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室町陽菜『東雲の姫巫女』の場合

この話からしばらくコメディー成分少なめですが、ファンタジー小説としてはサクサク進んでいきます。

長編にするつもりが無いページの都合上、説明成分過多になりがちです申し訳ありません。

「はじめまして、姫巫女さま。私は姫巫女さまのお世話を承りましたソフィア・ハートクリフと申します。異なる世界でなにかれとご不便でしょう。ご要望があれば私に、何なりと申し付け下さい。」

 そう陽菜に微笑んだのは、同年代の薄紫色の長い髪の少女だった。

 ぱっちりした菫色の眸も、ニキビひとつ見当たらない色白の肌も、羨むのすら馬鹿らしい程の美少女ぶりだ。

「うぅ……。出来れば、陽菜って呼んで下さい……」

 一般庶民の陽菜が、気後れするのも無理の無い事だった。

 彼女にはお姫様と呼びたくなる程に、その動作も容姿も洗練された美しさがある。その陽菜の認識もあながち間違ってはいない。彼女は王家に縁の繋がる名門貴族の令嬢だった。

 何人もの候補の中から、姫巫女の側に仕えるに相応しい教養と見識の持ち主で、性格も重要視されて選出されているなんてことは、陽菜は思ってもいなかった。


 そんな風にソフィアと引き合わされた召喚の日から、もう数日が経っていた。

 同年代の同性ということと、この『世界』についてや常識などを教える役割をソフィアが担っている関係上、共に過ごす時間が長い事もあり、陽菜は少しずつ彼女に気を許すようになっていた。

 取り繕わない素の表情を見せるといった程度には。


 今日も朝から、旅に関する様々な準備として、何人もの人々と『姫巫女』として会見を行ってきた。

 今陽菜が身に付けているのは、純白のドレスだった。オーガンジーのケープを羽織った『姫巫女』らしい格好ではあるのだが、とにかく落ち着かない。

 ソフィアと共に居室に戻ると、陽菜は椅子にぐったりと項垂れて座る。ソフィアが陽菜のその様子に困ったように微笑んで、お茶の準備を始めるのも、この数日で馴染んだ光景だった。


(うう……みんな綺麗な人ばっかりで、凹みそう)

 彼女だけでなく、なんだかこの『世界』で会う人会う人、皆顔立ちが整った人ばかりなのだ。鑑賞するだけなら良いかもしれないが、その中でまざるのは精神的にしんどい。

(高遠先生は、馴染んでる……かなぁ。やっぱり、美形だったんだね……)

 ついさっき、神殿で立て続けに紹介されたのは、これから陽菜に仕える事になるという青年たちだった。

 真っ赤な髪の騎士さんに、水色の髪の魔術師、明るい緑の髪の神官さん、金髪の魔道具使い、チョコレート色の髪の学者さん。それぞれ、格好良い系、神秘的系、優しい系、豪快系、穏和系、というか。別のタイプの美形揃いだった。

 その『守護者』たちが、それぞれの得意分野を活かして、姫巫女の旅を護衛し、サポートしてくれるらしい。

 そう説明された陽菜だったが、その前に心が折れそうだった。

 なんとなく『混沌の渦』の『封印』は出来る気がする。

 それが陽菜の『能力』だと言うなればそうなのだろう。でも、それ以外は全く自信が無いのだ。旅の間はお荷物決定だろう。

 それなのに、周囲は皆、陽菜を尊ぶ。唯一無二の素晴らしいお方だと、褒め称える。

 自分がそこまでの存在ではないことを自覚している陽菜にとっては、それを見目麗しい美男美女に繰り返されて、正直食傷気味だった。


「……大丈夫か、陽菜?」

 静かな響きの優しい声に顔を上げると、黒い髪の男性が部屋の入り口に立っていた。馴染み深いその色にほっとする。

「高遠先生……」

「カオルさま、いくら従者といえど、女性の部屋に無断で入られるのは、頂けません」

 ソフィアが少しキツイ声を向けるのも、彼は意に介した様子はなかった。

 ソフィアが思わず身構えてしまう程の冷たい視線を向ける。

「お前たちの指図を受けるつもりはない。……陽菜が嫌だと言うなら、すぐに立ち去るが?」

「そんなことないです。先生もお茶、一緒にどうですか?」

 陽菜がそう言えば、彼は陽菜にだけ優しい微笑みを向けてくれる。

 頬が赤くなるのを自覚しながら、陽菜は自分の隣の席を彼に勧めた。

「カオルさま、訓練はどうなさったのですか?」

 しぶしぶと彼の分の茶器を出すソフィアを一瞥して、彼は冷笑を浮かべた。

「異世界の一般人が、付け焼き刃の訓練でなんとかなる程、『魔のモノ』とやらとの、戦いは、容易いものなのか?」

「それは……」

「先生は、旅に、一緒に行かないんですか?」

 言葉に詰まるソフィアの事も気にせず、焦ったように陽菜が身を乗り出した。顔にははっきりと不安だと書いてある。

「陽菜をこの『世界』の奴等に任せておけるはずがないだろう? 自分の分をわきまえて、大人しく『守られて』いる方が、お互いの為だという話だ。素人が無茶を仕出かすよりは、な」

「……そうですよね。危険な旅、なんですものね」

 それでも彼は、自分と一緒に居てくれるのだと、陽菜の表情に安堵が浮かぶ。ソフィアはそれでも不本意そうに

「ですが、先の姫巫女さまの召喚の際の、『月』の従者さまは、他の守護者の方々と勝るとも劣らぬ、素晴らしい剣士であったと伝えられています」

 そう言った。

「前の……って、二百年前の? どんな人だったのかなぁ?」

「詳しいことまでは、伝えられていないのですが……」

 興味を持った陽菜の様子に、ソフィアは記憶を辿る。

「『黒き迅雷』と呼ばれる彼の方は、異世界の細身の剣を操る姿は、迅く、鋭く、まるで稲妻の様であったとか。魔法も自在に使いこなし、先の姫巫女さまに敵の一人として寄せ付けず、その御身をお守りしたと伝えられています」

「へぇー……」

(先生とは、全然違う感じだなぁ……『召喚』されるのって、決まりとか無いのかな?)

 陽菜は、嘆息してから

「ねぇ、ソフィア。前の姫巫女さまってどんな人だったの?」

 そう問を投げかけた。

「凛として美しく。数多の困難にも立ち向かわれた勇敢なお方。共に守護者として旅をなさった後の国王陛下と、思い思われる間柄となって、この『世界』に残られ、その治世を傍らで支えられたそうです。慈悲深く、民に公平な愛を向けられたお方であったとか」

「凄い……人だね……」

(聞かなかったら、良かったかなぁ……)

 ソフィアのうっとりと並べた誉め言葉に、自分がどれだけの期待を掛けられているのかが透けて見えて、陽菜はぐったりとする。

「……後世に伝える際に、意図的に神格化したって事だろう。実際にこんな完璧な人間だったとは限らないさ」

 敬愛する存在を否定されたソフィアに、憤慨の色が浮かぶのも気にせず、彼は、陽菜に優しい声で語りかけた。ソフィアも陽菜が明らかに落ち込んでいる事に気付き、抗議の声を飲み込む。

「陽菜は陽菜で良いんだ。前の姫巫女とやらと張り合う必要はない。……なにせ、前の姫巫女に実際に会って知っている奴なんて居ないんだからな」

「先生……ありがとうございます……」

 こどもをあやす様に頭を撫でられたのは、嬉しい様な、ちょっと悔しい様な微妙な気分だった。


陽菜ちゃんの周囲だけ、若干ピンク色です。

高遠さん無意識に接触過多。駄目な大人ですねー。

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