治療と約束
葵「こんのすけ!!!!!!!」
こ「はい、分かっています、葵様!!!!!!」
葵「分かっているなら、手入れ部屋の準備!それと、手伝い札とか言う奴あるんでしょ?それも用意して」
こ「それが……。申し上げにくいのですが、手伝い札は無いのです……」
葵「どう言う事??取り敢えず準備しながら聞くから」
そうして、準備を行いつつ聞いたのは政府の苦渋の決断とも言うべき事態だった。こんのすけによると、刀剣男士の生命線とも言える手伝い札が無くなったのは、手入れには使用されないケースが相次いだ為だという。
その為、本霊に掛け合い手伝い札の配布や資源として手に入れる事も無いようにしたのだという事だった。
これにより、多少ではあるがブラック本丸の摘発に役立っているらしい。しっかりと手入れしていれば刀剣男士達は主である審神者の霊力を纏うようになるからだ。日々上がってくる戦績報告と合わせる事で刀剣男士達の審神者の霊力がどれほど纏うか分かるらしい。中には当てはまらない特殊ケースも存在するようだが、そこは配慮するそう。そうしていても、腐った役人やブラック本丸化する本丸が後を絶たないのと言うのだから政府の苦労が偲ばれるという事だった。勿論、ブラック本丸と分かったら調査の後、潰される。
こ「こういった訳で、手伝い札は無いんです……」
私は、こんのすけの話を聞いているうちに落ち着きを取り戻していた。
葵「話は分かった。……どうしよう。そうなると治療用の符が足りない。直接霊力を注ぎ込みむにしても、注ぎ込んだ霊力を神気に変換しないと陸奥守さんは治らないのに」
こ「……申し訳ありません……」
葵「無いんじゃ仕方無いよ。政府にしたって苦渋の決断だっただろうし。(本当は、神気ならあるんだけど、まだ政府に知られる訳にいかないしな……。)とにかく、転送をお願い」
こ「承知いたしました。では、転送を開始致します」
私はこんのすけによって転送され陸奥守さんの元へと着いた。陸奥守さんは全身から血を流し意識を失って倒れていた。
葵「陸奥守さん、葵です。迎えに来ましたよ。帰りましょう」
そう声を掛けながら血まみれの陸奥守さんに触れる。
葵「こんのすけ、私達を本丸の手入れ部屋に転送して」
こ「分かりました。葵様」
私はこんのすけに頼んで直接手入れ部屋に転送してもらった。
そうしないと、気を失った成人男性である陸奥守さんを運ぶ事が出来ないからだ。
葵「無茶をして……。いきなり陸奥守さんが居なくなるとかそんな展開望んでなんかいないですからね?」
私は、そうそっと呟いた。こんのすけも申し訳なさそうな顔で見ていた。知っていた審神者業務では手伝い札の存在があったからだろう。
こ「葵様……」
葵「大丈夫。私の霊力は多いから。心臓の上に触れて、と。『血の雫 ヒトの涙 災禍 幸福 治癒の手の願いよ 気の廻りと力 傷知った身体に癒やしの想いを立てよ 治癒術式開始』」
そう唱え終わると三角形に配置した治療用の符から柔らかな光が昇り始め、その代わりに符に書かれていた墨文字が消えていく。それと同時に私の身体から出ていく霊力も増えていった。やはり、本来の符の量よりも少ない事と付喪神といえど神を癒やすと言う事で負担も増えているようだ。
1時間ほど陸奥守さんの心臓の上に触れていただろうか?呻き声を出して陸奥守さんは目を覚ました。
陸「う……ぐ、ぅ………ここは……」
こ「葵様、陸奥守殿が!!」
葵「良かった、陸奥守さん。目が覚めたんですね。神に対して治癒術式を使うのは初めてだったから心配だったんです」
そう言いながら私は心臓の上から手をどける。そして、陸奥守さんに尋ねる。
葵「これ、何本に見えます?」
陸「一本じゃろ?主は心配性なんか?」
葵「そりゃ、顕現して頂いていきなり破壊寸前までいったら心配性にもなりますよ。見え方に問題も無いようですし大丈夫ですね。さて、では」
私はそう言って切り出す。『約束』をして貰うために。もう、二度とこんな思いをしないために。
葵「『約束』してください。二度と破壊寸前まで頑張らないと。……また、大切に思えそうな人や物を無くしたくないんです」
少しだけ、過去を混ぜ告げる。神に知られ過ぎると隠されやすくなるから何も教えないし言うつもりも無かった。けれど、あの祓えの時のお説教のせいか信頼し始めてしまっていた。そうなると、何も言わないのも教えないのもフェアじゃ無いと思うようになった。
私は、約束をする事を拒んだ。それでも、願ってしまった。
『傷つかないで欲しい』と。
葵「『約束』、出来ますか?」
陸「そうじゃな、それを主も『約束』してくれるんじゃったらな。主は平然と無茶しそうじゃけんの」
葵「出来る限り、でいいなら。人間も神だって完璧にやるのは無理だから」
陸「分かった。なら、『約束』じゃ」
こうして、私は陸奥守さんと『約束』を結んだ。勿論、後であの子達に怒られたのは言うまでも無い。