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十話 決闘決着

「ジイル・プロイセン戦闘不能により、この決闘アルハイト・アンデルセンの勝利とする!」


アルハイトが最後に放った矢はジイルの顎に命中し、その意識を奪っていた。


「「「「!!!!」」」」


審判である学園長の言葉に一瞬の静寂の後、観客の数百数千の声が連なり、決闘場を震わせた。


「卑怯者!」「汚いぞ!」などの罵声が多いようにも見受けられるが、あらゆる言葉が混ざりあって何を言っているのかわからない。


観客の様子を無視してアルハイトは先ほどの決闘を振り返っていた。


(ビビった。まさか本当にここまで来るとは思わなかった。粉塵爆発も思った通りいかなったし肝が冷えたわ。)


アルハイトは冷や汗を流す。


大枠ではうまくいったアルハイトの今回の作戦であったが、予想外の事態も多かった。


その最たるものが粉塵爆発だ。


もともと煙幕はジイルの詠唱妨害と共に粉塵爆発による衝撃でジイルをノックアウトさせることが目的だったのだ。


ジイルの火魔法は調査済みであったのでその対策の一つだった。


しかし、いざ行動してみれば煙幕は風の影響か、広範囲に広がり過ぎてうまくジイルの魔法が着火し粉塵爆発を起こしてくれるかわからなかった。故に念の為、触手に槍を持たせて突撃させたのだが、よもやその爆発によって触手が吹き飛び、逆にジイルがほぼ無傷で粉塵爆発を乗り切るとは思わなかった。


いや、粉塵爆発が起きれば触手が深刻なダメージを受けることはわかっていた。ジュジュは痛みを感じないようだし、触手も時間があれば再生するから実行した策だ。だからそれは予想通りなのだが、しかし触手が深刻なダメージを受けるということはジイルにもダメージが入ると予想していたのだ。


何故、ジイルはあの爆発を無傷に近い状態で乗り切れたのか、いまだわからない。


火の魔法使いだから火に纏わる現象に強いのだろうか。


ともあれダメージの見えないジイルの状況に焦り、ジイルの接近を許してしまった。


その時のアルハイトの焦りようといったらない。


もともとアルハイトもジイルと同じく遠距離で勝利を決する予定だった。学園の退学とミネルバへの接触権が掛かっているのだ。ジイルよりは軽いペナルティーだ。とはいえ緊張しないはずがない。


アルハイトはジイルが遠距離からの攻撃に重点を置いた戦闘でくることを予想していた。そしてジイルは攻撃と防御どちらにも豊富な魔法手段がある代わりに攻撃能力は並み程度であることをアルハイトは調査していた。


故に弓で牽制し、大盾に隠れて壁際まで後退してしまえばジイルにアルハイトの守りを抜く手段はないと考えた。


そこまでいけば壁際で矢が尽きても触手の包囲攻撃でごり押しできる。


ジイルのみに攻撃を絞ればあの大きな使い魔も防御に周らざるを得ないだろう。そしてヘルハウンドは全方位からの攻撃に対応できるほどの視野がない。時間の問題で危険を犯さずいずれ勝利をつかむことが出来る。


ヘルハウンドが守りに入らず攻撃してきてもアルハイトの大盾の守りを抜くには相応の時間が必要でその前にジュジュの触手がジイルを捕らえただろう。


大盾をカモフラージュにした弓矢の攻撃は本当に保険の策であったのだ。


「ぐっ。」


不意にジイルが意識を取り戻した。


「…負けた…のか?」


地に伏す自身の状況から決闘の敗北を悟ったようだが、信じられず、もしくは信じたくないのか、縋るような表情で審判である学園長に目を向けるジイル。


学園長はジイルの問いかけに悲し気に頷くことでジイルの敗北を告げた。


呆然自失といった風情で座り込むジイルの様子に観衆も黙り込む。


学園長は痛ましげな様子でジイルを数秒見つめ、そして意を決したように口を開いた。


「アルハイト・アンデルセン、頼みが…。」


「それではジイル・プロイセンをご実家から縁を切ったうえで奴隷に落としてしまいましょう!」


学園長の言葉を遮り空気を読まずにアルハイトは声を上げた。


学園長がジイルの処置軽減を望んでいることが明白であったからだ。しかし、アルハイトからすれば冗談ではない。


上級貴族嫡子が未成年の身で下級貴族の後継でもない人間、それも成人の決闘を受け入れてやったのだ。命を取らないだけでも多大な温情だ。これ以上の譲歩はアンデルセン家並びにアルハイトが舐められることにつながる。


さらに、悔しいことにジイルは優秀な人間だ。現在はまだ若い故に感情を制御出来ずにいるが、年を重ねれば大成しうる。そんな人物とアルハイトは敵対したのだ。逆恨みされる可能性もあり、貴族籍のまま放置することはできない。後々の禍根は絶っておきたい。


断じてジイルの処遇を軽減してやるわけにはいかない。


しかし、観衆は学園長と同じく、ジイルのあまりの落ち込み様から同情する声も多い。元々アルハイトに隔意のある者や、戦い方を卑怯と感じた者達もジイルの擁護に周った為にジイルに同情的な風潮は決闘場全体に広がっていた。


数百、数千人の冷ややかな視線がアルハイトを貫く。それは物理的な力をそなえているかのような圧力を持つ。


観衆全員に反感を持たれたままジイルを奴隷に落すのは不味い。なんとか観衆の意識を逸らさなければならない。


何故勝者である自分がその権利を振るうだけのことにここまで非難の目を向けられなければならないのか。


アルハイトは苛立つもそれを表に出せばそれこそ学園中を敵に回してしまう。


そもそも余計なちょっかいを掛けられるのが鬱陶しくて観客を集めたのだから逆に徹底的に酷薄な行いをするのも有りかもしれない。


などとアルハイトが考えていた所、地面近くから声がした。


「ありがとうございます学園長。ありがとう皆。」


その声は先ほどまで地面にへたり込み、呆然自失していたジイルのものであった。


立ち上がり、周囲を見回しながら声を張る。


「皆の気持ちはうれしい。しかし、私は決闘で負けたのだ。その義務は履行しなければならない。」


アルハイトへ向けられていた非難の視線は剥ぎ取られ、ジイルの方へと向けられていた。その視線には潔い態度を取る男への称賛があった。


ジイルは観客の好意的な視線を集めながらアルハイトの方へと歩み寄る。


「君には恐れ入ったよ。アルハイト殿。確かに卑怯だと思う事もあったが、虚を突く見事な戦術とも言える。」


ジイルはつきものが落ちたかのようにアルハイトを称え始めた。爽やかな笑顔を浮かべている。


観客席から見たジイルの態度、言動、表情は騎士道精神に則った気持ちのいいものである。


しかし、ジイルの頬が引きつり痙攣していることが傍にいるアルハイトからは見える。


「君の勝ちだ。おめでとう。これからは心を入れ替え君に尽くそう。」


右頬が妙に釣り上がった微笑みを湛えてジイルが手を伸ばしてくる。


アルハイトの思いとは別に観客は盛り上がりを見せている。


「ジイル!良く戦った!」

「ナイスファイト!」


主にジイルへと送られる暖かい言葉が観客中から聞こえてくる。


すでに場は一つの英雄譚であるかのよう。決闘の勝者アルハイトは敵対していたジイルを赦し、仲間とする。そしてジイルはその優秀な能力をアルハイトの為に使うのだ。

ジイルの高潔な精神がアルハイトの冷たく凝り固まった悪意を溶かすだろう。


そんな観客の雰囲気にアルハイトは辟易とする。

その生ぬるい雰囲気はアルハイトに寛容で優しい行動を強制する。それが堪らなく不快だった。


ジイルから伸ばされた手にアルハイトもまた努めて柔らかな笑みを浮かべて手を伸ばした。


そして。


「触んな奴隷。お前は他所へ売り払うんだ。僕が男を手元に置いておくものか!」


アルハイトは言葉と共にジイルの手を乱暴に払った。


ジイルも学園長も観客も絶句する中、アルハイトだけは無邪気に邪悪な笑顔を浮かべていた。


アルハイトは内心大いに憤っていた。


謂れのない罪を着せられケンカを売られ、それを思惑があるとはいえ受けてやった。勝ったと思えば観客からの視線は冷ややかだ。挙句中立であるはずの学園長までもがジイルに同情しており、何よりジイルの敗北者とは思えぬ態度が気に入らない。


敗北し、潔く条件を呑むようなことを言っているが、それは当然のことであるし、何よりジイルはアルハイトに対する誹謗中傷の数々を謝罪していない。


勿論謝罪は決闘の条件に含まれてはいなかったから問題ではないのだが、『力が及ばなかったから正しい行いをしていた自分が折れるよ』という態度をあえて衆人環視のもとで行い、アルハイトの行動を牽制しているのは明白だ。


ジイルの引きつった表情がその証左である。


ジイルはただただ自身の奴隷後の処遇の為にこの場を演出しているに過ぎない。


負けた事を認め未来の為に行動することは立派だが、ジイルの行動はアルハイトの目的を阻害する。

わざとかもしれないしそうではないのかもしれない。

しかしそれはアルハイトには関係のないことでただただ苛立つ。腹が立つ。


ジイルに、学園長に、観客に。


このような状況を想定しなかったわけではない。


しかし、実際に体験した今、想定していてなお怒りがこみあげてくる。

戦闘の高揚の余韻がアルハイトを感情的にしているのかもしれない。


当初、アルハイトはジイルを下着店の下っ端として使用してもいいと考えていた。

学業成績優秀で商売も出来るだろうと考えたからだ。


しかし、アルハイトの苛立ちはそれでは解消されない。


ジイルを手元に置き、人権無視の過酷労働に従事させるのもいいだろう。

しかしそれ以上にジイルが嫌がる事をアルハイトは知っていた。

ジイルの人生を、意思を今以上に貶める方法を。


アルハイトは口の端をより一層釣り上げジイルに告げた。


「売り先はプロイセン家嫡子、レイル・プロイセンだ。」


周囲の人間が事態をつかめずにポカンと呆ける中ジイルの顔色だけが青く変化した。


「…。な、なぜ兄に…?」


一度崩れた表情を笑顔で取り繕ったジイルが尋ねる。

しかし、取り繕ったとは言え、顔色は悪く額には汗がにじんでいるのがわかる。


「あなたの謝罪に思う所があったのですよ。我が家名の為、あなたの奴隷落ちを覆らせることは出来ませんがせめて家族の元にお返しするくらいの事はいたしましょう。」


先程ジイルの手を振り払った人間とは思えない殊勝な態度でアルハイトは言う。

ジイルは精一杯平静を装っているが握られた拳が震えている。


「何故あなたのお兄様に売るのかというと、そうですね…。」


勿体ぶるアルハイトに苛立たし気に喉を鳴らすジイル。

観客席から見れば、ジイルには何の変化も見受けられないだろう。しかし、アルハイトにしてみればその変化は一目瞭然。平静の仮面を被ってなお隠し切れぬその苛立ちの表情は同時にジイルの強い不安の現れでもある。


よほどジイルは彼の兄が嫌いなのであろう。


そのジイルの様子に嗜虐心を煽られ、言葉を刻むようにゆっくりと紡ぐ。


「それが最もあなたの為になると思ったからですよ。」


慈愛の表情から紡がれるアルハイトの純粋で濃厚な悪意にジイルは今度こそ青ざめそして数瞬後激昂した。


「き、きさまあああ!」


アルハイトの胸倉を掴み怒声を上げるジイル。

顔は真っ赤で額には血管が浮いている。


「お、俺がどんな思いでこの学園に入学したと…!どんな思いで次席にまで上り詰めたか…!」


胸倉を掴む手になお一層力を込め喚くジイルにアルハイトは冷めた表情で告げた。


「知らないよ。お前だって俺がどんな思いでいるかなんてわからないだろ?」

「くっ!ぐぅっ!」


言葉を失うも口を開けては閉じ、フーフーと荒い息で何かを言おうと試みている様子のジイル。


観客は状況を理解することができず、観客席ではがやがやと推測の言葉が飛び交う。


しかし、そんな諸々も無視してアルハイトは胸倉を掴むジイルの手を指指して言う。


「放せ。分を弁えろ。お前は奴隷だ。」

「っ!」


ジイルはその言葉に目を見開き手を放した。


ジイルの手から解放され服の乱れを整えるアルハイトにジイルは口を開く。


「し、失礼しました。しかし、ど、どうか兄に売り払うことだけは…。」


ジイルは頭を下げてアルハイトに請う。

多少は平静を取り戻したジイルであったが、未だ怒りは冷めやらないのか、言葉は固く、表情はうつむいて見えないが肩が震えている。頭を下げたのは怒りに歪む顔を見られぬようにする為なのかもしれない。


「…。」


アルハイトが無言でいるとジイルは屈辱に顔色を赤を通り越して土気色にしながら跪き、頭を地に付けて再度赦しを請うた。


「な、なにとぞご容赦くださいますよう。」


必死に許しを請うジイルにアルハイトもついに溜飲を下げた。


そして偶々ではあるが、今の状況が本来の予定通りであることに気付いたアルハイトは望み通りに状況が推移するよう思考を巡らす。


アルハイトは厳しい表情で地に伏すジイルに告げる。


「良いだろう。お前を売ることは考え直そう。」


「あ、ありがとうございます。ありがとうございます!このジイル。アルハイト様に忠誠を。」


拝むように礼を述べるジイルにアルハイトは続ける。


「ああ。お前はうちの店で働かせる。当然下働きからだが、働き次第ではそれなりの役職も与える。」


「ありがとうございます。ありがとうございます。」


アルハイトの言葉に、ジイルは地面を睨みつけながら、卑屈にも見える姿勢で礼を述べ続けた。



「むっ!?」


巨躯の男は眉をしかめた。

筋肉に覆われたその丸太のような腕を組み、不愉快そうな表情を作る男の名をガルムという。頭は刈り上げられており、その肉体と合わさり厳つい雰囲気を醸し出している。学園五年次生、平民上がりのその男は現在、自身の主の脇に控えアルハイト・アンデルセンとジイル・プロイセンの決闘を観戦していた。


「どうかしましたか?ガルム?」


ガルムの主、第三王女にして第一学年主席シンシア・フォン・シャンディアがガルムの唸り声に疑問を投げかけた。


「はっ!申し訳ございません。そのアンデルセン家の嫡子の戦い方が余りに…。」


ガルム達の視線の先決闘場中央ではアルハイトが煙玉を投げ込んでいた。


「卑怯ですか?」

「…はい。」


今まさに、アルハイトが煙を毒であると虚言を弄しているところで、余計にガルムの眉根にしわが寄る。


ガルムは平民上がりにもかかわらず、いやそれ故か、武芸に秀で学にも明るい優等生であった。しかし、それ故に貴族子弟に目を付けられ迫害されていた。能力はあれど平民故に耐え忍ぶことしかできずにいた。


そんなところをシンシアに拾われたのだ。

シンシアの取り巻きにはそんな優秀な平民が多くいる。

本来この学園が貴族平民共に門戸がひらかれているのは貴族が優秀な平民をスカウトする為、もしくは逆に平民が貴族に自身の能力をアピールする為だ。現在それは形骸化してしまっているが、だからこそシンシアの周りには優秀な平民が多くいる。


そんな境遇にいたガルムは知らぬうちに正々堂々を重んじ、搦手を過度に卑怯と毛嫌いするようになっていた。


「実直なのはあなたの長所ですが、柔軟性がないのが欠点です。」


美しい銀の髪を風にたなびかせながらシンシアは続ける。


「誇りを守る戦いが決闘の定義であるならばアルハイト殿の戦い方は非難されるべきものでしょう。しかし、彼の目的はその誇りにないのでしょう。もしくは誇りの在り方が違のか…。あらかじめルールに卑怯と弾劾できないようルールを定めていたことから彼がこの事を狙っていたことは明白。未成年者の決闘であることも相まって誰も公に抗議を行う事は出来ないでしょう。」


シンシアはどこか楽しそうに、歌いあげるように言葉を紡ぐ。鈴のようなシンシアの美声は抗えぬ魅力と共に不思議な説得力を伴う。


決闘場ではアルハイトが大盾の後ろから弓を構えて姿を現したところであった。


「しかし騎士の道理に、倫理にもとります。」

「お前!シンシア様に対して!」


むっすりとした表情で反論するガルムに怒りの表情で口を挟む他の取り巻き達。

その様子に苦笑をこぼし、シンシアは言葉を返す。


「彼は騎士ではありませんよ。私は彼の戦い方は面白いと思います。」


その言葉にガルムのみならず他の取り巻き達やシンシアの侍女たちまでも顔をしかめる。


口には出さないものの彼ら彼女らもアルハイトの戦い方は不快であったのだ。


「姫様。余りそのような事は…。」


侍女の言葉に肩をすくめて応じるシンシア。高貴な者にあるまじき仕草であったがシンシアが行うと気品がある。


「ふふ。やはり彼が勝ちましたか。」

「そのようですね。」


アルハイトの勝利に笑顔を浮かべるシンシアの手には賭博の引換券が握られていた。


シンシアが賭けで勝った金額を上品な微笑みの裏で計算している間にジイルが目を覚まし、試合後の調停を行っていた。


学園長がジイルへの処置を軽くしようと言葉を発し、ジイルがやもするとわざとらしくも見える様子で敗北を宣言している。


「ふむ。」


ガルムはジイルの演説を嬉しそうに聞いている。潔さを愛する彼には好ましく映ったようだ。


しかし、またすぐに表情が固まる。アルハイトがジイルの和解の手をはねのけたのだ。


そしてアルハイトはレイル・プロイセンに売り払うと口にした途端、ジイルの動きは硬直した。


「彼はどうしたのでしょう?奴隷とはいえ家族の下に戻れるのであれば良いのでは…。」


侍女の一人の呟きにシンシアは律儀に返答を返す。


「プロイセン宮廷子爵の嫡子レイル・プロイセン。26歳。体型はかなりふくよかで、優秀とは言い難い人物よ。どうやらジイル・プロイセンはレイル・プロイセンからプロイセン家の後継を簒奪する為に学園に入園したみたいですし、相当な確執があるのでしょう。」


決闘場中央に視線を向けたままシンシアは続ける。


「レイル・プロイセンはジイル・プロイセンからしたら最も憎い相手というわけです。長年積み重なった肉親への不満はアルハイト殿に対する敵意よりも強いのでしょう。レイル殿の性格などにも問題があるのでしょうね。」


シンシアは、アルハイトに許しを請うて頭を下げるジイルを見ながら言葉を続ける。


「しかし、やはりアルハイト殿は面白い…。」


シンシアは呟いた。数分前の注意を忘れたわけではない。ただ口を吐いて出てしまった。


「すみません。私にはとてもそうは…。」


侍女は恐縮しながらも自身の意思をはっきりと告げる。

本来ありえないことだが、シンシアが意見ははっきりと述べるよう望んでいるのだ。


侍女の視線の先にはジイルを土下座させてなお酷薄な視線を向けるアルハイトがあった。

どうやら赦しの言葉を述べているようだが、高圧的で受け入れがたい雰囲気がある。


「姫様、なぜそのようにお思いに?」


取り巻きの一人がシンシアに質問を投げかけた。


「以前父から王の器についての薫陶を受けました。」

「王から…。」

「ええ。父がいうには王の器とは恐れられる事だとおっしゃっていました。」


屈辱に身を震わせながらアルハイトに忠誠を誓うジイルを視線に収めながらシンシアは言う。


「私はアルハイト殿を見る度にそのことを思い出すのです。」


シンシアのその言葉に取り巻き達と侍女達は押し黙り、決闘場中央へ改めて視線を移した。


蠢く毒々しい触手を背に立つアルハイトには確かに名状しがたい威圧感があった。


「皆、アルハイト殿を恐れるが故に執拗に排除しようとなさるのかもしれませんね。」


シンシアの呟きは取り巻きや侍女達の耳にやけに響いた。


書き溜めていたのが切れたので、次話は来週くらいになります。

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