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「なんか……色々……すみません」

大量出血表現があるので、R15タグを入れたのですけど……

いつも通りですのでご安心下さい

 くそぉ、やられた。


 陽菜が離れた一瞬の隙をつかれた。

 背後に居たクリストファーに刺されたのだと気づいたのは、遅すぎる話だが、自分の腹に生えた剣先を見てからだった。

 陽菜の方に気を取られていたのがいけなかった。騎士の野郎といけすかない王子サマ、二人がかりで陽菜の視線を遮っている。あいつらが主犯だな。


 ごぷりと血の塊を吐き出す。


 急所は地味に逸れているが、武器にご丁寧にも魔法の掛かっている気配を感じる。命中率アップと回復遅延の術式に、状態異常付加といった所か。

 クリストファーの奴、俺一人殺す為の使い捨ての武器に、魂込めすぎだろう。全身全霊が込められた、多分今のあいつの、最高の一振り。

 こんな使い方するなよな。

 本当に馬鹿な男だ。

 そんな馬鹿だからこそ、そんな馬鹿の必死の一撃だからこそ、絶対的な能力の差を覆されてしまったのだろう。

 本来ならば、クリストファーごときの一撃を避けれないはずがないんだ。


 半狂乱の陽菜を連れて、あいつらがこの場を後にする。

 俺が、生きている事を陽菜に気付かれれば、治療せざるを得なくなるだろう。

 とどめをさされなかっただけ、まだましか。


 急所は逸れたとはいえ、しっかり剣を抜いてくれたお蔭で、出血は止まる気配はない。状態異常の魔力の為に、余計に朦朧とする頭で、自分の血だまりの上でなんとか手を伸ばした。

 "倉庫" を開いて、愛刀を取り出す。

『天照』の銘が入れられた、この刀に込められた魔力は、俺の生命力を底上げしてくれる。クリストファーでは未だ到達していない高みにある、先代の『金』の守護者の最高傑作の内の一振りだ。

 呼吸が多少楽になる。

 時間さえ掛ければ、この傷も、失った血もなんとかなるだろう。『天照』にはそれだけの能力がある。


 問題は、『あいつら』が、そこまで待ってくれそうもないことだ。


『魔のモノ』の気配。数えるのも面倒な程の数が蠢いて、こちらに向かっている。ひどくゆっくり、こっちへ押し寄せてくる。

 万全なら、なんてことはない敵だ。

 でも、今の俺は、刀を振るうどころか、起き上がる事もできそうにない。


 やばい。詰んでる。


『絶望』の、文字で、脳裏が埋めつくされた。

 視界すら……暗くなる……もう、駄目なのか……俺は……死……



「おーい、生きてるか? とーるぅ?」



『透』と

 久しぶりに、自分の名を聞いた。


 へ?


 よっぽど俺は間抜けな顔をしたのだろう。

 いつも通りのマイペースな顔をした薫が、俺を見下ろして、へらっと笑っていた。 「ボロボロだなぁ」って、こんな死にかけた弟を前にして、笑っていられるって……いや、うん。薫はそーいう奴だ。

 って、迎えに来てくれたのは、嬉しいけど、今はまずい!

 薫には、俺みたいに、戦う事が出来るような技術なんて無いんだ!

『魔のモノ』が襲って来ても、今の俺じゃ、薫を守る事も出来ない……っ

 もう、遅いかもしれないけど、逃げてくれ、薫っ!


 ………………って、えーと?

 あの、うん。薫? ……うん。あ、兄貴ーっ?

 いや、薫が "倉庫" の魔法が使えるのは、知ってるけどね。

 俺が教えたんだしね?

 この『世界』に一度来て、俺と同じく『月』の属性を帯びた薫が、「魔法すげー」って、言うから、「便利そーだから、それ使える様になりたい」って言ったから、教えたけどね?


 そのガトリング砲って何ですか?

 いや、浪漫とか、そんな事は聞いて無いんだ。

 敢えての手回し式機構が魔力充填の簡易儀式で、魔力を弾に変換しているから弾切れの心配も無いって……そんな嬉しそうに語られても!

 ああ……うん。

 ……爆音で、俺の声なんて聞こえないねー


 なんか、『魔のモノ』に同情を覚えたのは、初めてだよー……


 なんか、本当に、すみません……



『魔王より酷い』という、我が一族でも最強の座の一、二を争う従兄殿には、二人の息子が居る。

 その上の息子も『異世界』経験者で、魔法的な技術の武器道具の専門家である事は知っていた。

 ……それに俺も、「偉大な親父殿を、越える迄は至らなくとも、一泡吹かせてやりたい」という気持ちは分からなくもないよ?

 でもそれを、一介の高校生が、日曜大工的に、兵器開発している理由にされても、ちょっとって思うんだけど?

 それに、どうしてその兵器を、薫が持っているって事になるんだ!?

 ……って、あのさ、そこまでやっておいて、警察とか、銃刀法違反とかって今更じゃないか?

 保管に困って薫に預けたって……一介の高校教師が、んなもん平気な顔して預かるなっ!!

 俺も確かに、この『世界』から還った後、刀抱えている自分に、ヤバいって思って、"倉庫" にしまいこんだけどさっ!


 へらへら笑う薫を見てたら、なんか疲れた。

 真面目にやってるつもりの自分が馬鹿みたいだ。肩の力が抜ける。


 傷が塞がる迄の間、今迄の話をした。

 驚いたのは、薫は、結構前からこの『世界』をウロウロしていたってことだ。十うん年も経って、二回目の召喚をされた俺に、これは根本的な原因の解決が必要だと、色々調べていたらしい。

 アフターファイブが『異世界』って、どんな生活だよ。

 時間の流れに差があるから、向こうではまだ数日だと聞いてほっとした。職場には、牡蠣に中って行った病院でインフルもらって寝込んでるって伝えてあるらしい。お大事にって課長が言ってたって……うん、すみません、本当にすみません。還ったら、連日残業してでも、何とかします。本当にすみません。


 血まみれのシャツを着替えて遺跡の外に出る。

 薫が、俺に聞いて来た。

「どうする、透? 還るか?」と、いつも通りの気楽な様子で。


 還るさ。

 その為に、さっさと陽菜を迎えに行こう。


 そう答えると、薫は「そーか」と、軽く答えた。


 何処からどんな風に情報を仕入れているのか、薫は陽菜達が今神殿に戻っている途中だということまで知っていた。

 地理に全く明るくない俺だけでは、神殿に辿り着くことができる気がしないので、薫があらかじめこの『世界』について調べていてくれた事に、心底ほっとした。

 ……ほっとしたんだけど。

 でん。と鎮座するのは、見覚えのある紺色の車体の、親父の愛車のRV車。

 ……薫? お前なんてもんまで、持ち込んでるの? ……そーだな……移動手段は必要だよな……"倉庫" ってこんな物まで入るのかー……遠い目になるのも仕方ないと思う。

 だけど、

 薫からステンレスボトルに入った珈琲を貰って、飲んでいた俺は、カーナビから「ポーン♪ 北東に三キロ先、右折です」って人工音声が流れた瞬間吹き出した。「掃除しておけよー」って……お前、どういうことなんだって、薫っ!

 俺の様子も意に介さず、ハンドルを握る薫は「あー、舌噛むなよーっ」と、端的な警告と共にアクセルを踏み込んだ。スピードの上がる中、視線を前に戻せば、いつの間にか目の前に『魔のモノ』が現れていて、薫は躊躇なくそれを撥ね飛ばした。

 慣れた様子でバックして轢き直す。もう一度前進、どこん。もう一度バック、ずこん。そして前進、どっこん。

『魔のモノ』が動かなくなったのをバックミラーで確認すると、何事もなかった様に再び車は前進した。

 ……薫……お前……

 薫の慣れた様子に反して、車体には凹みや傷があった様には見えなかっ……今、気付いた。ガソリンメーターが、満タンのまま減っていない。この『世界』で給油なんて出来るはずが無いのに。

 ……親父の愛車は、とんだカスタマイズを受けていたらしい。


 とりあえず、あれだ。なぁ、薫。

 お前、『ファンタジー』に謝っとけ。


「神殿に行く前に寄り道するぞー」と車窓を眺める俺に薫が言う。

 えーと? どういうことだ? そう聞けば、薫はこう答えた。

「『月』の名の元に喚ばれた人間の役割を果たしておこうかなぁってな」


 は?

 どういうこと


R15詐欺だと書いてても思います……


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