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白雪姫を殺した幸福なお妃様

作者: 花鳥

昔々、白雪姫のお妃様がお妃様に成る前の貴族の娘であった頃のお話です。

幼いお妃様はお世辞にも性格の良いとは言えず、周りから嫌われておりました。

なにをしても周りから疎まれ、友達の一人もいない幼いお妃様はますます性格はねじくれていく一方です。

そんな幼いお妃様でしたが、容姿は世界で一番美しいかたでした。

それをお妃様も自覚し、心の拠り所にしていました。

けれど、性格が悪く嫌われ者では、誰もその容姿を褒めてはくれません。

そのことで余計に幼いお妃様の心はねじくれました。


そんな幼いお妃様は一人、屋敷の物置にしまわれていたお妃様の手の中にすっぽりと納まるほど小さな美しい手鏡を見つけました。

その鏡を見つけたお妃様は、その鏡に映る美しい自分の姿を見ながら「わたくしは、きれい?」と自問するようにいいました。

もちろん、そんなことをしても答えなどあるはずないのですが、その時は驚くことに手の中にある鏡から声がしたのです。


「はい。貴女は綺麗です」


お妃様はビックリして、鏡を凝視しました。

そこに映るのは驚愕の顔を浮かべながらも美しい自分の姿だけです。思わず、お妃様はもう一度「わたくしは、きれい?」と問いかけました。

すると再び「はい、貴女は綺麗です」と確かに鏡から返事が返ってきました。

お妃様はただただ茫然と驚くことしかできませんでした。



その鏡は古い古い時代に作られ、いつしか命を持つようになりました。命を持った鏡は自分が物をそのまま映す性質の通り、「真実しか言えない」ことを自然と理解していました。

それと同時に「真実を言うものの末路」も長い年月人間を映す中で知っていました。

様々な人間の手にその鏡は渡りましたが、そのたびに真実を言ってしまったがために権力者に疎まれた者、殺された者を映し出しその者たちと同じ末路を自分が辿ることを理解していました。

そのため、鏡は命を得ても決して話すことはしませんでした。

自分は真実しか言えないのだから。


けれど、泣きそうな顔で「わたくしは、きれい?」と鏡に投げかける美しい少女を映した鏡はとても可哀想だと思い思わず言ってしまったのです。


「はい、貴女は綺麗です」と真実を話してしまいました。


そして、少女は驚愕の顔を映すとほんの少し後悔しました。

気味の悪い手鏡だと割られてしまうのではないかと思ったからです。


けれど、少女はそんなことはしませんでした。

少女は何度も鏡に向かって質問を投げかけました。

それに対して鏡は全て真実を答えました。


少女は町で一番、国で一番美しいのはとだんだんとその質問のレベルが上がり最後には

「かがみよ、かがみ、せかいでいちばん うつくしいのは、だれ?」と問いかけました。


それに対し、鏡は真実を話します。


「それは、貴女です」


その答えに少女は大変喜び、それはそれは美しい笑みを鏡に映したのです。

自分に向けられた初めて見た美しい笑みに鏡は魅せられてしまいました。

そして、少女の笑みを永遠に映していたいと心から思ってしまったのです。



幼いお妃様は鏡が自分を綺麗だとと答えるのを聞いている内に、じわじわととてつもない歓喜が沸き起こりました。

今まで誰も認めてくれなかった自分の唯一最も誇る容姿を認められたことは、長く鬱屈していたお妃様にとっては何よりも欲しかった言葉だったのです。

真実を話すその鏡はお妃様の鬱屈した心にキラキラとした美しい輝きをもたらしたのです

鏡はお妃様にとってかけがえのないものになりました。


それから、毎日お妃様は鏡に色んなことを問いかけ続けました。

鏡は世界で美しいため安心して賞賛できるお妃様が大好きでしたし、お妃様は偽りなく自分を賞賛する鏡が大好きでした。

そうする内に、鏡とお妃様は仲良くなり友達になってゆきました。



世界で一番美しいお妃様は年頃になると王の元に嫁ぎました。

もちろんお妃様の友達である鏡も一緒です。

性格の悪さはまったく改善されていませんでしたが、鏡によって自分の容姿に絶対の自信を持ち堂々とするお妃様は魑魅魍魎の巣食う王宮で生き生きと陰謀と策略を練りながら暮らしていました。

そんなお妃様でしたが、毎日友達の鏡とお話しすること変わりません。鏡の答える言葉にとびきりの笑顔で応えていました。


彼らはそれなりに幸福でした。



白雪姫が世界で一番美しくなるその日が来るまでは。


お妃様はいつものように鏡に問いかけます。


「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは、誰?」


いつもなら「はい、貴女です」と鏡は答えるはずです。

けれど、鏡は何も言いません。

お妃様は首を傾げてまた問いかけますが、何も鏡は答えません。

別の質問を問いかけますが、それでも鏡は言いません。

何度も質問している内にお妃様は気が付いてしまったのです。


自分が世界で一番美しくなくなってしまったことを


鏡は昔言っていました。


「なぜ今まで喋らなかったの?」という質問に

「望まぬ真実を言う鏡など壊される運命ですからね。だから、真実しか言えない私にとって世界で一番美しい貴女は唯一安心して話すことの出来る存在です」


その時、鏡にとって唯一の存在であることがとても嬉しかったことを覚えています。

けれど、その言葉を思い出したお妃様は、自分が世界で一番美しくなくなってしまったために、友達の鏡が何も答えられなくなってしまったのだと理解しました。。

世界で一番美しくなくなってしまったために、お妃様は唯一の友達を無くしたのです。


そして、お妃様は自分よりも美しいかもしれないものを見つけては陰で殺していきました。それは自分の娘の白雪姫であっても例外なく殺しました。


そして、白雪姫を殺した後、鏡に問いかけました。


「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは、誰?」


鏡は答えました。


「・・・・・・それは、貴女です」


鏡の声はとても苦しそうでしたが、お妃様は久しぶりに聞くことの出来た鏡の声に涙を流して喜びました。


そして、お妃様は問いかけるのです。


「鏡よ、鏡。わたくしはお前だけが世界で一番大切よ。お前はわたくしが世界で一番大切ですか?」


何度か問いかけたくて、でも真実を知るのが嫌で問いかけなかった質問を鏡にしました。

鏡が大切であればあるほど、いいえと言われた時お妃様は耐えられないからです。

お妃様は、いいえと答えたら鏡を割ってその欠片を使って自殺してやろうと思いながら答えを待ちます。


そして、鏡は答えました。


「はい。私は貴女が誰よりも大切で愛しています」


その答えに、お妃様は安堵と嬉しさのあまり泣き崩れました。

そして、鏡を抱きしめて言うのです。


「ならば、例え私の望む答えでなかったとしても、真実を答えなさい。お前が沈黙すれば、私はまた孤独の中を歩かなければならなくなるのです」


鏡はその言葉に泣きそうな声で答えます。


「貴女の望まぬ答えを言うことが私には出来なかったのです。「世界で一番美しい」と言えない私は、賞賛の言葉を言えない私は、貴女に捨てられてしまうのではないかと思ってしまった。貴女が娘を殺すときも私は自分のことしか考えていませんでした。こんな弱くずるい私をどうか許さないでください。 でも、どうか信じてください。誰よりも貴女を愛しています」


二人は自分たちが互いに世界で一番大切に思っていることを心から実感することが出来ました。

そして、二人は今まで以上にかけがえのない友達になり、幸せな毎日を取り戻しました。

もう、お妃様は自分が世界で一番美しくなくても気にしません。

なぜなら、「鏡にとって世界で一番大切なのは自分」という一番欲しかった答えをお妃様は得たのだから。


だから、お妃様が生き返った白雪姫に真っ赤な鉄の靴を履かされ殺されたとしても二人は幸福でした。


鏡はお妃様の懐の中で、お妃様が力尽き死ぬと同時に自ら割れました。

二人は同時に死に、そして地獄であっても、一緒に居られたのでとてもとても幸せでした。


本当に欲しいものが手に入れば人はそれだけで幸福なのです。


おしまい

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