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act.2 実はかなりのチート持ちでした

 ……なんだかさっきから、俺の傍で気配がする。

 うあーもうすっげ疲れてるんだよ頼むよもうちょい寝かせてくれよ……あと十分。

 十分が駄目なら五分でもいいからさ。

 そんなことを考えながら寝がえりを打った瞬間、首筋になんだか熱いものが触れたんで、俺は思わず跳ね起きた。


「あっつっ、えっ、何!?」

「ああ、目が覚めたかい?ちょっと待ってな、この手ぬぐいで汗をお拭き。さっぱりするよ」


 ベッドの上で目を白黒させてる俺の傍らにいたのは、えーと多分三十前後くらいの女の人だった。

 癖のある燃えるような赤毛をポニーテールにして、シンプルなワンピース……と思ったらズボンとブーツを履いてたのでチュニックだな、これ……に身を包んでいる。

 なんだろう、見るからに「姐御」とか「姐さん」って言いたくなるような、それでいて母性もしっかり感じさせる人だ。

 側にいるだけでなんか安心するっていうか、とにかくすごい包容力に溢れた佇まいなんだよ。

 そんな表現をするとこう、ちょっと太めで肝っ玉母ちゃん系かなって思うだろ?

 かなりの美人です。

 くっきり濃い眉と大きなくりっとした目に愛嬌があって、肉感的なぷるんとした唇に健康そうな小麦色の肌で、絵に描いたような南国系の美人だ。

 しかも巨乳です。

 だけどぽっちゃりとかむっちりってタイプじゃなく、なんだろう……うん、アマゾネス!って言いたくなる逞しさがある。

 それでいて、あの胸にぎゅってされたら多分、色気とか興奮とかする以前に、子供に戻ってすっげー安心するんだろうなっていう感じ。

 肉感的な美女だけどかあちゃんオーラに溢れてる、そんな人だった。


「うん?手を動かすのが辛いかい?だったら拭いたげるよ、ほらちょっと背中を向けな」


 かあちゃん系美女はそう言うと、俺が着ていた寝巻代わりのシャツの背中をなんのためらいもなくべろりと捲り、手早く背中を脇腹を拭いてくれた。

 そのまま二枚目の手ぬぐいで胸と腹に移動しかけたので慌てて辞退して、なんとか自分で汗を拭う。

 ちょっと驚いたのが、襟足と首筋の境目あたりを拭ってから手ぬぐいを見ると、明らかに固まった血と思われる汚れが布一面についていたことだ。

 でも――それを見た瞬間、寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。


 俺、シュルケの森で森林オオカミに喰われかけてたよな?

 多分失血で意識を失う寸前に、誰かの気配を感じたと思ったけど、オオカミじゃなくて彼女だったんだろうか。

 てか、森に居た俺をどうやって見つけたんだ?

 そんな諸々の疑問がもろに顔に出ていたらしく、かあちゃん系美女は俺の手から手ぬぐいを回収すると、肩をすくめて苦笑した。


「どうやら意識はしっかりしてるし、記憶もあるみたいだね。まあ大したもんだよ、あんた。あれだけの傷が、痕も残さず綺麗さっぱり治ってるんだからさ」

「……じゃあ俺やっぱり、森林オオカミの餌になりかけてたんですね」

「あたしが駆け付けた時はまあ、なかなか酷い状態だったよ?あの森はこのところ、森林オオカミが沸いてるから調査団を入れようって話を、近隣のギルドで進めていたところだったらしいけどね」


 シュルケの森関係の依頼は一時的に取り下げって通達が昨日出たんだけど、あんたのパーティーはその直前に手続きをしたんだろうね……そう言われて、俺は思わず唇を噛みしめた。


 おそらくだけど、あのパーティーの連中は近々、シュルケの森に関する依頼が取り下げられることを知っていた。

だから囮になる新人を探していたんだ――思えば、おかしなことは幾つもあった。

 初めてパーティーの面子と顔を合わせて酒場で歓迎会やってて、便所に行こうと思って席を外した時に、すれ違った中年の冒険者らしいおっさんから「困ったことがあればすぐギルドに相談しろよ」って忠告されたり、泊まってる宿屋のおばさんがえらく俺のことを気遣うそぶりを見せたり、ギルドの受付で「何か理不尽な要求などはされていませんか?いえ、新人冒険者の方への確認の声かけですよ」って、何人ものお姉さんから言われたり。

 最初はただたんに、ベテランのパーティーにぽっと出の新人が入るもんだから、ついていけるのかどうか心配されてるんだと思ってた。

 実際、新人いびりに近いしごきみたいなことは珍しくないって聞いてたし。

 報酬を分配する時、新人だからってありえないくらい分け前が少なかったり、しんどい荷物持ちなんかを何年もやらされたりとかさ。

 だけど俺を勧誘したパーティーは全然そんなことなくて、すっごく良くしてくれてたんだ。

 でもよくよく考えてみれば、精霊の泉で手に入れた薬草を売れば、俺に投資した分を回収しても充分すぎるほどに儲けが出るんだから、奴らにとって損はない。

 冒険者になりたてのひよっこが命を落とすなんて珍しい話じゃないんだし、あれだけ新人の俺に「良くしてやってた」姿を周囲に見せておけば、そうそう怪しまれることもないだろう。

 多分あいつらはそういう手口に手慣れていて、勘のいい冒険者やギルドの職員からは怪しまれてた――だけど表だってそれを言うわけにはいかないから、皆それとなく用心するよう、遠回しに何度も言ってくれてたんだろう。

 俺は文字通り、世間知らずの田舎者だったってわけだ。


 そんなことを考えていると色々察したのか、かあちゃん系美女が「大丈夫だよ」と、背中をさすってくれた。

 口先だけじゃない労わりの情がこもった声音に、不覚だけどちょっと涙が滲んだ。


「性質の悪い奴らと手が切れたと思えばいいさ。明日ギルドに行って、パーティー脱退の手続きをすればいい。それにこう言っちゃなんだけど、悪いことばっかりでもないだろ?あんた、結構とんでもない異能持ちじゃないか」

「えっ……異能、ですか?」


 そんなもんがあったら、少なくとも生まれた時教会で受ける洗礼の儀式か、もしくは十五歳で受ける成人の儀式の時にわかってるはずだ。

 魔術適性はほどほどだけど、かといってそれで身を立てるには至らない……教区の司祭様からは、そんなことを言われたおぼえがある。

 だから俺は戦闘職を目指して、地元のギルドで暇を見つけては訓練してたんだけど――


「俺、成人の儀式の時も、特に何も言われなかったですけど」

「ふうん……じゃあ、自分では気付いてないんだねぇ。まあ偶にいるんだけどね、そういうのは。発動するきっかけがなかったからわからなかった、なんてのはそう珍しくもないことさ」


 かあちゃん系美女はそういうと、ぐっと身を乗り出して俺の方を覗き込んだ。

 えっとあのちょっと、もうちょい後ろに下がってもらいたいんですけど……その、チュニックの胸元がすっげーむっちりしててなんていうか、目のやり場に困ります。

 何この、色気と母性の絶妙なブレンド。


「あんたの怪我、どうやって治したと思う?」


 その問いかけに俺はしばらくの間考え込んで――全身の血の気がひいた。

 控えめにいっても俺は、瀕死レベルの怪我をしていたはずだ。

 二十一世紀の日本ほど医療技術が発達してなくて、代わりに魔法が発達してるこの世界において、生死にかかわるような怪我を治す方法はそう多くない。

 いやまあ現代日本だってさ、治療が間に合わなければ助からないし、死んだ人間を生き返らせる方法はまだ見つかってないんだから、ある意味こっちの世界よりは劣っているのかもしれないけど。

 それはさておき、瀕死レベルの怪我人をどうやって治療するのか。

 まずひとつは、めちゃくちゃ高価な回復薬を使う。

 俺みたいな駆け出し冒険者じゃ到底手が出ない値段だけど、少なくとも紫クラスの冒険者なら、まあだいたい持っているとのことだ……あの赤蛇のパーティーの奴らからの受け売りだけど。

 そしてもうひとつは、治癒術師に癒しの魔術をかけてもらう。

 目の玉が飛び出るほど高価な回復薬に比べればまだ現実的な手段だけど、それでもあの傷を完全に治すとなると、金貨一枚じゃきかないはずだ。

 これまた駆け出し冒険者の俺には、手の届かない金額だ。

 そして最後――ものすごく乱暴だけどある意味合理的ともいえるのが「一度殺して生き返らせる」だろう。

 しかしこれは本当に最後の手段で、俺達が知るゲームの中によく出てくる「蘇生薬」だの「フェニックスのなんちゃら」みたいに便利かつ簡単なものではない。

 まず蘇生させるには死体の腐敗や損壊を防ぐための術式を組んで、それからかなり大がかりな陣を構築したうえで数々の触媒が必要となる……らしい。

 時間との戦いなうえに、完全な蘇生を行えるだけの術師は治癒術師よりも少ないときているんだから、やっぱり現実的な手段とはいえない。

 まあ共通してるのは、どの方法であれ、今の俺には到底払えないような金がかかるってことじゃないだろうか。

 だけど現に俺はこうやって生きてるし、身体も傷ひとつ残ってない。

 と、いうことは。


「……あの……どれくらい費用がかかったかは判らないんですが、言っていただければ必ず返済しますんで……!」


 声が震えたのは見逃してほしい。

 だって俺、パーティーに裏切られて置き去りにされて森林オオカミに喰われたと思って目が覚めたら、身売りも覚悟しなけりゃならないレベルの借金確定なんだよ。

 泣いてもいいかなって気分になるよね!!

 そんなことを考えながら涙目になっていたら、かあちゃん系美女がぷっと吹き出した。


「ちょっとあんた、そんな悲壮な顔することないだろ!心配しなくても、あたしは何もしてないよ。ほら言っただろ、あんたは結構とんでもない異能持ちだって」

「うぇ?あっ、そういえば」

「あたしが駆け付けた時、あんたは森林オオカミに喉笛を半分がた噛み切られて、命に関わるくらいの出血もあった。けどね、オオカミどもを追い払って回復薬を取り出した時、あんたの傷はびっくりするような速さでふさがり始めていたんだよ。少なくともそんな異能、あたしは今まで全く聞いたことがないよ」


 あたしの目の前で喉の噛み傷があったという間に小さくなって新しい皮膚が張り、半分千切れていた腕も綺麗に肉が埋まってくっついた――そう言われて、俺はとある能力を思い出した。


「マジかよ……ヒーリングファクターじゃん……」


 あれだほら、コードネームがクズリな、葉巻咥えてアダマンチウムの爪が出るミュータントと一緒じゃん!

 何それすごい、もしかして俺、無双への道が開けた感じ!?


 ……ってここまで一気に想像が羽ばたいた次の瞬間、気がついた。


「でもすっげー痛かった……」


 ですよねー。

 超回復持ちでも痛覚がなくなるわけじゃないっぽいし、肉体的な損傷がひどすぎたら、回復するまでは多分動けない。

 なあ……回復速度って、どうやって鍛えるわけ?

 それとも鍛えられるもんなの?

 もしかして何度も大怪我すればそのたびにレベルがあがるとか?

 そんなの絶対嫌過ぎる!

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