(前篇)
三好愛美はクラスでも人気者だった。可愛らしい容姿と親しみやすい人柄で、周囲の人気を集めている。しかし、愛美は現状の人気に満足していなかった。
同じクラスに、中津川波奈という生徒がいた。波奈は愛美とは正反対で、背が高く、スタイルの良い美人だ。成績は良いが、コミュニケーションが苦手なタイプだった。しかし、その容姿は彼女の苦手な部分など問題にならないほど抜きん出ていた。
波奈は愛美の人気を脅かす存在だったのだ。実際、男子の人気はふたりで二分している。波奈が教室に居ると、クラスの半分ほどの男子の視線が波奈に向けられる。それが愛美には許せなかった。全員が愛美の居る空間を見ていて欲しかった。
なぜ、愛想よく振舞っている自分が、全くコミュニケーションをとろうともしない波奈と同等に扱われるのか理解できなかった。あの男子達の視線を、自分の方へ向かせるにはどうしたら良いか? 愛美は考えた。
愛美の出した答えは、波奈と友達になって、常に一緒に居る事だった。愛美にとっては、たとえ波奈への視線であったとしても、自分の居る空間への視線は、全て自分に向けられた視線であると思うことが出来る。愛美とは、それほど思い込みの激しい、自己中心的な娘であった。
得意のコミュニケーション能力を駆使して、愛美は波奈に近付いた。愛美にとっての波奈は、自分に注目を集めるための道具にすぎなかった。しかし、波奈にとっての愛美は親友となった。
愛美の思惑通り、男子達の視線は、愛美と波奈がそろっている空間に集中する様になった。
そんな中学生活も1年が過ぎようとしていた。愛美は授業中であるにも関わらず、体育の授業でサッカーをやっている3年男子を眺めていた。その中にいるひとりの少年が気になっていた。
「あの人、カッコイイ!」
もちろん、心の中で言った言葉だ。
授業の後、カッコイイ男子が誰であるかの調査が始まった。学校内のカッコイイ男子なんてそんなに多くは無い。すぐに3年生の高橋誠であることが判明した。
愛美は誠の気持ちを自分に向けるための行動を開始した。しかし、自分が誠に好意を持っていることを周囲に知られてはいけないと思った。誰かと付き合っているなどという噂は、自分の人気に影響するからだ。
愛美は『私は誰のものでも無い、みんなのものです』というアイドル的思考を持っていたのだ。だから、波奈にも内緒で行動しなくてはならなかった。
まずは自らの力で情報を集めるため、誠の動向を探った。毎日早起きをして、誠の家の前で誠をまった。そして通学する誠を尾行した。
昨日まで波奈と一緒に男子の注目を集めていた昼休みも、誠の行動を監視した。時折、誠の前を横切ったり、さりげなく目を合わせようと見つめてみたりしたが、誠はそんな愛美に気付く事は無かった。
愛美は自ら男子に言い寄ったことなど無かった。今までそんな必要は無かったからだ。男子はみんな愛美を見ていたから、話をしたい男子に視線を合わせて微笑む。それだけで男子から声を掛けて来る。後は話をしながら品定めをするだけだった。
しかし、誠にはそれが通用しない。いくら愛美が視線を合わせようとしても、誠と愛美の視線が合うことは無かった。そんな誠の態度は愛美にとって誤算だった。
そうこうしているうちに卒業式の日が迫って来た。誠は3年生だから、もうすぐ卒業してしまう。焦った愛美は最終手段に出た。誠に告白をすることにしたのだ。愛美は告白などしたことは無かったが、自分に告白されて断る男子が居るはずはないと思っていた。
愛美は誰よりも早く学校に行き、誠の靴入れに手紙を入れた。もちろん宛名は書いたが、差出人は書かなかった。手紙の差出人が愛美であることは、万が一にも他の生徒に知られてはならなかったからだ。
誠が登校して来た。校舎の玄関で上履きに履き替える。当然そこで愛美からの手紙に気付き、封筒を手にした。誠の友人が後ろから覗きこんでいた。
「おっ、またラブレターかよ! 良いなぁ、俺も1通くらいもらいたかったなぁ」
「まだ明日が有るぞ。明日にかけろよ」
誠は愛美からの手紙をポケットに突っ込んで教室に向かった。
後ろから友人が話しかける。
「マコトはすごいよなぁ。何通のラブレターをもらったら気が済むんだよ!」
「バーカ! 俺が出している訳じゃないんだからな。差出人に言えよ」
「じゃあ、差出人、教えろよ。どこの誰だよ」
「教えるわけ無いだろ。これを書いたヤツだって、やっとの思いで書いたはずだろう。それなのに、お前なんかに教えたら可哀想だろう」
「マコトは優しいなぁ。俺だったらみんなに自慢するけれどなぁ」
「そんなだからもらえないんだよ」
「そうかなぁ、もらえないからなんじゃねえ? お前みたいに何通ももらっていれば自慢する必要ないものなぁ」
「知るかよ!」
誠は誰にも見られない所で手紙を開いた。
『今日の昼休みに校舎の屋上に来て下さい。大切なお話が有ります。恥ずかしいので絶対に他人に言わないで下さい。』
「面倒くさいけど、仕方ないか」
そうつぶやいて、手紙をポケットに戻した。




