこの研究室を訪れることが一日の最大の楽しみでもあった。
「おそらくイソギンチャク系の使い魔だろうという話はこの前したな?」
触手を観察しながら唐突にミネルバは話出す。彼女は観察中に講釈を垂れる癖がある。思考の整理に役立つからだ。
「この前採取させてもらった刺胞細胞には麻痺毒が多量に含まれていることが分かった。あれで外敵をけん制したり、獲物を捕らえたりするのだろう。触れても刺さない事を考えると任意で刺すことが出来るのだろう。」
刺胞細胞というのはクラゲやイソギンチャクの持つ毒針のことだ。ミネルバは触手の粘液中に刺胞を発見し、円柱形の見た目もあり、イソギンチャク系の使い魔であるという仮説を立てたのだ。
普通のイソギンチャクやクラゲは体外に刺胞を持つことはないのだがさすが使い魔と言ったところだろう。常識が通じない。
「触手の粘液には毒性はなかった。ただぬるぬるして紫色なだけだ。エロいことに使える程度の使い道しかない。いや、地面に撒けば相手を転ばせることが出来るか?」
ミネルバの何気ない言葉にアンナは恥ずかし気に顔を真っ赤にし、アルハイトは期待に胸を弾ませる。
「今わかっているのはそれだけだ。今魔物や魔獣で類似した種がいないか調べているところだ。お前たちは何か変った事や気付いたことはあるか?」
相変わらず触手を観察しながら質問をしてくる、ミネルバ。
アルハイトは本日最も相談したかった事を打ち明ける。
「実は、今日の授業で魔法が使えないことが判明しまして…。」
「本当か!?」
アルハイトの言葉に食い気味で聞き返すミネルバ。
使い魔と召喚者の繋がりの象徴たる魔法もまた彼女の専門だ。興味があるのだろう。
何より使い魔を召喚したにも関わらず魔法が使えなかった者など前例がない。
「君はつくづく私の知的好奇心を刺激するな!面白い!実に面白いぞ!」
アルハイトの肩に手を置き、満面の笑顔で揺さぶるミネルバ。その拍子に彼女の豊満なバストが揺れる揺れる。
その豊かな膨らみに視線が吸い寄せられ目が離せない。
「アル、鼻の下伸びてるよ。」
「いやだなあ。俺の鼻の下が伸びてないときの方が珍しいでしょう?」
「うっ」
アンナのジト目の突っ込みにアルハイトは開き直る。
実際アルハイトはアンナといる時も大抵鼻の下が伸びているのだ。
アンナも言葉に詰まろうというもの。
「ミ、ミネルバ先生!揺さぶるのをやめてください!それに笑いごとじゃないんです!深刻な悩みですよ!」
言葉に詰まったアンナはミネルバに話を振る。実際ミネルバの行動は実に不謹慎だ。アルハイトは気にしていないとはいえ、生徒の悩みを「面白い!」と笑っているのだから…。
「確かに。すまなかったな!」
ミネルバはアルハイトを揺らすのをやめ、姿勢を正して生徒二人に真剣な顔を向ける。
「その代り、全力で原因の究明にあたろうではないか!ついてはもっと研究室に来る頻度をだな!」
目を輝かせて二人に迫るミネルバ。イソギンチャクもどきの触手の研究はまだまだ始まったばかり、彼女は可能ならばアルハイトを研究室に監禁してしまいたいほどに好奇心が疼いて仕方ないのだ。
興奮するミネルバに押されて、アルハイトとアンナは放課後だけでなく昼休みもミネルバの研究室を訪れる約束をした。
「絶対だぞ?絶対来るんだぞ!」
子供のように繰り返すミネルバを無性に可愛く感じるアルハイトである。
「さて、昼も来てもらう約束をしたことだし、私も君達の利益になりそうな話をしようじゃないか。」
真剣に研究に関わる話しをする時のミネルバは実に頼もしい。
「今まで魔法回路構築に失敗したものなどいなかった為に仮説止まりであるものの、使い魔と召喚者が魔法回路を構築する条件というのは諸説ある。その諸説と君の話を総合した結果、私は君が君の使い魔を拒絶したことが原因ではないかと考えている。」
罰が悪そうなアルハイト。
責められたように感じたのだ。
それにいざ自覚してみると酷いものだ。使い魔を勝手に呼び出しておいて拒絶するなど…。
「使い魔と召喚者との関係は人と人との関係とそう変わらない。拒絶すれば拒絶される。君未だに君の使い魔をちゃんと見たことないだろ?」
ミネルバの言う通りであった。
アルハイトはヌメヌメしたものや芋虫などが苦手なのだ。
触手はアルハイトの苦手を凝縮したような存在だった。極力視界に入れたくはなかった。
「まずは使い魔に慣れることから始めないとな。」
「はい…。」
そうして、暫くミネルバの研究に付き合ってから帰路に就いた。
※
次の日、早朝アルハイトはアンナと共に学園の中庭に来ていた。
アンナは珍しくスカートをはいている。
この学園の制服は黒いローブだ。貴族のローブは肩にそれぞれの家紋が金の糸で刺繍されている。そのローブの下の服装は自由なのである。
「まずこの触手に名前を付ける所から始めたいと思う!」
アルハイトは宣言する。
「まだ名前つけていなかったの?そういえばずっと触手って呼んでた…。」
アルハイトの発言に呆れるアンナ。
使い魔は基本的に召喚者によって種族名とは別に個体名を付けられる。これは一種の習わしだ。特に意味があるわけではないが、やはり名前をつけると愛着が沸くものだ。
現在個体名のついていない使い魔はこの触手を除いていなかろう。
「というわけで何か良い案ある?」
「自分で考えようよ…。」
アンナに甘えてみるも、にべもない返事だ。
「うーん。じゃあジュジュで!」
触手の最後の音を重ねてシュシュ。それを触手はヌメっているから濡れている感じにしようとジュジュにした。
「おー!いいんじゃない?」
触手も今までよりうねっている。喜んでいるのだろうか?嫌がっている可能性もある。
いずれにしろアルハイトには判断できないが…。
「じゃあ名前はジュジュで決定!」
触手の名前が決定し、後はアルハイトがどう触手、改めジュジュを受け入れていくかだ。
飽きもせず背中にくっつきっぱなしのジュジュに視線を向ける。
触手しか見えないが、相変わらず赤と紫と緑の肉々しくも気持ち悪い見た目だ。ヌメっている触手も乾いた触手も細い触手も太い触手もあり、バラエティーは豊かだ。色は全て同じであるが…。
こんなものが背中にへばりついているのかと思うとやはり気が滅入る。
果たしてアルハイトはジュジュを受け入れることができるのか?自信がなくなっていくアルハイトだった。
そんなときである。ジュジュの触手が伸び、傍で見学していたアンナを捕らえた。
「え?何?なんなの?」
アンナはパニックに陥る。
ジュジュは器用にも乾いた触手でアンナを拘束したようで服が汚れていないことが唯一の救いだ。
「お、お前まさか…。」
アルハイトは期待を込めて呟く。
その間にもアンナの使い魔のアーマーゴーストがアンナを助けようとするも空中高く掲げられ手が届かない。アンナ、絶対絶命である。
「ちょ、ちょっとアルハイト!た、助けっ!」
アンナはアルハイトに助けを求めるも彼は身動きどころか瞬き一つしなかった。
何故なら彼は今絶景を見ていたのだから。
未成熟でありながら夢を孕んだ胸とふとももを拘束する触手。
締め付けられることでかえって柔らかさを主張している。
アンナの口を突いて出る悲鳴は嬌声にも聞こえ、天使の調べのようだ。
そしてジュジュの触手はアンナの股間へと向かう。
「いや、まさか!やめて!」
瞳を潤ませて叫ぶアンナだが、それがまた色っぽい。
そして触手がその場所に到達する。
しかしそこにいたってアルハイトは急に怖気づく。
やりすぎではないかと…。
アンナはまだ10歳だ。大人の世界を知るには早すぎる。
それにアンナに色々と教えるのは俺でありたい!
だが、いやしかし…。
煩悩と煩悩の狭間で苦しむ。
しかし悩んでいる間にも時は流れる。
ごくりっ
息を呑むアルハイト。
脂汗が額を伝う。
そして触手は…。
スカートをめくり上げた。
地上を離れ、空中で披露された純白の布地は大陽の光を受けて眩く輝いていた。
その光景を見てアルハイトは思ったのだ。
(俺、ジュジュを受け入れるよ)
アルハイトの心はかつてなく穏やかだった。
そして一人と一体の間に魔法回路は開通……しなかった。