冬の童話祭2017 ー寒がりの強がりー
冬の女王が春の女王と交代の時期になっても塔から全く出てこないと噂が立ちはじめ、王様から御触れが出されてしばらく経った日のことでした。
とある一人の少年の耳にやっと御触れの内容が届いてきていました。
ここ最近はあまりの寒さにより、人々は部屋にこもり春の訪れを待つばかりでした。
「冬の女王様と春の女王様を交代させた者には、好きな褒美か…おもしろそうだ!
でも、それよりこの寒さが続くのをどうにかしてもらいたいな…うぅっ、寒い寒い。」
寒がりの少年はため息まじりに呟き、暖炉の火を強くしました。
少年はあんまりにも寒がりなために、冬場、友達と外で遊ぶことさえできませんでした。それにこんな天気の状態がいつまでも続いたら誰だって外に出れなくなります。
少年は好奇心旺盛で、冬が好きでいつか外で思いっきり雪遊びをしたいと思っていました。
「そうだ、寒さに耐えて、塔まで行って冬の女王様を説得して、春の女王様と交代してもらってから、王様に寒さに強い体にしてもらおう!」
少年はそう思いつき、せっせと外に出る準備をしました。
少年は冬中ずっと家にこもってしまうので冬の外の世界がどれほど寒いのかわからなく不安でたまりません、考えた結果ある方法を思いつきました。
「そうだ!
できるだけたくさんの服を着ていこう。
それと暖炉でできるだけ温まってから出よう!」
服を何枚も重ね着をし、できる限りの温かい格好をして暖炉でのぼせるほど温まり、外に出ました。
少し歩きにくいけど問題はなさそうです。
「あれ?思ったよりも寒くないかも? よし!これなら塔まですぐに行けるぞ!寒くならないためには…うーん…どうしようかな?」
考えた結果、少年は寒くならないために走って行きました。
たくさん服を着て走る少年、服が少し重く疲れも早くやってきましたが、我慢して走り続けました。
そうするとだんだん暑いような気がしてきました。
すると塔がだんだん大きくなってきそして塔のふもとのたどり着きました。
「はぁはぁ…疲れたぁ…」
そう言い塔を見上げました。大きくそびえ立つ塔、いったい何階まであるのか全くわからないほど大きい塔。
「わぁ…やっぱりおっきいなぁ。
よしっ!!あともう少しだ!頑張るぞ!」
気合を入れ直し塔の中へ入りました。
ここでも寒くにならないために塔の階段を駆け上がる少年、この頃にはひたいにはうっすら汗さえ滲んできました。
ズンズン登っていくうちに周り様子がすこし変わってきました。
だんだん寒くなってきたのです。
「あれ?おかしいな。さっきまで少し暑いくらいだったのに…」
塔を登るたびに寒くなってきていました。壁まで氷で張り付いています。
少年は汗が冷えとても寒くガタガタと震え始めました。
「さ、寒い…でもこんなところで諦めるわけにはいかない…絶対に冬の女王様に会いに行って説得する!」
ブルブルと震えながら重い足取りでやっと塔の頂上までたどり着きました。
氷で固く閉じられた扉がみえました。
ーガタガタ。ブルブル。…コンコンー
震える手で扉を叩くと
「久々の来客ね、いったい、だぁれ?」
と氷柱のような細く割れそうな声が聞こえました。
「ぼ、僕は町の少年です。冬の女王様にお願いがあって来ました。」
緊張と寒さが混ざりつつ、震えながら声を発した。
「お願い?それは何かしら?」
ツンとした声が響く
「春の女王様と交代して欲しいのです。王様も町のみんなも交代が遅く冬がなかなか終わらず、とても困っています。」
どうすれば伝わるか考えながら話した。
「ごめんなさい。それはできないわ…みんながみんな寒さを嫌って家から出ないし、さむーい私のことも嫌っているみたいなのだから私は塔にこもってしまおうと思ったの。」
悲しそうに冬の女王は言った。
「そんな…塔から離れないと困る人がたくさんいるんですよ?
春の女王様だって…お願いします。出て来てください。
冬の女王様だって、そんなところに居続けるなんて体にも良くないです。」
焦りながら伝えようと努力した。
「たしかに春の女王は私の寒さの力があると来れなくて困るのは重々承知してるわ、でもみんな私の寒さを嫌ってる。
出たって居場所なんかないわ。」
「みんな寒いのが嫌いなわけじゃないんです、ただ少し苦手なだけです。
僕だって寒さは苦手だけど、冬は好きです。
今日は冬の外に出れるようになるために来たと行っても過言じゃないぐらいです。
きっと、冬の女王様のことも嫌いじゃないのです。なかなか話しにくいだけだと思うのです。みんな慣れてないだけです。
どうかもっと冬の良さを、冬の女王様の良さを教えるために春の女王と交代してください。」
「苦手…嫌いじゃなくて?慣れてないだけなの?
確かに貴方は寒さが苦手なのにわざわざ寒い中来てくれたね。冬が好きなんてとても嬉しい。
それに私とこんなにおしゃべりしてくれてるわ、もしかするとみんなもしゃべってくれるのかも…
でもダメ、出れないの…私の寒さで扉が凍って開かないの。外から蹴り破ってくれたら出れるかも…お願いできるかしら?」
「お安い御用です。頑張ります!
危ないので少し離れててください。」
少年はドアに向かって体当たりをした。
ードンっー
ドアはなかなか開かない。
「くそー、服がクッションになってるのか?なかなか開かない!」
防寒具や服をある程度脱ぎ、薄着になった。
「うぅっ、寒い!」
「やっぱり、寒いよね、ごめんなさい。」
悲しそうな声が扉の向こうから聞こえてきた
「い、いえ、全然平気です!全く寒くないです!今すぐ出してあげますので待っててください!!」
少年は強がりを言いつつブルブル震えて居た。
そして、少年は力一杯体当たりをしだした。
ードン!ドン!ドン!!!ギィッ…ー
やっと、ドアがおもーく開いた。
暗く寒い部屋の中、冬の女王はびっくりしたような嬉しそうな顔をしながら呟くように言った。
「ありがとう。王様には伝えとくわ。
また来年に会いましょうね。」
綺麗な顔でニッコリ笑い、塔からキラキラと風のように去って言った。
外はキラキラと雪が溶け、暖かな日差しが降り注ぎ、木には新芽が出始めていた。
眩しい日差しの中、春の女王がふんわりと花の香りをさせながら現れた。
「ありがとう。貴方のおかげで春が訪れました。
これからは暖かな季節。皆様に春の訪れをお伝えいただけたら嬉しいです。」
ニコニコと丁寧にお辞儀をした。
「わかりました!みんなにはちゃんと伝えておきます!」
少年もつられてニコニコとお辞儀をし、手を振り塔から降り、走り去っていった。
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町の広場でみんなに春の訪れを伝えていると、冬の女王から話を聞いた王様が少年に会いにやってきた。
「よくやった、君になんでも好きな褒美をやろう。さぁ、望みを言ってごらん?」
「冬に外で遊べるような寒さに強い体にしてください!
…と思ったのですが、冬の女王様に会いにいった時に寒さに強い体を冬の女王様からもらいました。
なので、もうご褒美はいりません。」
「本当にそれでいいのか?何より無事に冬の女王と春の女王が交代できてよかった。本当に助かった、ありがとう。」
王様はにこやかに笑い、春を歓迎し、冬にもお礼をつぶやいた。
少年は、今年の冬は外で思いっきり遊べるのを楽しみにしつつ、春の到来を祝うお祭りを町のみんなとし、思いっきり楽しんだ。
いつもよりも勇敢に強くみえる自分を少年はすこし誇らしく思いニコニコとわらった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。寒さもたまには悪くないと思えたら嬉しいです。